民間史学の大展開② ー豊前王朝説と九州シンポジウム | 南船北馬のブログー日本古代史のはてな?

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日本古代史は東アジア民族移動史の一齣で、その基本矛盾は、長江文明を背景とする南船系倭王権と黄河文明を踏まえた北馬系倭王権の興亡である。天皇制は、その南船系王権の征服後、その栄光を簒奪し、大和にそそり立ったもので、君が代、日の丸はその簒奪品のひとつである。

 

民間史学の大展開②                 室伏 志畔 

 

 豊前王朝説と九州シンポジウム


  

 平野雅曠や兼川晋に先立ち大芝英雄は「市民の古代」12集に、「九州の『難波津』の発見」(I990)を発表した。これは『古事記』の安閑記に「牛を難波の大隅島と姫島の松原とに放って、……」とする一条から大芝は、今は埋め立てで消失した企救半島横の大隅島(軽易)と国東半島横の姫島の間に難波津を見、それを豊前の行橋市に比定した。そこは長狭川、祓川、今川の三川が流れ込み、三津をなす『古事記』の難波津の形状にふさわしく、その地の大坂山の向こう側に大芝は皇統の発祥地・原大和を幻視した。こ刮目すべき論から大芝は大展開に入り、一連の論を『大和朝廷の前身 豊前王朝』(同時代社)(写真右)として2004年に発刊する。これらは古田枠を越えての民間史学の90年代の大展開であった。

 その古田が90年代に「偽書疑惑」の策動に陥る中、九州王朝説に蹴られたこれら民間研究者が「古田枠」を越えて列島王権の淵源を東アジアに、また大和中心の皇統一元主義に対し、皇統の発祥・展開地を豊前の原大和に引き戻す瞠目すべき研究に乗り出せたのは、学界の教授と弟子の師弟関係を越える自由が民間史学にあったことを語る。その上で画期の「磐井の乱」の九州シンポジウムがこれらの成果に併走し、私は、記紀の読みを指示表出からする実証史学に対し、その幻想表出からする幻想史学を提唱し、古代寺址が筑紫に14寺があるのはともかく、豊前に11寺あるのに驚き、その址を豊前に訪ねる「向こう側」シリーズの執筆にあった。その豊前の廃寺の一つに四天王寺式伽藍様式の椿市廃寺址があり、その古瓦は畿内の飛鳥寺と同様式にあった。       

 

    

(椿市廃寺址の願光寺)    (三諸山の香春岳)

 そこに一堂からなる願光寺が今、侘びしく立つが、その山号が叡野山、地番は福丸で、その頭音を結ぶと叡福となる。それは畿内の聖徳太子のお墓のある叡福寺に重なる。しかも、その願光寺が蘇我馬子建立の元興寺と音を同じくする。その元興寺を別名にもつ畿内の飛鳥寺は本尊を金堂に入れようとして、てんやわんやした話を伝える。本尊が入らない金堂の設計などありえないから、これは畿内の飛鳥寺への移坐に伴う事件で、本来の元興寺はこの椿市廃寺址にあったと幻視するほかなかった。

 加えて、豊前地名の多くが畿内地名に重なる問題がある。豊前の大坂山の大坂は明治以前の表記で、椿市は現在もある大和地名として知られ、また勾金マガリカネといった特異地名も重なる。東京は明治まで江戸であったがその江戸表記が残るのは江戸川くらいで、豊前で失われたのは江戸と同じヤマト名ではないのか。それは大和表記が大和→大倭→倭と遡行でき、倭国が九州王朝なら、その淵源に倭ヤマトの国が九州のこの地にあって不思議がないのは、そこが倭国だからである。そんな疑念を持って帰阪したところ、雨で煙り見えなかった香春岳のかつての勇姿を撮った写真が届けられた。それは想いもしない三諸山で、なぜ三輸出が三諸山と別表記されるについての多年の疑問を解いた。なんのことはない畿内の大和地名は豊前の倭ヤマト地名のコピーでしかなかったのだ。こうして私は『法隆寺の向こう側』で「倭国の別顔」を書き、大芝英雄の豊前王朝説と歩調を合わすことになった。

 

  州シンポジウム「磐井の乱とは何か」

 

 そんな折、「九州古代史の会」主催で2002年に九州シンポジウム「『磐井の乱』とは何か」が、九州古代史の会の灰塚照明が音頭を取り、兼川音を軸に大芝と私を招き聞かれた。それは通説が、磐井の乱を大和朝廷に対する九州豪族・磐井の反乱とし、それを古田が九州王朝の倭王・磐井に対する大和朝廷の反乱とかつて逆転させた。しかし、それは通説と同じ畿内対九州の構図であったが、兼川は筑紫王朝対豊前王朝の九州王朝の内部対立に転換させる画期のシンポジウムとなった。私は「磐井の乱を九州域内の内部対立として取り上げたことが、どんな意味を持っていたかと云うことを、必ずや振り返ることがあるだろう」と言祝いだ。それは古田九州王朝説が記紀を首肯し神武畿内東征論に堕し、「もうひとつの九州王朝」である豊前の倭ヤマト朝廷を敵に売り渡したことへの九州王朝説内部からの批判の集大成を意味していた。そのパラダイムの大転換に百名近い聴衆が詰めかけたことに、我々の志気は大いに上がった。

 


 

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