こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

青空が広がり、穏やかな春の陽気になっていますね。

今朝は目が覚めてから、ベッドの中で鳥の鳴き声を聞いておりました。

 

「中東」の紛争は終息に向かっている状況に変化はないのだろう・・

・とスマホに手をの伸ばし、ニュースを見ますと・・・見事に期待を裏切られた感がありました。

 

古今東西の賢者の一人とされる十八世紀の哲学者

「イマヌエル・カント」は、著書『永遠平和のために』のなかで、戦争を終わらせ持続的な平和を築くための条件を示しています。


彼は、著書のなかで「汝の意志の格率が、常に同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ」と述べています。


その意味は、「行為の原則」が状況や都合によって揺らいではならず、いかなる時にも通用する普遍性を備えるべきことを説いているわけですね。


政治的決断というものは、その時々の情勢の中で下されるものですが、真に価値ある決断は、目先の利害を超えて、未来の歴史においてもなお正しいと評価されるものでなければなりませんよね。


思慮深く熟慮を重ね、普遍的原則に照らして下された決断だけが、時の試練に耐え、後世の人々から「あの時、あの指導者がいたからこそ」と称えられるのだと思います。逆に、その場しのぎの計算で下された決断は、たとえ一時的に成功したように見えても、やがて歴史の審判の前に色褪せていきます。


すべては「未来」の歴史において評価されるわけですが、今のような混乱の時代は、どのように歴史に残されるのでしょうか?・・・なんて、思ってしまいますね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?


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(AIで画像を作成)

 

前回は「NAD+ (ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)と「NAD+サルベージ経路」について、お話をさせていただきました。

 

今回は、「理論」的に考えますと・・・この「NAD+」が「老化」以外にある「疾患」の状態の改善に有用な可能性があるのではないか?

・・・というお話をしてみたいと思います。

 

「NAD+」が有用かもしれない疾患とは、「新型コロナ後遺症」

「全身性エリテマトーデス(SLE)」ということになります。

 

少しだけ長いお話になるかもしれませんので、2回にわたってお話をしてみたいと思います(今回の追記は学会参加のためなしにさせていただきます)。

 

「老化」、「新型コロナ後遺症」、「全身性エリテマトーデス(SLE)」

まったく異なる分野の疾患に対する「NAD+」の効果・・・と聞くと

不思議に思う方もいらっしゃるかもしれなませんね。

 

ヒトの細胞では、「DNA」の塩基配列そのものを変えずに遺伝子発現を調節する機構、すなわち「エピジェネティクス」が、細胞の恒常性維持、分化、老化、炎症応答に深く関与していることがわかっています。

 

代表的な機構として、「DNAメチル化」「ヒストンのアセチル化」などの修飾、クロマチン再構築が挙げられる。

 

一般に、遺伝子プロモーター領域における「DNAメチル化」は、転写抑制と関連し、ヒストン「アセチル化」はクロマチン構造を開いた状態に傾け、転写活性化を促進する。

 

一方で、これらの制御は単純な二元論で説明できるものではなく、細胞種、ゲノム局在、周辺のクロマチン環境、代謝状態に応じて動的に変化することが知られている。
 

     図1.ヒストンとDMAの関係

 

図1.に示すようにDNAは、細胞内で「ヒストン」というものに巻き付いた形で存在しているわけです。

 

なぜ、このようなお話をするのか?・・・近年、加齢に伴う「細胞老化」、自己免疫疾患である「全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)」、さらに「COVID-19後遺症(Long COVID, post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection: PASC)という、一見異なる三つの病態の間に、「エピジェネティック異常」という共通の分子基盤が存在する可能性が示されているからなのですね。

 

とくに、「DNAメチル化異常」、「ヒストンアセチル化修飾の破綻」、

「レトロトランスポゾンの脱抑制」「自然免疫センサーの慢性的活性化」、そしてNAD⁺代謝低下に伴う「サーチュイン活性の障害」は、

これらの病態を横断して理解するうえで重要な接点であると考えられているのですね(参考1,2,3,4)。

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

約25年前の話になりますが・・・「全身性エリテマトーデス(SLE)」

の病態にDNAの低メチル化状態が「ヒト内在性レトロウイルス(Human Endogenous Reterovirus:HERV)」の一部がmRNAレベルで発現しているのを基礎実験を重ね、確認していました。

 

その時は、「HERV-E clone4-1」という名称の割とレトロウイルスの構造が保存されているものでした、

レトロウイルスの構造は、

 

「LTR(転写活性領域)」-「gag(内部構造タンパク)」-「pol(逆転写酵素)」-「env(外被糖タンパク)」-「LTR(転写活性領域)」

 

という構造なのですが・・・「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患活動性が高くなると、「HERV-E clone4-1」の「gag(内部構造タンパク)部分のmRNAの発現が上昇し、治療とともに低下する現象があったわけです。

これと逆相関する形でDNAのメチル化を制御する「DNMT1」遺伝子の発現があることを見つけたわけです。

 

つまり、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患活動性が高くなると「DNMT1」mRNAの発現が低下」し、「HERV-E clone4-1」の「gag」部分のmRNAが増加しているデータが得られたわけです。

 

そこで、「DNMT1」遺伝子のプロモーター部分に付着する「転写因子」の異常が原因だろうと・・・間違った方向に進む実験を繰り返し、力尽きた・・・ということになります。25年前の話です。

 

現時点の「全身性エリテマトーデス(SLE)」は、次のように考えられています。

 

多彩な自己抗体産生、免疫複合体形成、補体活性化、I型IFNシグナルの増強を特徴とする全身性自己免疫疾患であり、

その病態形成には遺伝要因、環境要因、性差、免疫調節異常が関与する疾患であることは、昔と認識は変わりません。


近年とくに重要視されているのが、免疫細胞における「エピジェネティックス」の異常である とされているわけです(参考5,6,7)。

 

さらに現時点で、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の患者T細胞では、「DNMT1の発現低下」「ERK経路異常」を介してDNA低メチル化が生じ、通常は抑制されるべき免疫関連遺伝子の発現が亢進することが報告されています。

 

CD11a、CD70などの遺伝子はその代表例であり、低メチル化に伴う過剰発現が自己反応性の増強に関与すると考えられている 5。さらに、、では、「ヒストン修飾異常」やmiRNA異常も加わり、複数の階層で免疫恒常性が破綻している可能性が指摘されているわけです(参考7,8)


一方、近年の研究は、「全身性エリテマトーデス(SLE)」における「レトロトランスポゾン」異常にも光を当てられています。

 

「全身性エリテマトーデス(SLE)」の活動期の免疫細胞などでは「LINE-1」転写産物などの発現上昇が認められ、疾患活動性と相関することが示されています (参考9,10)。


 

「LINE-1」とは、 ヒトゲノム中に約10万個存在し、自己複製してDNA上を移動する「レトロトランスポゾン」を指します。

 

この遺伝子も「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患の活動性の

上昇とともに、その発現が増加していたわけですね。

つまり、私の検証していた「HERV-E clone4-1」だけではなく、

本来はDNA内に固定されているはずの「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」「レトロロランスポゾン」が「DNAのメチル化」の低下により、発現していた可能性が大きいと考えられますね。

 

このレトロトランスポゾン「LINE-1」の発現が増加することも報告されています(参考11)。

 

さらに「全身性エリテマトーデス(SLE)」では、「LINE-1」由来の逆転写産物やDNA:RNA複合体が、cGASやZBP1などの核酸センサーと関連して局在し、「I型インターフェロン(IFN)応答」「炎症シグナルの増幅」に寄与する可能性が報告されています(参考 12,13)。

 

 

これらの「全身性エリテマトーデス(SLE)」によるレトロトランスポゾン「LINE-1」の発現量の増加は、「DNMT-1遺伝子」などのmRNAの低下により生じた「DNAの低メチル化」が原因であろうと想像できなす。

 

しかしながら、DNAメチル化が弱くても、「ヒストン脱アセチル化」がしっかり機能すれば、「レトロトランスポゾン」の発現をかなり抑制できる可能性はあるという説が有望なのですね(参考14)。


