映画「オッペンハイマー」
2023年 アメリカ 180分 R15+
<監督>
クリストファー・ノーラン
<原作>
カイ・バート、メーティン・J・シャーウィン
『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』
<キャスト>
キリアン・マーフィー、
エミリー・ブライト、
マット・デイモン、
ロバート・ダウニー・ジュニア、
フローレンス・ピュー。
ジョッシュ・ハートネット、
ケイシー・アフレックス、
ラミー・マレック、
ケネス・ブラナー
<内容>
第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。
しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。
(映画COMより抜粋)
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世界初の原子爆弾を開発した「原爆の父」として知られる理論物理学者、ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた伝記映画。
昨年のアメリカ公開から8か月経過し、やっと日本公開。
鑑賞した上でお伝えすると、何を思って公開を先送りにしていたのか、大手の配給会社は何をびびったのか?摩訶不思議という感じですかね。色々と日本に考慮したと思うのですが、本質はそこではない気もしたのでした。
豪華俳優陣が出演してなかなかの演技、お見逃しなく。
ただ主要キャストが多すぎ~!
第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門で受賞を果たしております。
さてどのような作品内容なのか、ましてやノーラン作品ということ、たぶんわかりにくい事承知で3月30日、トーホーシネマズ上大岡にて鑑賞。公開中ですけれど、ネタバレも含みながらご紹介です(ネタバレしても全く問題ないかと、いや多少予習したほうがより楽しめるかと思ったりします)。
感想としては、なるほどなるほどそういう感じでのストーリー展開だったのか、そしてやっぱりノーラン監督作品、ちょっと頭がこんがらがってしまいました。
物語の後半からの、オッペンハイマーを糾弾する法廷劇のような「聴聞会」の場面。そこからはいやおうなしに数多く入れ替わりする登場人物、それらの現在過去の相関関係を把握するのに、私の頭はショーとしてしまうほど。
でも面白かった(この表現が適しているかどうか?)ですし、さらに今の世界においてやはり危機感を覚えたという気持になりました。
また第二次世界大戦の原爆の事を扱っている為、劇中で「ニッポン」「ヒロシマ」「ナガサキ」という言葉が出てくると、その原爆投下の出来事を知っているので、日本人としては悲しくいたたまれない気持ちにもなりました。
ただし、開発者を責めるとか、投下したアメリカを責めるとかという気持でありません。開発した者や持っている者は、使う使いたがる事は当たり前。あの当時、理研を中心として原爆開発していた日本、もし他の国より先に原爆を開発することができていたならば、間違えなく躊躇なく原爆を使用していただろうと思うと、戦争の愚かさ人間の恐ろしさをあたらめて感じた次第。
ランスフォントリア監督に言わせれば
「善も悪もあることを心得よ」
ですね。
この物語は天才物理学者オッペンハイマの苦悩の物語であると同時に、現代世界への警鐘を鳴らした作品でもあるかと思います。
そしてその根底に流れていたのは劇中にも登場しますが、
古代インドの聖典「バカヴァッド・ギーター」からの引用
「我は死神なり、世界の破壊者なり」
と
ギリシャ神話プロメテウス物語
だったのです。
この辺もそのベースになる物語などを知っていると、よりわかりやすくなるかと思います。
何度か原爆を開発したオッペンハイマーの苦悩を表現する言葉として、「我は死神なり、世界の破壊者なり」のインドの聖典の引用がでてきました。
もう一つのプロメテウス物語とは、天界から火を盗んで人間に授けたことで永遠の罰を与えられたギリシャ神話の神プロメテウス。
人間に火を与え文明の発展(火を使って武器を作り戦争を始めたりした)に貢献した見返りに、ゼウスからは罰を受けることになります。
その罰とは山頂に磔にさせ、生きながらにして毎日肝臓を巨大な鷲についばまれるのです。プロメテウスは不死であるため、彼の肝臓は夜中に再生し、のちにヘラクレスにより解放されるまでその拷問が行われていたのです。
まさに生き地獄苦痛の日々!
そのプロメテウスと原爆を開発したことで、人類にとんでもない殺戮の武器を与えてしまい、苦悩と罪悪感に縛られる人生を送ることになったオッペンハイマーを重なっていたのではないでしょうか。
◆予備知識としてさらに!◆
この作品を鑑賞するにあたって、2つの映像パートがあることを事前に知っておくとよいでしょう。
カラー映像。
オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)の視点。
モノクロ映像。
ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)の視点。
この2つの視点で時系列が目まぐるしく入れ替わって映し出されます。
そしてモノクロ映像は終戦後の出来事として頭の片隅にいれておくとよろしいかと。
ストローズとオッペンハイマーの対立軸、ストローズは水爆推進派、オッペンハイマーは反対派だから対立していくわけです。
赤狩りでスパイ容疑をかけられたオッペンハイマーの歴史
戦後冷戦下での赤狩りに合ったことがこの物語の後半大きく取り上げられています。赤狩りというのは第二次世界大戦後、アメリカ政府が共産党員とシンパを公職から追放した出来事。
実際オッペンハイマーは、赤狩りの背景で共産党ソ連のスパイ容疑をかけられました。
あと劇中にでてくるトルーマンとのワンシーン
戦後、10月にハリー・S・トルーマン大統領とホワイトハウスでオッペンハイマーは初対面した際、
「大統領、私は自分の手が血塗られているように感じます」
と語りました。
大統領はこれに憤慨し、彼のことを
「泣き虫」
と罵り、二度と会うことは無かったというエピソードも劇中にはながれておりました。
「全ては、時の権力者や政治に利用されてしまうことを心得よ!」
ですね。
ただし私の頭をショートさせてくれた、仕組まれた「聴聞会」での取り調べ場面は、予習していても追いついていけないかもしれません。
この作品、完全にわかるためには数回鑑賞する必要があるかもしれませんが、ただその点をあまり気にしなくても何かを感じることができると思います。
天才物理学者オッペンハイマーの脳とそれに結びついたかのような衝撃的な映像と音は、ときおりドキッとさせられます。
これはやはりTVやパソコンのような小さな画面で見るより、映画館でしょうね。
そして、人間が制御できないほどの核兵器を手に入れてしまった先の、おこりうる出来事を想像してしまうと・・・・。
数あるノーラン作品の中では、それでもわかりやすかったかと思います。
なかなかの作品でした。
ただアカデミー賞7部門受賞はちと多いのではと思ったり・・w
人それぞれの感じ方が異なるのは当たりまえ。
3時間のこの作品、ご覧になって貴方は何を感じるでしょうか?
5点満点中3.9
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(おまけ)
どうでもいい事なのですが、
オッペンハイマー演じるキリアン・マーフィーが過去にもブログアップしている、
映画「ムカデ人間」でヨーゼフ博士演じたディーター・ラーザーに似ていると思って観ていたのは私だけでしょうか?
物事に没頭する学者という点もそうですが、顔似ていませんかねぇ?
本当にどうでもいいことでした。