当時の大阪球場では、ホームの南海選手へのヤジが日常茶飯事であった。その体格から常にお客さんの標的になり続けた捕手がいる。それがドカベンこと香川伸行である。
浪商時代は現横浜監督の牛島とバッテリーを組み、その体格から「ドカベン」のあだ名が付いた。もちろん水島新司のドカベンのモデルになった彼である。その愛すべきキャラクターは、大阪のファンには格好の「標的」となり、走れば、ヤジられ、空振りしてはヤジられ、挙げ句の果ては、ヒットを打っても一塁にいるだけでヤジられる存在であった。
「おいコラァ~、ドカぁ~、そこで止まるからブタだ言われんじゃぁ~。2塁に走らんかぁ、ボケェ~」
そのヤジに一塁コーチも苦笑するが、当の本人も笑っていわためにヤジが激しくなっていった。それは、ファンに愛されている証拠でもあった。大阪球場最終試合後のセレモニーで、ファンが香川選手に送った声援は、あの門田選手に匹敵するほどの大きなものだった。大阪流の「キツいエール」は、誰もに愛された香川だからのヤジであった。もっとも彼ほど太った選手は今だかつて現れていない。
714試合 1807打数 460安打 78本塁打 270打点 8盗塁 28犠打 119四死球 292三振 打率.255、ベストナイン1回(捕手83年)