 

この説から考えると・・・「全身性エリテマトーデス(SLE)」の活動性の高い状態では、ヒストンの「アセチル化・脱アセチル化」のメカニズムに異常が生じている可能性があるとも考えられるわけですね。

 

         (図2,DNAとヒストン)

 

もちろん、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の病態は、さらに複雑

ではあるわけですが・・・ね。

 

DNAの低メチル化状態の得られない状況でも、ヒストンを脱アセチル化してしまえば・・・これは、25年前の私の発想ですが・・・その時は、その方法が浮かびませんでした。

 

現時点で、どのように考えられているのか?・・・と言いますと次のようになります。

 

「全身性エリテマトーデス(SLE)」では、特に単球やT細胞でCD38・PARPの誘導によりNAD⁺消費が増え、「局所的なNAD⁺低下・ストレス」が起こりうる一方、全身レベルでは低活動期にNAD⁺産生も同時に高まるなど複雑です。少なくとも「NAD⁺代謝の異常」はSLE免疫細胞の特徴であり、NAD⁺を補う介入はI型IFN過剰の緩和策として検討されているのですね。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

 

参考)

1)Aging(Albany NY). 2018 Nov 3;10(11):3590-3609

The senescent cell epigenome

Na Yangら

 

2)Cells. 2022 Feb 15;11(4):672. 

Epigenetic Regulation of Cellular Senescence

Jack Crouchら

 

3)Cell. 2008 Nov 28;135(5):907-18. 

SIRT1 redistribution on chromatin promotes genomic stability but alters gene expression during aging

 Philipp Oberdoerfferら

 

4)Nature. 2019 Feb;566(7742):73-78. 

L1 drives IFN in senescent cells and promotes age-associated inflammation

Marco De Ceccoら

 

5)Transl Res. 2009 Jan;153(1):4-10. 

Epigenetic regulation and the pathogenesis of systemic lupus erythematosus

Yujun Panら

 

6)Autoimmunity. 2010 Feb;43(1):17. 

Key role of ERK pathway signaling in lupus 

GARRIELA GORELIK

 

7)Int J Clin Rheumtol. 2011 Aug;6(4):423-439. 

Epigenetics in systemic lupus erythematosus: leading the way for specific therapeutic agents 

Matlock A Jeffriesら

 

8)Int J Mol Sci. 2024 Jan 13;25(2):1019. 

Epigenetic Dysregulation in the Pathogenesis of Systemic Lupus Erythematosus

Yasuto Arakiら

 

9)Mob DNA. 2023 May 10;14(1):5. 

Expression of L1 retrotransposons in granulocytes from patients with active systemic lupus erythematosus

Kennedy C Ukagibleら

 

10)Arthritis Rheumaatol. 2016 Nov;68(11):2686-2696. 

Expression of Long Interspersed Nuclear Element 1 Retroelements and Induction of Type I Interferon in Patients With Systemic Autoimmune Disease 

Clio P Mayaraganiら

 

11)Aging Cell. 2013 Apr;12(2):247-56.

Genomes of replicatively senescent cells undergo global epigenetic changes leading to gene silencing and activation of transposable elements

Marco De Ceccoら

 

12)Mob DNA. 2024 Jun 27;15(1):14. 

Subcellular location of L1 retrotransposon-encoded ORF1p, reverse transcription products, and DNA sensors in lupus granulocytes

Fatemeh Moadabら

 

13)Front Immunol. 2019 May 8:10:1028. 

Sources of Pathogenic Nucleic Acids in Systemic Lupus Erythematosus

Tomas Mustelinら

 

14)Cell Genom. 2024 Feb 14;4(2):100498.

Locus-level L1 DNA methylation profiling reveals the epigenetic and transcriptional interplay between L1s and their integration sites

Sophie Lancianoら


  

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(自由の女神とレインボーブリッジ)
(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

例年に比べ、悪天候の日が多かったような気がしたのですが、どうやら都内近郊の「桜」の時期は終わってしまったようです。

楽しみにしていただけに残念に思います。

 

鎌倉時代末期から南北朝時代にかけての歌人・随筆家である吉田兼好(兼好法師)が作者である『徒然草(つれづれぐさ)』には、次のような文章があります。

 

「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」

 

桜は満開、月は満月だけを見るものだろうか(いや、そうではない)。散りゆく花や、雲に隠れる月にこそ趣(おもむき)がある

 

という訳になるのですが、彼はさらに次のように述べています。


咲く直前のつぼみの頃、あるいは散り果てた後の枝に思いを寄せるほうが、満開を愛でるよりもずっと味わい深い、と。

 

満開の花の下で酒を飲み騒ぐのは風流を解さぬ振る舞いであり、本当に心ある人は散りゆく花びらに名残を惜しみ、見えない月を想像して胸を満たすのだと説きます。


つまり「見えないもの」「不完全なもの」「失われゆくもの」にこそ想像力が働き、心の奥に深い情趣(あはれ)が生まれるという美意識なのだ・・・と説いて(といて)いるわけですね。

 

なるほどね・・・と納得しつつも、私は来年の桜に期待したいと思います。
 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

 

(AIで画像を作成)

 

「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)サプリ」などを摂取している・・・とか、「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)点滴」をしていると、とても調子がよい・・・などという話を聞くことが多くなっています。

 

「NMN」は、ビタミンB3から生成される、細胞のエネルギー産生と

若々しさを保つ「NAD+」の前駆体物質となりますね。

 

「NAD+」は、全細胞に存在し、エネルギー産生、サーチュイン遺伝子の活性化、「DNA修復」を担う(になう)補酵素であるとされています。

 

この「NAD+」は、加齢とともに減少し、40代でピーク時の約半分になるため、老化や代謝低下の一因とされていましたね。

 

今回は、「NAD+」が減少していくと・・・「DNA修復」の能力は低下していくわけですが、このことがヒトの健康にどのよう影響を及ぼすのか?・・・について、お話をしてみたいと思います。

 

ヒトの体を構成する約37兆個の細胞は、内因性および外因性の広範な「ゲノムストレス」に晒されて(さらされて)いると言われています。

 

「ゲノムストレス」には、どのようなものがあるか?・・・といいますと・・・

「紫外線」、「活性酸素種(ROS)」、「化学物質」、そしてDNA複製時のエラーにより、1細胞あたり1日平均5万から10万箇所ものDNA損傷が生じると推定されています(参考1)。

 

DNA損傷の数の多さに驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。

こうした状況で、「NAD+」の低下が続きますと・・・

 

このことは。ゲノムの恒常性を維持する「DNA修復システム」の破綻は、変異の蓄積を招き、がん化、神経変性、そして個体老化を加速させると考えられているのですね。

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

では、「NAD+」はどのようなメカニズムにより損傷したDNAを修復していくのでしょうか?

 

「DNA修復」の初期応答において中核を担うのが、「PARP1(ポリADPリボースポリメラーゼ1)であることが知られています。

DNAに傷がついた際、真っ先に駆けつけて修復を促進する重要な「センサー」の役割を果たしているわけですね。

 

 

「PARP1」はDNA切断部位を迅速に認識し、「NAD+」を基質として消費しながら、標的タンパク質へ「ポリADPリボース(PAR)鎖」というものを付加するわけです(PARylation)。

 

この「ポリADPリボース(PAR)鎖」が足場(scaffold)となり、各種修復因子が損傷部位へ集積することが知られています(参考2,3)。

 

上記のメカニズムがきちんと機能すれば、何も問題はないわけですが・・・

近年の「老化研究」における重要な知見は、加齢に伴う細胞内「NAD+」濃度の著明な低下であると報告されています(参考4)。

 

そして、このNAD+」の枯渇(こかつ)が、「PARP1」や「サーチュイン」の活性を制限し、「DNA修復能」の減弱を引き起こす主要因であることが明らかになってきたというのですね。

 

NAD+低下 → SIRT1/PARP1活性不全 → DNA修復不全

 

