安倍政権と最高責任者発言 ―比較・戦後敗戦論4 ― | 南船北馬のブログー日本古代史のはてな?

南船北馬のブログー日本古代史のはてな?

日本古代史は東アジア民族移動史の一齣で、その基本矛盾は、長江文明を背景とする南船系倭王権と黄河文明を踏まえた北馬系倭王権の興亡である。天皇制は、その南船系王権の征服後、その栄光を簒奪し、大和にそそり立ったもので、君が代、日の丸はその簒奪品のひとつである。

幻想史学22 古代史のはてな?

   安倍政権と最高責任者発言 

―比較・戦後敗戦論⑤ ―      室伏志畔

 

 アメリカ大統領選のトランプ優勢の開票速報を見つつ、これを書いている。これはイギリスのEU離脱問題の国民投票に続く、アメリカ大統領選における、英米の〈良識的〉とされた判断が二度にわたり完全に予想を外したことを意味する。この意味は大きい。それは〈良識的〉とされる予想が完全に体制寄りで、国民意識の流れからずれていることを示すものだ。その意味で橋下徹や木村太郎がトランプの勝利を確信的に予想していたことは、好悪は別に、現状況についての情勢分析が優っていたことを認めねばなるまい。〈写真はフォト蔵より〉

 日本では数年前、民主党政権にかけた国民の夢が、民主党政権自身によって無惨に打ち砕かれ安倍政権の誕生の背景であったように、アメリカ国民はチェンジを掲げたオバマ大統領によってま裏切られた想いがトランプ政権を生むことになったのだ。「ヒラリーは腐りきっており、トランプは人間的に腐っているが、ヒラリーを勝たしてはいけない」と木村太郎は評したが、腐敗の選択において、アメリカ国民は、中国企業やサウジアラビアやアメリカ富裕層からの献金で選挙運動をするヒラリーより、女性にすぐ手を出すが選挙資金を自己資金でしているトランプの方がまだましだとする選択をしたのである。確かにトランプの品位を欠いた言行は決して褒められたものではないが、ヒラリーの政治的腐敗は合法的に守られた世界の超富裕階級層の特権擁護と癒着しており、まったく我慢ならないからである。この選択は、二〇世紀において市民が、世界が社会主義の国家的悪より、資本家主義国家の階級的悪をよりましだとしたリアルな選択に通じ、大統領選挙において超富裕層の階級的腐敗に癒着したヒラリーより、個人的腐敗にあるトランプをまだよしとしたのである。その意味でヒラリーを支持した〈良識的〉知識人は、モッブに近いトランプ支持者をどう軽蔑しようが、彼らより保守的に振る舞ったことは否めない。

 そのトランプが日本に切るカードは、これまでの日米関係以上にきついものであろう。それによって日米摩擦は現在以上に尖鋭化することは必至である。アメリカは日本に対し基地の防衛負担額の増額を含め、自主防衛の要求を強めよう。安倍政権は中国と北朝鮮の脅威を増幅させ、トランプ政権の自己防衛負担の要求を利用し、自衛隊の増強をはかりつつ防衛費の増額をはかり、平和憲法の第九条の骨抜きを一気にはかるため、この一年半内に国民投票に打って出ると思われる。それを危機とする限り野党のさらなる敗北は必至であるが、それを好機とし、逆転の契機をそこに構築するところに、本来の野党精神の回復があるのは自明である。

 

その安倍政権の長期安定化のため、自民党は総裁任期の延長に乗り出した。しかし、そこには世間もそれを望んでいると、たかをくくっているが、それこそ崩壊の序曲の始まりであるのは、これまでの政治が語ってきたところである。私は自民党の天下は野党によって崩されるのではなく、自民党の分裂に始まると見ており、そのきっかけが小池新党の成立ではないかと見ているが、そこまでの勇気があるかを小池百合子は今、問われているかに見える。というのは、オリンピックの当初予算の四倍近い肥大化を許すほどの緩みは、安倍政権の崩壊の始まりであるからだ。 その第二次安倍内閣は二〇一二年に成立し、憲法解釈の変更を閣議決定により、秘密保護法から戦争法案を次々と進めてきた。その過程で集団的自衛権の行使容認について、小松法制局長官の答弁と政府見解との整合性を問われると、安倍首相が逆ギレし、「政府の最高責任者は私だ。選挙で審判を受けるのは私だ」と言い放ったことはよく知られている。それは、選挙に勝ったからには「何をやってもいい」という居直りに等しい。そして、意に沿わぬ発言をして小松長官を更迭し、次長の横畠裕介を内閣法制長官に昇格させた流れが、その後一貫して続いている。 それは今上天皇の「生前御退位をめぐる天皇発言」が安倍内閣にとって不都合な突出であったため、風岡典之宮内庁長官半年早く退任させ、後任に次長の山本信一郎を当て、その後任に内閣危機管理監の西村泰彦が送り込むまでに至っている。

