コハンスキーのナイフ研ぎとブッシュクラフト | 北欧ナイフでお気軽アウトドア

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北欧のナイフの話題や、それらを使った気軽なアウトドア、ブッシュクラフトについて書いていきます。

Kindle用電子書籍『北欧ナイフ入門 ~モーラナイフからストローメングナイフまで~』好評発売中。どうぞよろしくお願いします。

実は、ツイッターのほうにて、「モース・コハンスキーのブックレットが存在しており、そこにも有益な知識が多く詰まっている」ということを教えて頂いていました。

 

 

で、昨日、そのブックレットを発見し(kindleストアで安価で売られています)、早速『KNIFE SHARPENING』というものを購入してみました。

 

 

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これは、もともと、1999年に発行されたもので、近年のブッシュクラフト・北欧ナイフのブームに合わせ、手軽に入手できるようにkindleストアにて販売されたようですね。

 

 

ブッシュクラフト、あるいは北欧ナイフについての、「日本語での解説本」でしたら、拙著『ブッシュクラフト入門』、『北欧ナイフ入門』を推薦しておきます。

 

 

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北欧ナイフ入門 ~モーラナイフからストローメングナイフまで~
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「ブッシュクラフトの定義」を英語の意味から(接尾語のcraft)探ったり、ファーストエイドの重要性や、ウェアなどについても述べた、海外水準のブッシュクラフトの本となっています(これはのちに、海外の本を何十冊という単位で読んでわかりました)。日本初のブッシュクラフトの易しい手引きとなっています。

 

 

北欧ナイフのほうは、ナイフの入手先から、一般のナイフ本ではおまけ扱いされがちな「研ぎ」にも力を入れて書きました。モーラナイフを始めとする北欧ナイフの、やはり日本初の本格的な入門書として、広くお読みいただいております。

 

 

 

■ナイフを二つに分ける

 

ま、それはともかく、コハンスキーの本です。

この本が特徴的なのは、まず、コハンスキーは、「研ぐ対象とするナイフのエッジ要件を二つでざっくりと分ける」ということをしています。

 

 

  ・木を削る

 

  ・木を削らない

 

 

という分け方です。

そして、木を削る(それも薄く)のであれば、シングルベベルのナイフを推奨し、そのように研ぐことを勧めています。また、「それをメインとした研ぎ」をこの本で解説している、という体裁です。

 

 

小刃を付けるナイフに関しては、「木を削る際、角度がつくので綺麗に削れない」と図解と共に解説してます。

これは、私が以前書いた、「フェザースティックとコンベックスを巡る問題」と全く同じです。原理的に、フルスカンジのもののほうが、フェザースティックのようなものを削る際にはやりやすい、ということです。

 

 

■ホローグラインドの研ぎは……

 

この本でかなり特徴的なのは「ホローグラインドのナイフの研ぎ」でしょう。

通常、ホローグラインドは、刃先の「小刃部分」のみを研いでいくことになります。

 

 

ホローグラインドは、ブレードの真ん中をすいてありますから、「研いでいっても角度の変化が少なく、切れ味が保たれやすい形状」なんてどのナイフ本にも書いてあります。

 

 

実のところ、この説明は私は以前から、ちょっとうさん臭く思っていて、そこまで研ぎ減りするくらい使い込むナイフユーザーがいれば、たとえばフラットグラインドのナイフであっても、小刃部分を少し薄く削り直すとか、そのくらいはするだろう、と思っているからなのです。

 

 

それはともかく、コハンスキーのホローグラインドの研ぎ方は、かなり異様で、刃先とベベルの終端部分を砥石にくっ付けて研ぐんですよね。

 

 

 

 

1ページ分引用しておきます。

この上部の部分に、ホローグラインドのナイフの研ぎ方が載っています。

わざわざ「矢印」で、砥石と接触させることを示しています。これをやると、「裏スキの入った和式ナイフと同じ」になってしまう気がしますねぇ。

 

 

ホローグラインドのナイフは、それに適した使い方をしてやる、というのが、私としては正しい気がしますよ。

 

 

■砥石の目の細かさ

 