上記のように「NAD+」の低下は、「元気がなくなる」とか「肥満」

になりやすくなる・・・などということばかりでなく、1細胞あたり

1日平均5万から10万箇所ものDNA損傷を残したまま、日々を生きる

ということになりますので・・・

 

これは「癌の発生」や「老化細胞」の増加につながっていく可能性が

高いということになるかもしれませんね。

 

素敵な1週間をお過ごし下さいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>4月14日

 

今回は、老化に伴って減少する「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)についてお話をさせていただきました。

 

「NAD+」の低下により、疲れやすくなるといった生易しい(なまやさしい)問題ばかりではなく、1細胞あたり1日平均5万から10万箇所程度生じるとされる「DNA損傷」を修復できないまま、日々を過ごしていかなくてはならない・・・という重大な問題が生じてくるわけですね。

 

「NAD+」の性質をもう少し詳しく見てみたいと思います。

 

まず、「NAD+」は、組織ごとにプールされて存在することが分かっています。


しかしながら・・・もちろん、ヒトが生まれた時から「NAD⁺」は細胞内で常に消費されています。

 

それと同時に、「NAD⁺」の消費から生まれる分解産物を再利用して、効率よく「NAD+」を再合成する経路があるわけです。

 

これが「NAD+のサルベージ経路」ということになります。

 

これを示した図が、以下のようになります。



(JTKクリニック資料より)

 

少し分かりにくいかもしれませんが・・・律速酵素であるNAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)」

 

「ニコチンアミド(NAM)」を「NMN」に変換し、続いてNMNAT(ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ)」がNAD+を再合成することが知られています(参考5)

少しわかりやすくお話をしますと・・・私たちの体内では、「NAD+」を消費し、そのカスとして「NAM(ニコチンアミド)」が残ります。


これをそのまま捨てず、「NAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)」いう酵素を使って再び「「ニコチンアミド(NAM)」」「NMN」へと作り直し、さらにNMNAT(ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ)」という酵素

を用いて、「NAD+」を作るというわけですね。

 

「NAD+」を消費した後に残る「「NAM(ニコチンアミド)」を「リサイクル」して、再び「NAD+」を作るというメカニズムが存在するわけですね。

この「リサイクル」のメカニズムが「NAD+のサルベージ経路」ということになりますね。

 

実際に・・・ヒトの体内の「NAD+」の大部分(約90%以上)は、このリサイクルによって賄われ(まかなわれ)ています。

 

これにより、エネルギー代謝やシグナル伝達に必要な細胞内の「NAD+の恒常性」が保たれている・・・ことになりますね。

 

正確には「若い年代では・・・」という条件がつきます。


残念ながら、この経路で最も重要な酵素である「NAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)」活性が、加齢とともに低下してしまうのですね。


「NAMPT」の活性の低下 →→→ リサイクル効率が落ちる→ 

結果として「NAD+」の減少 ということになるわけです。

さらに最近の知見では「NAD+」が「消費型酵素」の基質として、

とても、大量に消費されることが分かってきたわけです。


どのようなものが「NAD+」を大量に消費してしまうのでしょうか?
主要な「NAD+」消費酵素は以下の3群となります。

【1】PARPファミリー: DNA修復およびゲノム安定性維持。

【2.】サーチュイン(SIRT1-7: エピジェネティック制御および代謝調節。

【3】NAD+グリコヒドロラーゼ(CD38, CD157): NAD+分解およびカルシウムシグナル。

【1】は本文内でご紹介したものですね。


さらに興味深いこと・・・「NAD+低下」と「DNA修復障害」は、孤立した現象ではなく、相互に増幅し合う悪循環を形成するということが報告されています。

 

Chiniらは2024年のAging Cell誌総説で、この悪循環の全体像を以下のように整理しています(参考6)。


その内容を見てみますと・・・


まず、「代謝ストレス」や「DNA損傷」が「PARP1」を活性化し、「NAD+」が消費され、その量が低下します。
 

この「NAD+」の低下は「サーチュイン1(SIRT1)」活性を抑制し、DNA修復効率やクロマチン維持機能が低下します。

修復されない「DNA損傷」が蓄積すると、細胞は「p16」や「p21」といった細胞周期阻害因子を発現します。


細胞を分裂させるために働く「細胞周期」がストップしますと、「細胞老化(cellular senescence)」の状態になってしまいますよね。
 

「老化細胞」は、「SASP(老化関連分泌表現型)」という炎症性サイトカインなどを分泌して、周囲の免疫細胞やマクロファージの表面に「CD38」などの発現を促進(そくしん)します。

この「CD38」の増加は、組織全体の「NAD+」をさらに分解し、全体的な「NAD+」レベルを低下させます。
 

そして「NAD+」がさらに低下した状況では、「PARP1」および「サーチュイン1(SIRT1)」の機能をいっそう障害し、「DNA損傷」の蓄積「老化細胞」の増加を加速させるということになります(参考7,8)。

この「悪循環」は組織レベルで進行し、臓器機能の低下、フレイル(虚弱)、加齢性疾患の発症につながっていくというわけです。

 

「心臓」においても、加齢に伴う「NAD+」量の低下が報告されており、心機能の加齢性変化との関連が指摘されているのですね

(参考9)。

では、最後に加齢により「NAD+のサルベージ経路」の機能が低下し、「NAD+」が低下し、「DNAの修復障害」が起こっている状況で

「NMNサプリ」「NAD+点滴」は、どのような意味を持っているのでしょうか?


(JTKクリニック資料より)

 

「 NMNサプリメント」服用の意味は、リサイクル工程の「ショートカット」であると言えます。

本来であれば、NAM →(NAMPT)→ NMN」というステップが必要ですが、

「NAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)」の能力は加齢で衰え(おとろえ)ていますよね。

 

「NMN」を直接摂取することで、衰えた「NAMPT」を飛ばして(ショートカットして)、その次の工程である「NMN → NAD+」へスムーズに進めることができます。

つまり、「NMNサプリ」のメリットとは、 細胞内での「NAD+」の合成を効率的にブーストでき、サーチュイン遺伝子の活性化やエネルギー代謝の改善が期待できるようになります。

一方で、「NAD+点滴」の意味は、外部からの「直接的なNAD+の大量補給」ということになります。

「NAD+点滴」は、「NMNサプリメント」とは異なるアプローチでNAD+レベルに働きかけます。

「NMNサプリ」は、消化管での代謝や、肝臓での「初回通過効果」を受けて、その効果には個人差が生じるとされていますが

 

「NAD+点滴」は、こうした影響を受けずに直接血中に「NAD+」そのものを送り込みます。 これにより、全身の組織や細胞へ迅速に「NAD+」を届けることを狙って(になって)います。

そのメリットは、 経口摂取よりも血中濃度を急激に高めることができ、脳の認知機能へのアプローチや、強い疲労感の回復などを目的として利用されます。

ここで、浮かんでくる疑問は、「老化細胞」を減らすことは周囲の免疫細胞の「CD38」を減らすことになりますので、「NAD+」の大量消費を改善することができるのでしょうか?

答えとしては、理論的には「YES(イエス)」であり、動物実験レベルでは支持するエビデンスが得られているということになります。

ただし、いくつかの重要な留意点があります。

まず、老化細胞→SASP→CD38→NAD+低下という因果経路が確立されています。

そして・・「老化細胞除去」が「NAD+レベル」を部分的に回復させるエビデンスがあります。

Kirkland らのNature Medicine総説(2022年)では、「老化細胞」がSASPを介してマクロファージ表面の「CD38」を活性化し

組織内の「NAD+レベル」を減少させること、そしてセノリティクス(老化細胞除去薬)が組織の「NAD+レベル」を部分的に回復させることが記載されています(参考10)
 

さて、あなたは「NAD+」の濃度を維持しなから、「老化細胞」を

除去できる日を待ちますか?爆  笑

 

それとも「老化細胞」を除去できる日がきて、その時に「NAD+」の濃度が増加するのを待ちますか?笑い泣き

 

今回も最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Mutagenesis. 2004 May;19(3):169-85. 