 この天皇をも政府のコントロール下に置かんとするこの「政府の最高責任者は私だ」とする尊大な安倍晋三の発言にある思想背景は何であろう。〈写真はフォト蔵より〉

 それについて前回、安倍政権の政治的背景は、十五年戦争下で培われた安倍晋三の祖父・岸信介と軍部と裏社会の密接な関係の、戦後の持続関係にあると私はした。その軍部の指導者は三〇年代に薩長政権によって賊軍の汚名を受けた奥羽列藩同盟や、明治の冷や飯組の国々を出自とする軍人で、それが八世紀の日本国の成立以来千三百年して、二十一世紀を前後して隼人系の小泉純一郎や蝦夷系の安倍晋三が首相を出現させる背景であるとした。また裏社会との関係は満州国における麻薬取引に関係にあるとしてきた。

 つまり戦後の逆コースは、米ソ冷戦の悪化により始まり、岸信介が石橋湛山の病気引退で、それを引き継いでの岸政権が安保条約の改定によってほぼ定着した。それを弟の佐藤栄作は非核三原則の提唱の裏で、国民を虚仮にした対米追従の日本への核持ち込み容認と引き替えに沖縄の永久基地化をはかる姑息な返還を実現した。今、その孫世代の安倍晋三が平和憲法の骨抜きする戦争法案により完成化がはかられているわけだ。

 この岸―佐藤―安倍という長州政権の特徴は、三〇年代までの維新の栄光を負った長州政権とちがい、没理想の賊軍との結託による朝敵政権で、三〇年代以後の大東亜共栄圏の夢を引き継ぐものである。ここに首相の靖国神社参拝問題が事あるごとに浮上してくる理由がある。

 そこに「政府の最高責任者は私だ」という安倍晋三の言い方を引き取るとき、安倍晋三が岸や佐藤とちがい、今ひとつの朝敵・蝦夷の棟梁・安倍・安東氏の血脈にあるとい新たな問題が浮上する。朝敵とは皇統に先在した王統がその正統性を主張するがゆえに朝敵とされたのである。蝦夷は神武皇統の先在したニギハヤヒ旧皇統の正統性を主張し、熊襲は皇統に先在した金印国家・委奴イヌ国以来の南船系倭王統を主張する。それらはの八世紀以来、皇統一元を国是とする日本国にとって蛇蝎のごとく排された理由である。その安倍・安東氏の由来を書き留めた『東日流外三郡誌』が偽書とされ、排除される理由もここにある。しかし、安倍晋三にとっては安倍・安東氏は自身の出自母体であり、『東日流外三郡誌』は一族史以外ではない。

 阿倍晋三の父・安倍晋一郎は岸信介の養子に入り、その長女を妻としたが、安倍家のルーツが気になり、調べさせたところ、前九年の役(1051年)で源頼義・義家に破れ、太宰府に配流された安倍宗任の末裔に行き着く。それを祀る青森県五所川原の石搭山荒覇吐アラハバキ神社を知り、晋太郎は昭和六二年(1987年)に妻と晋三夫妻を伴って同神社に参拝する。五所川原は云うまでもない『東日流外三郡誌』の所蔵者・和田喜八郎の在所で、アラハバキ神社に深く関わる。この縁で和田喜八郎の葬式に晋三の母は出向いたと思われる。これを踏まえると晋太郎と晋三夫妻は九〇年を前に『東日流外三郡誌』の概要を知ったと思われる。このとき、安倍晋三は安倍家が正統皇統の流れにあるが故に、朝敵とされた歴史を知ったが、その阿倍家の倫理が「吾が一族の血肉は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」であったことまでは理解することはついになかった。

 明治の薩長政権の強大化の理由は、岸・佐藤家の本貫の山口県光市の田布施にあった南朝の生き残りの大室寅之介を、北朝の天皇とすげ替えた皇統の秘密に由来する。その秘密に安倍晋三の「政府の最高責任者は私だ」とする自負を接続するなら、一つは現皇室を長州の我々が作ってやったものだとする自負に加え、旧皇統の筆頭の安倍家の流れである我こそ正統皇統である以上、「国家の最高責任者は俺だ」とする自負が見え隠れする。(2016.11.10)→続く