さて、次は「西洋の砥石の感覚」と私達の「砥石の感覚」が違うことを示す例です。

コハンスキーは、砥石の番手をあげ、「粗い」「中くらい」「細かい」「より細かい(仕上げ)」みたいなリストを作ってくれています。

 

 

それに従えば、

 

 

  ・#120(粗い)

 

  ・#150(粗い)

 

  ・#180(粗い)

 

  ・#220(中くらい)

 

  ・#240(中くらい)

 

  ・#320(中くらい)

 

  ・#400(細かい)

 

  ・#500(細かい)

 

  ・#600(細かい)

 

  ・#1200(仕上げ)

 

 

と、こんな感じ。

これは、ずいぶん私達の感覚とは違いますよね。

 

 

私も何度も書いてますが、私なんかだと#1000が「中くらい」というイメージです。

どうも、西洋では上記の感覚のほうが一般的なんじゃないかな?という気がします。

 

 

というのも、研ぎの大きな味方のランスキーというものがあります。

これは、誰でも簡単にナイフが研げるという触れ込みのものでして、かなりの人気を誇っている道具です。

 

 

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これはちゃんとベベルがついたナイフ向けですかね。

スカンジグラインド的なスタイルのナイフでは、あまり必要がありません。

 

 

それはともかく、こういうランスキーのセットを見ても、仕上げは#1000程度なんですよね。

オイルストーンでの研ぎ、砥石の感覚ってどうやら、そんな辺りみたいです。

 

 

 

■ストロップの違い

 

ストロップ……これも、ブッシュクラフト、北欧ナイフ界隈でおなじみの言葉です。

要するに「革砥石をつかい、刃先を仕上げる」という、オプショナルな研ぎなんですが、「ストロップせずんば、ナイフに非ず」みたいな方も多いようで……。

 

 

ストロップ――革砥の作り方、使い方、メリットなんかは、上記『北欧ナイフ入門』にも書いておきました――は、必須ではないとは思います。

 

 

やりたい人がやればいい、みたいなもんかなぁ、と。

もちろん、それをやることでのメリットみたいのもちゃんとあるんですよ。一例を挙げれば、ベベルが広い北欧ナイフでは、最終的に研磨剤をすり込んだ革砥石で磨くことで、ベベル面が綺麗になります(砥石での研ぎでどうしても残ってしまうバリも取れますしね)。

 

 

ですが、コハンスキーの「ストロップ」の場合、「研磨剤は使いません!」

ふつーに使い古した革のベルトを使い、250~300回程度のストロークをさせるというようなことが書いてあります。

 

 

これは、たとえばPaul Kirtleyのストロップも同様でした。

PaulはBest in Bushcraft Awards2011を受賞していたり、野外生活、ブッシュクラフトの世界ではかなりの著名人です。メルマガ的なものも購読できるので、興味のある方は調べてみてくださいね(にしても、日本のWikipediaの「主なブッシュクラフター」に、コハンスキーもポールもデイブ・カンタベリーも載ってないのはちょっとねぇ。英語版にはコハンスキーやデイブも載ってます。残念ながらポールは載ってないんですが……)。

 

 

■つまり

 

何がいいたいのか、っていうと、「ブッシュクラフトやそれに関わるナイフの扱い、メンテナンス」には色んな方向性ややり方がある、ってことなんです。

 

 

日本では全然話題になっていないけれども、海外では当たり前の「前提」として扱われているものがあったりするわけです(ファーストエイドの重要性や、地図・コンパスの使い方、ローインパクトの思想など)。

 

 

日本の情報、だけでなく世界の情報に目を向けると、「あっ!」と驚くこともいっぱいあります(ホローグラインドの研ぎとかね)。

 

 

また、うすうす疑問に思っていた日本的なブッシュクラフトが、海外のそれではバッサリ否定されていたり、逆に海外では当たり前のものが、私達からすると相当変であったり、ということもあります。日本だから考えないといけない、問題っていうのもありますしね。

 

 

海外、と一口に言えない部分はもちろんあります。

けれども、「日本のブッシュクラフトをまずは相対的に見てみる」というのは本当におすすめ。

本ブログや、拙著がそのきっかけになれば……それに勝る喜びはありません。

 

 

というわけで、今日はこんなところで。