Endogenous DNA damage in humans: a review of quantitative data

Rinne De Bontら

 

2)Cancer Res. 2012 Nov 1;72(21):5588-99. 

Trapping of PARP1 and PARP2 by Clinical PARP Inhibitors

Junko Muraiら

 

3)Nat Commun. 2018 Feb 27;9(1):844. 

NAD+ analog reveals PARP-1 substrate-blocking mechanism and allosteric communication from catalytic center to DNA-binding domains

Marie-Frabce Langelierら

 

4)Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Mar 3;112(9):2876-81. 

In vivo NAD assay reveals the intracellular NAD contents and redox state in healthy human brain and their age dependences

Xiao-Hong Zhuら

 

5)Biochem Soc Trans. 2019 Feb 28;47(1):119-130.
Keeping the balance in NAD metabolism
Øyvind Strømlandら

 

6)Aging Cell. 2024 Jan;23(1):e13920.
 NAD metabolism: Role in senescence regulation and aging
Claudia Christiano Silva Chiniら

 

7)Front Immunol . 2025 Jun 2:16:1579924.
 Unveiling the role of NAD glycohydrolase CD38 in aging and age-related diseases: insights from bibliometric analysis and comprehensive review
Xianghui Zhaoら

8)Mol Biol Cell. 2019 Sep 15;30(20):2584-2597.
 NAD+ consumption by PARP1 in response to DNA damage triggers metabolic shift critical for damaged cell survival
Michael M Murataら

 

9)Circulation. 2021 Nov 30;144(22):1795-1817.
NAD+ Metabolism in Cardiac Health, Aging, and Disease
Mahmoud Abdellatifら

 

10)Biochem Biophys Res Commun 2019 May 28;513(2):486-493.
The NADase CD38 is induced by factors secreted from senescent cells providing a potential link between senescence and age-related cellular NAD+ decline
Claudia Chiniら

 

(東京ガーデンテラス紀尾井町「花の広場」の噴水)

(筆者撮影)

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4月最初の休日の午後となっていますね。

桜の色に街が染まったせいか、はたまた、私の年齢のせいか・・・

時間の流れが、ゆっくりと感じます。

 

1960年代に活躍した米国の心理学者 「アブラハム・マズロー」は次のような言葉を残しています。

 

"In any given moment we have two options: to step forward into growth or to step back into safety."

 

「どんな瞬間にも、私たちには2つの選択肢がある。成長へと踏み出すか、安全な場所へ引き下がるかだ。」

 

この引用はマズローの思想を象徴する有名な言葉として広く知られています。また、彼の「欲求段階説(自己実現理論)」が経営学、看護学、教育学などの分野で多大な影響を与えたことも事実です。

 

しかしながら、2006年になると、彼の理論は「科学的厳密さの欠如」があるという大きな批判を巻き起こしたようです。

 

その理由は、彼の理論はすべて経験論であり、科学的な知見に乏しい

のが理由であったそうですが・・

 

マズローが提唱した「人間の可能性に目を向ける」という姿勢は、学問的、科学的には、全否定されているわけですが、現在の「ポジティブ心理学」に形を変えて受け継がれているのは不思議なことですね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

今回は・・・心血管系における「細胞老化」は、心筋・内皮細胞の機能不全をもたらすというお話をしてみたいと思います。

 

「加齢」は「心血管疾患(CVD)」における最大の独立した危険因子であるというお話は、ブロフ内でも何度か話題にしていますよね。

 

WHOの統計によれば、「心血管疾患(CVD)」による死亡者は年間約1,790万人に達し、超高齢社会においてその制御(せいぎょ)は、最重要課題の課題であるとされています(参考1)。

                    

近年の「ジェロサイエンス(Geroscience)」の進展により、加齢に伴う「心臓の機能低下」の根源的メカニズムとして、「細胞老化(Cellular Senescence)」が浮かび上がってきたわけですね。

 

「ジェロサイエンス」という言葉は、聞き慣れない言葉ですが・・・「老化」そのもののメカニズムを解明し、それを標的にすることでアルツハイマー病、癌、心血管疾患などの慢性疾患を同時に予防・遅延させ、健康寿命の延伸を目指す新しい医療研究分野ですね。

 

他の国々では、この「ジェロサイエンス」の分野に巨額の化学研究費

が割り当てられています。

 

全世界が「健康的な老い(ヘルシー・エイジング)」の実現を目指しているのですね。

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

「心筋細胞」も「老化」するのか?・・・多くの方が疑問を持たれるかもしれません。

 

確かに・・・心臓を構成する「心筋細胞」は、「分裂終了細胞(Post-mitotic cells)」といって、それ以上は細胞分裂が起きないと言えます。

 

「細胞老化」とは、DNA損傷やテロメア短縮、酸化ストレス等の持続的なストレス応答として生じる不可逆的な細胞周期停止状態と定義されているわけですが、「心筋細胞」のような分裂終了細胞(Post-mitotic cells)においても、「老化様フェノタイプ(Senescence-like phenotype)」として機能不全を起こすことが明らかとなっているのですね(参考2, 3)。

 

では、「心筋細胞」の老化様変容とポンプ機能不全は、どのようにして生じるのでしょうか?

実は「心筋細胞」は成体において極めて低いターンオーバー率(年間0.5〜1%以下)しか持たないことが知られています(参考4)。

 

ターンオーバーとは、古い細胞が新しい細胞に置き換わっていくことでしたよね。

では、この「心筋細胞」が「老化」していくと・・・どのような状態

を呈して(ていして)いくのでしょうか?

 

それは、次のようなことが起きてくるとされています。

 

老化した「心筋細胞」は、単なる機能低下に留まらず、

 

「DNA損傷応答(DDR)」の持続的活性化、小胞体ストレスや

「ミトコンドリア」の品質管理異常(Mitophagy不全)を呈するとされています。

老化した心筋細胞は、単なる機能低下に留まらず、DNA損傷応答(DDR)の持続的活性化、小胞体ストレス、ミトコンドリアの品質管理異常(Mitophagy不全)を呈するとされています。

 

「p16INK4a(ピー16インクフォーエー)タンパク」は、「CDKN2A遺伝子」にコードされるがん抑制タンパク質で、

主に細胞周期のG1期からS期への移行を抑制し、「細胞老化」を誘導する働きを持つとされています。

 

老化した細胞で発現が高まるため、老化バイオマーカーとして利用されるものなのですが・・・

 

「心筋」の老化路ともに「p16INK4a(ピー16インクフォーエー)タンパク」の蓄積が起こり、このことが、「心臓」の病的な肥大や収縮能低下と密接に相関することが報告されています(参考5)。

 

そして、「老化した心臓」では安静時収縮力は比較的保たれますが、運動などストレス時の「予備能」が低下します。この低下の原因の一つとして、心筋細胞レベルの「興奮–収縮連関(E–C coupling)」の変化が知られています。

 

もちろん、これだけが原因ではなく、血管硬化・β受容体低下・構造リモデリングなども関与しているとされています、老化した心筋のポンプ機能低下は多因子性であるとされているのですね。

 

次に「老化心筋細胞」の分泌する「SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)」が「心筋」にトドメを刺す(?)・・・ということになるのですが・・・(少しクライ気持ちになってきたのでドクロドクロドクロ)お話の続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

 

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<.ブログ後記  >4月7日

 

今宵は、強い風が吹いているようです。

 

今回は心臓で重要な働きを持つ「心筋細胞」も「老化細胞」になるというお話をさせていただきました。

本文の続記ですが・・・「老化心筋細胞」は、他の臓器の「老化細胞」と同様に「SASP(細胞老化随伴分泌現象)として、IL-1β、IL-6、TNF-αなどのサイトカイン、およびCCN1((Cellular Communication Network Factor 1)等の因子を周辺へ分泌します(参考6)。

心臓の中には、普段は「心筋線維芽細胞」という、心臓の形を維持するための土台を作る細胞があります。 しかし、高血圧や心筋梗塞などのストレスが加わると、「心筋線維芽細胞」→「筋線維芽細胞」という形質転換が起こり、その後、「筋線維芽細胞」が活性化・増殖し、その後に「早期老化」へ移行することが多いとされています

(参考7)。


本文内でもお話をしたように「心臓」の「老化細胞」の増加は、「心筋細胞」などにおいて細胞周期の不可逆的停止を引き起こし、酸化ストレスや代謝異常を通じて、心血管疾患の進行に寄与します。

このように心臓内の「老化細胞」の増加に加え、高血圧や心筋梗塞などのストレスが加わると心不全や虚血性心疾患のリスクを高めることが示されています(参考8)

では、この心臓の「老化細胞」を除去する方法はあるのでしょうか?

