小津安二郎 初トーキー作品
映画「一人息子」
1936年(昭和11年)87分 松竹キネマ
<監督>
小津安二郎
<キャスト>
飯田蝶子、
日守新一、
坪内良子、
吉川満子、
突貫小僧(青木富雄)、
笠智衆、
浪花智子、
爆弾小僧(横山準)、
<内容>
1923年(大正2年)の信州製糸工場で女工の、おつね(飯田蝶子)は小学校の担任の大久保先生(笠智衆)から息子の良助の中学校進学について話を聴く。
母子家庭で金の余裕はないが、良助の強い思いに負けて、中学から大学までの進学と卒業後の就職での上京を許す。
1935年の信州、おつねは息子から就職したとの連絡をうけ、翌春には上京したいと考える。1936年の東京、上京したおつねは場末の一軒家で妻と子供一人で暮らす良助(日守新一)を見て幻滅する。
良助の職業は夜間の学校(夜学)の教師をしている。良助の小学校時代の担任だった大久保先生(笠智衆)も、更なる出世を目指して地元の教師を退職して上京したが、寂れたトンカツ屋を経営していた。
良助は東京での生活の困難を訴える。おつねはその不甲斐なさを責め涙するが、翌日、貧しい隣家の息子が大ケガをして、良助が入院費をあげる姿を見て誇りに思った。その後、おつねは信州に帰郷して、同僚に誇らしげに息子のことを語るのだった。
(ウィッキベディアより抜粋)
***********************
小津作品良作発見
やはり人間の本質をしっかり描いた作品になっていますね。
この作品の時代背景などは古いですが、そこに描かれているテーマは、今の時代でも共通するものでしょう。
社会的地位よりも、人間としてりっぱに生きていくことが、いかに素晴らしい事だということを教えてくれます。
ただしラストシーンでの母親は、困っている人を助けた息子の事を誇らしげに語るのですが、その表情には完全に満足はしてはいない、表情だったのを見逃しませんでしたw
やはりどこかで、自分が思うような出世をしている息子に期待をしていたのでしょうね。
小津安二郎が自らの原作を監督した、自身最初のトーキー作品。
脚本は池田忠雄と荒田正男。
後の作品に見られるコミカルさは控えめで、終始重苦しい雰囲気に包まれているのは時代のせいでしょうか。
今回初鑑賞。
ネットで流れる作品は画質音声ともちょっとクリアーでないところはありますが、逆にそれがその時代を感じ味がありました。
大正から昭和初期にかけて、この時代をけっこう反映している映画だったと思います。
自分の祖父母が現役でバリバリ働いていたような時代、日本もまだまだ先進国に比べれば貧しかった時代です。
このような時代を経て今の日本があるのですね。
そして特に主人公の生まれたのは田舎ですから、都会との格差は歴然としています。
映像、カットやアングルなど小津らしいといえばそうですが、小津監督トーキー最初の作品ということで少しその点を意識していたのか、またサイレントからトーキへの狭間も感じられる映像でした。
母親役の飯田蝶子さんは39歳。
主人公の恩師役、笠智衆さん32歳お二人の老け役には脱帽です。
そして笠智衆さんは本当にあの独特の喋り方や間が、そう演技が上手いわけでもないのですがなんとなく見ているものを納得させてしまいます。
しかし恩師の先生ですが、なんで教師を辞めて、東京へ出てから「とんかつや」になったのだろう?
そして映像には、トンカツを揚げたりしているシーンが出てきていなかった気がするのですが、まぁ細かい事は気にしない・・。
この作品を見て感じるのは、個々に出てくる人々は貧しいながらも慎ましやかな生活をしている、そして近所付き合いも東京でもあったような時代。
当時は立身出世が崇められた時代、大学への進学ともなると、末は博士か大臣か、そうとう期待されたいたと思います。
今と比べると価値観が変わったといえばそうなのでしょうが、努力して偉くなるという気構えが今よりは断然あったでしょう。
日本の国自体がまだまだ貧しい中、少しでも経済的に豊になろうと、国民一人一人一生懸命に働いていた時代でもあります。
しかし現実は厳しい、そう思った通りにならないのも世の常。
劇中では、母の知らないところで結婚もして、子供までできている。
また今の置かれている立場がゴールのように、諦め出世の欲すらなくしている始末。
何のために身体に鞭打って子供のために働いてきたのだろうと、母親はショックを受けてしまいます。
しかしこの話の中で、職業を比較差別することになっていますので、今のご時世ではたぶんアウトでしょうね。
息子は母親を東京見物させたり美味しいものでも食べさせたいのですが、いかんせんお金がない。
職場の同僚から少しばかり借りたり、嫁さんが着物を質にいれるなどして金策します。
この時代、親を大切にし敬う精神は、今以上にあったことだと思います。
そうそう屋台のラーメンを、ご馳走するシーンが出ていました。
「美味しいでしょお母さん、とくにこのおつゆが絶品なんですよ」という感じで息子がすすめていました。
スープと言わず、おつゆと言っていたのが時代を感じさせました。
やはりラーメンは時代が違っても旨街道~~ww、
映画の中に出てくる登場人物が、話をするときには笑顔が絶えないのですが、いささかその笑顔が不自然にも感じました。
これは、小津監督の指示なのだろうか?
子供の泣く演技は、え~んと泣くのですが、これは嘘泣きするようなしぐさ、誰でもできるような感じで超へたくそでしたねww
でもそれがかえって今観ると微笑ましいですが・・。
小津監督初トーキーで手探り感満載ではありますが、人情噺の秀作でした。
(画像全てお借りしました)
5点満点中3.8
一人息子フル動画