心機能改善のエビデンスのある治療は、「マウス」による動物実験では示されています。

それは、「D+Q療法(ダサチニブ+ケルセチン)」と呼ばれるものです。

この方法では、老齢マウスへの投与により、心筋線維化が抑制され、左室駆出率(LVEF)および拡張能の改善が報告されている

(参考9)。

また。この方法では、「心臓ー脳連関の回復」が示されており、「老化細胞除去療法(セノリティクス)」が、加齢に伴う心臓内の神経支配の脱落を抑制し、不整脈基質を改善することが示されています。


これは、細胞老化の制御が単なるポンプ機能に留まらず、心臓の電気生理学的安定性にも寄与することを示唆していると考えられています。

 

これは、イケるんじゃないか?・・・と思ったりもするわけですが・・・
この「ケルセチン」は、ブロッコリーやリンゴに含まれるポルフィリン(フラボノイド)であるのはよいのですが・・・

 

「ダサチニブ(商品名:スプリセル)」は、慢性骨髄性白血病(CML)に用いられるチロシンキナーゼ阻害剤という分子標的薬なのですね。

 

なので、ヒトへの応用には更なる検証が必要であると言えますね。
 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

 

参考)

1)Cell Death Discov. 2024 Feb 14;10(1):78. 

Cardiac cell senescence: molecular mechanisms, key proteins and therapeutic targets

Yi Luanら

 

2)J Am Coll Cardiol. 2019 Aug 13;74(6):804-813. 

Cardiovascular Aging and Heart Failure: JACC Review Topic of the Week

Filippos Triposkiadisら

 

3)Nal Rev Mol Cell Biol. 2007 Sep;8(9):729-40. 

Cellular senescence: when bad things happen to good cells

Judith Campidiら

 

4)Cell. 2015 Jun 18;161(7):1566-75. 

Dynamics of Cell Generation and Turnover in the Human Heart

Olaf Bergmannら

 

5)Circ Res. 2003 Oct 3;93(7):604-13. 

Senescence and death of primitive cells and myocytes lead to premature cardiac aging and heart failure

Cristina Chimentiら

 
6)Circ Res. 2020 Feb 14;126(4):533-551.
Targeting Age-Related Pathways in Heart Failure
Haobo Liら
 
7)Cell Death Dis. 2021 Jun 8;12(6):594.
G-MDSCs promote aging-related cardiac fibrosis by activating myofibroblasts and preventing senescence
Shu-Ning Sunら
 
8)Cardiovasc Res. 2022 Mar 25;118(5):1173-1187.
Senescence mechanisms and targets in the heart
Maggie S Chenら
 
9)Mech Ageing Dev. 2022 Dec:208:111740.
Pharmacological clearance of senescent cells improves cardiac remodeling and function after myocardial infarction in female aged mice
Nadia Salernoら
 

(紀尾井町の桜の風景)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

月日が経つのは早いもので、3月最後の休日の午後になっています。

街の景色は桜の花があるせいか、優しさに包まれているような気もします。

 

それでも、ひとたび日々のニュースに目をやりますと、戦争の話題などで気持ちは暗くなるばかりです。あまり、良い状況に向かっている

とは思えないなあ〜と考え、ため息さえ出てしまいますね。

 

第2次世界大戦中に首相としてイギリスを率い、ヒトラー率いるナチス・ドイツの侵攻を食い止め、連合国を勝利に導いた「ウィンストン・チャーチル」は、不屈の指導者として歴史に名を残しています。

 

彼は、次にような言葉を残しています。


“The farther back you can look, the farther forward you are likely to see.”
過去を遠くまで振り返ることができる者ほど、未来も遠くまで見通せるだろう。

 

世界の中で目先のことではなく、遠い将来までも見据えた偉大な指導者が現れることに期待をしたいと思います。


皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

 

(AIで画像を作成)

 

さて、今回は自分自身の「免疫細胞」で「老化細胞」を除去できる可能性について、お話をしてみたいと思います。

 

「免疫細胞」のお話をする前に「老化細胞」について、少し復習をしておきたいと思います。

 

加齢に伴い、私たちの体内には「老化細胞(senescent cells)」と呼ばれる特殊な細胞が蓄積していくのでしたね。

 

「細胞老化」は1961年に「レオナルド・ヘイフリック」により初めて記述され、当初は「テロメア」短縮による「複製老化」であると理解されていました。

「テロメア」は、染色体の端(はし)についており、細胞分裂に伴い、その長さが短くなっていくのでしたね。

 

そして、「テロメア」がそれ以上は分裂できなくなると「細胞」は分裂をやめて、「老化細胞」に変化する・・・と理解されていたわけです。

その後、DNA損傷や酸化ストレス、がん遺伝子の活性化などの様々なストレスに応答して細胞分裂を永続的に停止した細胞も「老化細胞」になることが分かったのですね(参考1)。

 

「老化細胞」は分裂を停止しながらも代謝的には活性を保ち、「老化関連分泌形質(SASP: Senescence-Associated Secretory Phenotype)」と呼ばれる多様な炎症性サイトカイン、ケモカイン、マトリックス分解酵素(MMP)を分泌するのでしたね。

 

これらの「SASP」は周囲の正常細胞に慢性炎症(senoinflammation)を波及させ、組織機能の低下や加齢関連疾患の発症に関与するわけです(参考2)。


通常、免疫系がこれらの「老化細胞」を監視・除去するが、加齢に伴う免疫機能の低下(免疫老化:immunosenescence)によりその監視網を回避し、老化細胞が組織内に蓄積していくとされています(参考3)。
 

image  

(AIを用いて画像を作成)

 

本来であれば、自分自身の「免疫細胞」によって、「老化細胞」は除去できるはずですが、加齢に伴う「免疫細胞の機能の低下により、

これができなくなっている・・・ということになりますね。

 

「加齢」は免疫機能と炎症に複雑な変化をもたらし、高齢者における感染症やがん疾患の増加をもたらすとされています(参考4)

 

このために世界各国の研究者たちは、「老化細胞」を除去できる治療(セノリティック療法)の開発に力を注いでいるわけですね。

 

「セノリティック療法」は、老化および加齢に関連する障害と戦う上で有望であり、健康的な長寿を促進する可能性があります。

 

 

このような中で、問題点の中でクリアしなければいけない問題は、次のようなものになります。それは、次のようなものになります。

 

【1】「老化細胞」には、癌の抑制や組織再生生理的に重要な役割も持つため、無差別に除去することは、は臓器障害や線維化悪化などを起こすと考えられています。

 

【2】既存の「小分子セノリティクス(例:ナビトクラクスなどBCL-2ファミリー阻害薬)」は、血小板減少などの重い毒性が問題で、高齢患者での使用に制約 がある。

 

【3】CAR-T細胞・抗体薬物複合体・ワクチンなど免疫療法型セノリティクスは、「標的抗原(seno-antigen)」の同定が不足している(参考5)。

 

 

【4】「老化細胞」の中で、「ヘイフリックの限界」に達した細胞のみ

を破壊し、DNA損傷や酸化ストレス、がん遺伝子の活性化などの様々なストレスに応答して細胞分裂を停止した「老化細胞」は残すことが

望ましい。

 

このような状況の中で、韓国に本社をもつ「GCリンフォテック社(東京都江東区)」のご協力もあり、「老化細胞」の除去能力をもつ「NK細胞」と「CIK細胞」を利用できないか?・・・という勉強会

が始まりました。

 

「CIK細胞」とは、聞きなれない言葉であるかもしれませんね。

 

「CIK(Cytokine-Induced Killer:サイトカイン誘導キラー)細胞」は、患者さんの血液から採取したリンパ球を、体外で特定のサイトカイン(INF-γ,IL-2)や抗体を用いて強力に活性化・増殖させた細胞障害性T細胞の一種です。

 

この細胞は、「細胞障害性T細胞(CTL)と「NK細胞」の両方の特徴を持ち、様々ながん細胞を高い能力で直接攻撃し、主に肝細胞がんや胃がんなどの固形腫瘍に対する免疫療法として、再発抑制や延命効果が研究されています。

  • 高いがん殺傷能力: T細胞の高い標的認識能と、NK細胞のようなHLA(ヒト白血球抗原)に制限されない広範ながん細胞への攻撃能力(非特異的殺傷)を兼ね備えています。
  • 安全性の高い治療法: 主に患者自身の細胞(自家)を使用するため、免疫拒絶反応が少なく、副作用が低いとされています。
「GCリンフォテック社」では、「活性化しているNK細胞」の回収とともに多くの「CIK(Cytokine-Induced Killer:サイトカイン誘導キラー)細胞」を培養し、回収することに成功をしています。
 
本来は、「癌に対する免疫治療」として用いられる細胞群であるのですが、「老化細胞」も効率よく破壊することができるのだそうです。
 
もちろん、更なる検証が必要であるとは思いますが・・・将来、どこかの国で、新しい「セノリティック療法」として報告されるのかもしれませんね。
 
2014年4月から書いているアメーバブログも来月からは13年目に入ります。12年間続けることができたのは、皆さまの応援のおかげであり、とても感謝しております。
 
しがない「老人」が、未来で実現するであろう「抗老化医療」を夢を持って話していることは・・・滑稽(こっけい)であるかもしれませんが・・・今後とも宜しくお願い申し上げますウインク
 
素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ
 
それでは、またバイバイ
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<  ブログ後記  >3月31日

 

今日で2025年度が終わり、明日からは新しい年度が始まりますね。

 

今回は、「免疫細胞」を用いて、「老化細胞」を除去する治療(セノリティック療法)は可能なのか?・・・という話題について、お話をさせて頂きました。

 

答えは「イエス」であるわけですが・・・「老化細胞」が免疫系に認識される鍵(カギ)は、ストレス応答として表面に発現する「NKG2Dリガンド」というものになります。

「老化細胞」は、免疫システムに「見つけられる」ための分子を細胞表面に多く発現していることが分かっています。

 

とくに「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」の受容体と結合する分子は、これまでに詳しく研究されています。


その中で、免疫細胞を"活性化"する分子として報告されているのが、先にもあげた「NKG2Dリガンド」(MICA, MICB, ULBP1/2 など)であるわけです(参考6)

リガンド(Ligand)とは、タンパク質などの生体分子の特定の結合部位に特異的に結合する物質を指します。

 例えば、「 老化誘導(複製老化・DNA損傷老化)の段階のひとつの例を示しますと、以下のようなものがあります。

 

皮膚真皮層に存在する「線維芽細胞」では、「老化細胞」化しますと「NKG2Dリガンド」であるMICAとULBP2が強く表面に表出されます。

この「老化線維芽細胞」は、血液中の「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」により攻撃をされ、その結果、破壊されます(アポトーシス)。

なぜ、このような現象が起こるのか?・・・といいますと、

「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」には、この「NKG2Dリガンド」を認識して、免疫応答が起こるからという理由になります、

「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」表面に発現する、「NKG2Dリガンド」を認識する部位が強力な活性化受容体である「NKG2D受容体」となります。

 

この現象は、皮膚真皮層の線維芽細胞に限った現象でなく、多くの「老化細胞」は、「NKG2Dリガンド(MICA/Bなど)を発現しており、これが「NK細胞」や「細胞障害性T細胞」上の「NKG2D受容体」を刺激して、結果として「老化細胞」を破壊するということになります。

また、本文内でもご紹介をしましたが・・・「CIK細胞」も細胞表面に「NKG2D受容体」を持っておりまして、「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」と同様に「老化細胞」を破壊することができるということになります。

「CIK細胞」は「サイトカイン誘導キラー(Cytokine-induced killer: CIK)」というもので、「細胞障害性T細胞(CTL)」と「NK細胞」の両方の性質を持つとされ、最も強い抗腫瘍活性を持つ免疫細胞とされています。

癌に対する免疫細胞治療は、韓国において既にその一部が保険適応になっていますが、その免疫細胞治療の中心となる細胞が、この「CIK細胞」ということになります。


昨年から日本国内においても、「GCリンフォテック」社にて「CIK細胞」を含む製剤が作られ、JTKクリニックでも使用しています。

少し専門的なお話をしますと・・・「NK細胞」の平均的な寿命は3~5日程度に対し、「CIK細胞」の寿命は、約25~30日となります。


その特徴は、「HLA-I抗原」とともに「癌抗原」が表出されなくなった「癌細胞」も破壊することが、可能であり、また、ひとつの「癌細胞」を破壊しても・・・また、次から次へと「癌細胞」を破壊し続けることが知られています。


「HLA-I抗原」とともに「癌抗原」が表出されている「癌細胞」なら、「細胞障害性T細胞(CTL)」が有効です。

 

しかしながら、「癌細胞」のDNAの変異スピードが速いことにより「癌抗原」が次から次へと変化してしまいます。そうなりますと・・・「細胞障害性T細胞(CTL)」は次第に疲弊し、「癌細胞」を
破壊する力が低下してしまうことが予想されます。


そして、何よりも「癌細胞」自体が、「HLA-I抗原」を出さなくなってしまいますと「細胞障害性T細胞(CTL)」は、手も足も出なくなってしまうのですね。


「NK細胞」は、「HLA-I抗原」を出さなくなってしまった「癌細胞」でもラクラクと破壊することができます。
しかしながら、「NK細胞」の問題点はその「寿命」の短さにあります。寿命は3~5日程度であり、癌組織の内部に入っていく前に力尽きてしまうのですね。


また、「癌細胞」を破壊するためには、その1個に対して「NK細胞」2個を要する(ドレス現象)があります。


その点、「CIK細胞」は「癌細胞」を次から次へと破壊し、癌組織の奥まで入ることができるので、
さらに「癌抗原」がどんなに変化しても、また「HLA-I抗原」を出さなくなったとしても確実に「癌細胞」を破壊できるわけですね。

 

「老化細胞除去」に話を戻しますと・・・更に解決すべき問題は2つあります。

 

ひとつは、「老化細胞除去」を行う際には、体内にある「老化細胞」のおおよその数を把握しておく必要がありますね。
「老化細胞」を破壊し過ぎれば、「臓器の線維化」や致死的な「臓器障害」を起こしてしまうリスクがあるからでしたね。

「老化細胞」は組織ごとに性質もマーカーも異なり、「全身の老化細胞数」を一本の数値で正確に表す統一指標はまだないとされています(参考7,8)。
 

そのため、複数のマーカーの組み合わせで「老化細胞負荷(senescent cell burden)」を推定する方向で研究が進んでいるそうです。

 

もうひとつは長くなりますので、またの機会にいたしますが・・・

老化細胞(senescent cell)は本来、NK細胞やT細胞に認識され除去されますが、加齢とともに組織に蓄積するのは、「免疫逃避のメカニズム」「免疫老化(immunosenescence)」の両方があるためと考えられています。

 

例えば、皮膚線維芽細胞などの「老化細胞」は「非古典的MHC分子 HLA‑E 」を強く発現し、NK/CD8 T細胞上の抑制受容体「 NKG2A」 に結合して、破壊を抑制するということです。

 

「HLA-E」とは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、ヒトの胎盤に

多く発現しているものなのですね。この関係は興味深いものがあります。


「老化細胞」を減らすと、マウスでは主に「健康寿命」の改善とともに、寿命が数〜約10%延びることが多いとされています。一方、人間で寿命がどの程度延びるかは、まだ誰にも分かっておらず、現在進行中の臨床試験の結果を待つ必要があるのだそうです。

しかしながら、「老化細胞」を減らすことが「健康寿命」を短くしたり、「寿命」を大幅に短くしてしまう可能性は、とても小さいのではないでしょうか?

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Front Immunol. 2025 Apr 4:16:1565278. 

Senescence, NK cells, and cancer: navigating the crossroads of aging and disease  

Marina Gerguesら

 

2)Exp Gerontol. 2020 Jun:134:110891. 

Senoinflammation: A major mediator underlying age-related metabolic dysregulation     

Dae Hyun Kimら

 

3)Nat Commun. 2019 Jun 3;10(1):2387. 

Senescent cells evade immune clearance via HLA-E-mediated NK and CD8+ T cell inhibition   

 Branca Pereira

4)Front Aging . 2022 May 30:3:900028. 

Immune Senescence, Immunosenescence and Aging

 Kyoo-A Leeら

 

5) NPJ Aging. 2024 Feb 6;10(1):12. 

Senolytics: from pharmacological inhibitors to immunotherapies, a promising future for patients' treatment

V Lelarge ら

 

6)Aging (Albany NY) . 2016 Feb;8(2):328-44.
NKG2D ligands mediate immunosurveillance of senescent cells
Adi Sagivら

 

7)Ageing Res Rev. 2016 Aug:29:1-12.
 Biomarkers to identify and isolate senescent cells
Mantas Matjusaitisら

8)Acc Chem Res. 2024 May 7;57(9):1238-1253.
Chemical Strategies for the Detection and Elimination of Senescent Cells
Jessie García-Fleitasら

 

(東京ミッドタウンの桜の風景)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

最近の暖かさで桜は生長し、いよいよお花見シーズンに突入していきそうな気配ですね。

桜ばかりでなく、街でさまざまな花を見かけることも多くなりました。

 

"To plant a garden is to believe in tomorrow."
「庭に花を植えるということは、明日を信じるということである」

 

女優であり人道活動家でもあったオードリー・ヘプバーンの言葉です。

 

一粒の種を土に埋める。水をやり、日の光に託す。それは、まだ見ぬ未来に向けて信頼の手を差し伸べる行為です。花が咲くかどうかはわかりません。しかし、それでも種を蒔く(まく)。その行為そのものが、希望の表現であると解説がされています。

 

私たちの人生の日々も、そうした小さな種蒔きの連続であるのかもしれませんね。来月、来年、あるいは何年か先に花を咲かせる。

 

春はそのようなことを思い出させてくれる季節であるのかもしれませんね。

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

今回「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)

について、お話をしてみようと思います。

 

「加齢(aging)」は、細胞・組織・臓器レベルにおける機能低下が、時間とともに蓄積(ちくせき)していくプロセスであり、がん、心血管疾患、神経変性疾患などの「加齢関連疾患」の最大のリスク因子であるとされています(参考1)。

 

ヒトの身体を構成する細胞のDNAには、「メチル基」と呼ばれる目印がついており、DNAのメチル化が低下すると、DNA→mRNAという遺伝子の「転写(てんしゃ)」が促進され、その逆にDNAのメチル化がが強くなると、この転写はストップされるわけです。

 

このようなDNAの配列に無関係に遺伝子の発現状態が変化するメカニズムを「エピジェネティクス」を呼ぶことは、以前のブログ内でもお話をさせていただきました。

 

近年、DNAメチル化パターンをもとにした「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)の開発により、

「暦年齢(chronological age)」とは異なる「生物学的年齢(biological age)」を定量的に評価することが可能となったと報告されています(参考2.3)。

 

ところで、加齢によるDNAのメチル化の状態は、どのようになっていくのでしょうか?少し詳しくお話をしておきたいと思います。

 

「DNAメチル化(DNA methylation)とは、DNAを形づくる塩基のうち、「シトシン(C)」のピリミジン環5位にメチル基(−CH3​)が付加される化学修飾を指します。

 

この修飾は主に「CpGジヌクレオチド部位(CpGモチーフ)」で生じ、遺伝子の発現調節に関与するわけです(参考4)。

 

加齢に伴いまして、ヒトのゲノム(DNA)全体では

「低メチル化(global hypomethylation)」が進行する一方、特定のプロモーター領域では「高メチル化(promoter hypermethylation)」が生じ、重要な遺伝子のサイレンシングが引き起こされることが分かっています(参考5)。

 

この変化は「エピジェネティック・ドリフト」と呼ばれ、ゲノム不安定性やミトコンドリア機能障害といった加齢の特徴(hallmarks of aging)と相互に作用し、老化の表現型を決定づけると考えられています(1,5)。

これは、若い頃は似ていた「DNAメチル化パターン」が、高齢になるにつれて個人間でバラバラになる(ドリフトする)ことを示している

とされています。

 

           (参考文献より抜粋)

 

上記の図を見ていただくと横軸は、生まれた年から数える「暦の年齢」となりますが、これが同年齢であるとしても・・・

「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)を測定してみると・・・

 

「暦の年齢」とは異なり、「細胞レベル」での老化の進み具合、つまり、身体が実際にどれくらい老化しているか(=生物学的年齢) を数値で推定することができるというわけです。

この「暦の年齢と生物学的年齢のズレ」を「エイジギャップ」と呼びます。

 

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                                    (AIを用いて画像を作成)

 

最近の研究では、生物学的年齢が高いほど病気になりやすかったり、死亡リスクが上がることも明らかになってきました。

 

そのため、「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)は、「老化を客観的に測る新しいものさし」として、注目されているわけです。

 

「運動」や「食事改善」などの生活習慣介入によって、エピジェネティックな老化指標や代謝関連のメチル化異常が「部分的に巻き戻る/進行が遅くなる」ことを示す論文レベルのエビデンスは増えています。

 

例えば、前回の「内臓脂肪型肥満」のお話に関連づけるわけではありませんが・・・

 

肥満などに関わる「DNAメチル化」などは動的かつ可逆的であり、運動や減量、食事改善で「より正常なプロファイル」に近づきうると報告がされています(参考6,7)。

 

では、抗老化作用があるとされている「NMN ((ニコチンアミドモノヌクレオチド)」や「NAD+((ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」、そして、「iPS細胞由来エクソソーム」などは、「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)に影響を与えるのでしょうか?

 

続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>3月24日

 

今回は、実際の「暦年齢」ではなく、「生物学的年齢(biological age)」を示す「エピジェネティクス・クロック(時計)のお話をさせていただきました。

 

本文内でもご紹介をしましたが、DNAの修飾「メチル化」のパターン

より、生物学的な年齢を示すものとなっています。

JTKクリニックでも「エピジェネティクス・クロック(時計)の測定検査は行っています。

 

現時点では、さまざまな「抗老化医療」が多くの施設で施行されており、「エピジェネティクス・クロック(時計)の測定のみを施行したいという方も、時にはいらっしゃいます。

 

しかしながら、注意をしなければいけないのは、「エピジェネティクス・クロック(時計)に変化を及ぼさない「抗老化医療」も存在するという事実です。

 

いったい、どのようなことなのでしょうか?

 

例えば・・・「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」は、点滴による投与が世界的に施行されているものです。

 

「NAD+」は、エネルギー代謝の中核を担う補酵素であり、「加齢」に伴いそのレベルは著明に低下していくことが知られています。

 

その主な要因として・・・「加齢」に伴い、DNA損傷が過剰になると「修復酵素PARP1」が活性化(PARP活性化)し、大量の「NAD+」を基質として消費することが知られています(ポリADPリボシル化)

(参考8)。

さらに「NAD+」分解が亢進→「 NAD+枯渇 →ATP産生低下 →細胞のエネルギー危機→細胞死となることもあります(参考8.9)。

 

さらに「NAD+」レベルの低下は、ゲノム安定性を維持する「サーチュイン(SIRT1-7)」の活性低下を招き、広範な細胞機能不全を引き起こすことが報告されています(参考10)。

 

 

では「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」は、どうでしょうか?

「NMN」は、ビタミンB3から作られる体内の物質で、老化制御や長寿遺伝子(サーチュイン)を活性化するNAD+に変換される物質ですね。

マウスモデルにおいての話ですが・・・「NMN」補充は、ミトコンドリア機能を改善し、健康寿命を延長させることが示されています(参考11)。

 

ヒト臨床試験においても、高齢者の歩行速度や睡眠の質に対する改善効果が報告されていますが、心血管機能等への劇的な効果については依然として議論があります(参考12)。

 

こうした「NAD+」の点滴や「NMN」が「エピジェネティック・クロック(時計)」に影響を与えるのか?・・・と言いますと・・・

 

に関しては、「NAD+」点滴や「NMN」の単独投与によって既存の「エピジェネティック・クロック(時計)」が体系的に巻き戻る」という決定的な「エビデンス」はないとされています。

 

一方で、カロリー制限・運動・生活習慣介入は、「エピジェネティック・クロック(時計)」を明確に減速させうることがランダム化試験で示されています(参考13) 

 

カロリー制限・運動・生活習慣介入などはNAD⁺代謝やサーチュイン活性に影響するため 、「NAD+」の点滴や「NMN」が「エピジェネティック・クロック(時計)」に関わる可能性は高いわけですが、

直接的な因果関係はまだ証明されていない・・・と言えるかもしれませんね。

 

最後に「iPS細胞由来エクソソーム」は、「エピジェネティック・クロック(時計)」を巻き戻す・・・つまり、、「生物学的年齢(biological age)」を若返らせるのか?・・・ということになりますね。

 

「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」自体は、4つの転写因子(山中因子)の導入などにより、細胞を「リプログラミング」して作成されるものでしたね。

 

「リプログラミング」とは、すでに分化した細胞からこの固定化されたメチル化などの標識を消去して「未分化」の状態に戻し、体を構成するあらゆる種類の細胞に分化することができる多能性を持った幹細胞を作り出す現象のことでしたね。

 

この「リプログラミング」は「エピジェネティック・クロック(時計)」年齢をゼロにします。そして、細胞分裂によって短くなっていく

「テロメア」の長さも0歳(胎児)と同様の長さまで回復します。

 

しかしながら、どの細胞になればよいか?・・・が分からなくなる「細胞アイデンティティ」の喪失というリスクを伴うわけです。

そのため、一過性の「部分的リプログラミング」による若返り研究が進んでいるのだそうです(参考14)。

 

これに対して、「iPS細胞由来エクソソーム」は、リプログラミング因子の直接導入に伴うリスクを回避しつつ、細胞若返りシグナルを届けるセルフリー療法として期待されています。

 

残念ながら、現時点では・・・

 

iPS細胞由来エクソソームが「エピジェネティック・クロック(時計)」を若返らせる、またが、進行を遅らせるという決定的なヒトのデータは、現時点では存在しません。


ただし、「エピジェネティックな老化状態」に影響しうる間接的なメカニズムや前臨床データは十分に想定されています。

 

例えば、「老齢マウス」への投与実験により、齢マウスに「iPS細胞由来エクソソーム」を3ヶ月間静脈注射すると

 

  • 大動脈リングの血管新生能が若齢マウスレベルまで回復
  • 腎・皮膚・筋・肝・肺・脳・脾など多臓器でp53・p16発現が有意に低下
  • 抗酸化能(TAOC)や骨髄細胞増殖も改善
    が報告されています(参考15)

 

また、同時に若いマウスに投与してもp53/p16には大きな変化がなく、主に老齢個体の老化シグナルを下げる効果と解釈されています

(参考15)

 

また、「ヒトiPS由来エクソソーム」は、老化ヒト真皮線維芽細胞で

  • SA‑β‑Gal活性低下(老化マーカー)
  • p53/p21経路の発現低下
     

を起こし、増殖・遊走能を回復させることも報告されています(参考16)。

 

まとめると・・・現時点では「iPS細胞由来エクソソーム」が、エピジェネティクス・クロック(時計)に直接、影響を与えたという論文はありません。

 

ただし、一般論として・・・

「iPS細胞由来エクソソーム」に搭載されたmiRNAが、受け手細胞のDNMT遺伝子などの活性を変え、プロモーターや広域のメチル化状態を改変しうる」ことは、実証されています(参考17,18) 。

 

以上のことから、直接的な証明はされていないものの、「iPS由来エクソソーム」のみが、「エピジェネティクス・クロック(時計)を若返らせる可能性がある・・・ということになりますね。

 

軽い気持ちで始めた「エピジェネティクス・クロック(時計)のお話が、なかなか、ヘビーなものになってしまいました笑い泣き

 

今回も最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございましたお願い


 

参考)

1)Cell. 2023 Jan 19;186(2):243-278. 

Hallmarks of aging: An expanding universe

Charlas López-Otín ら

 

2)Genome Biol.. 2013;14(10):R115. 

DNA methylation age of human tissues and cell types

Steve Horvath

 

3)Nat Rev Genet. 2018 Jun;19(6):371-384.  

DNA methylation-based biomarkers and the epigenetic clock theory of ageing

Steve Horvathら

 

4)Pharmacol Ther. 2019 Mar:195:172-185. d

The role of DNA methylation in epigenetics of aging 

Archana Unnikrishnanら

 

5)MedComm(2020). 2025 Sep 1;6(9):e70369. 

Epigenetic Regulation of Aging and its Rejuvenation

Yongpan An.ら

 

6)Int J Mol Sci. 2022 Jan 25;23(3):1341. 

An Overview of Epigenetics in Obesity: The Role of Lifestyle and Therapeutic Interventions

Abeer M Mahmoudら

 

7)J Nutr Biochem. 2018 Apr:54:1-10. 

Epigenetic reprogramming in metabolic disorders: nutritional factors and beyond.                        

Zhiyong Chengら

 

8)PLos One. 2012;7(7):e42357. 

Age-associated changes in oxidative stress and NAD+ metabolism in human tissue 

Hassina Massudiら

 

9)Antoxid Redox signal.. 2018 Jun 20;28(18):1652-1668. 

Nicotinamide Adenine Dinucleotide Metabolism and Neurodegeneration 

Mariana  Peharら

 

10)Trends Cell Biol. 2014 Aug;24(8):464-71. 

NAD+ and sirtuins in aging and disease 

Shin-ichiro Imaiら

 

11)Cell. 2013 Dec 19;155(7):1624-38. 

Declining NAD(+) induces a pseudohypoxic state disrupting nuclear-mitochondrial communication during aging 

Ana P Gomesら

 

12)Geroscience. 2023 Feb;45(1):29-43. 

The efficacy and safety of β-nicotinamide mononucleotide (NMN) supplementation in healthy middle-aged adults: a randomized, multicenter, double-blind, placebo-controlled, parallel-group, dose-dependent clinical trial

 Lin Yiら

 

13)Pharmacol Ther. 2019 Mar:195:172-185. 

The role of DNA methylation in epigenetics of aging

Archana Unnikrishnanら

 

14)Aging(Albany NY). 2023 Jun 26;15(12):5854-5872. 

iPSC-derived exosomes promote angiogenesis in naturally aged mice

Xingyu Liら

 

15)Nature. 2020 Dec;588(7836):124-129. 

Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision

Yuancheng Luら

 

16)Int J Mol Sci. 2020 Jan 5;21(1):343. 

Derivation of Cell-Engineered Nanovesicles from Human Induced Pluripotent Stem Cells and Their Protective Effect on the Senescence of Dermal Fibroblasts

Hyelim Leeら

 

17)Mol Cancer. 2019 Oct 27;18(1):148. 

Exosomal miR-21 regulates the TETs/PTENp1/PTEN pathway to promote hepatocellular carcinoma growth

Liang-Qi Caoら

 

18)Cancer(Basal). 2020 Oct 11;12(10):2922. 

Regulatory Mechanisms of Epigenetic miRNA Relationships in Human Cancer and Potential as Therapeutic Targets

K M Taufiqul Arifら

 

(麻布台ヒルズの'神代曙’の品種の桜)

(筆者撮影)

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