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堀江則雄のブログ ユーラシアの風

ユーラシアの各地で起きていることについて思っていることを書き連ねる。


中島偉晴著

『コーカサスと黒海の資源・民族紛争』

交差する民族抑圧の根源は?


 コーカサスと黒海沿岸地域が豊かなエネルギー資源に恵まれており、多様な民族と文明が交差する地域であること、それだけに大国の戦略的思惑が対立し、さまざまな民族紛争が多発していることは、よく知られている。だが、その本当の原因と経過はあまり知られていない。

 それは、とりわけソ連解体前後から、今日までつづいている。


 アルメニアとアゼルバイジャンとの戦いとなった「ナゴルノカラバフ戦争」、ソ連軍のバクー制圧、グルジア軍による独立の動きを見せた南オセチア包囲攻撃、アブハジア攻略、北オセチアでのオセット人とイングシ人との武力衝突、チェチェン独立阻止をめざしたロシア軍による第一次、第二次チェチェン戦争、そして088月のロシア軍とグルジア軍による「五日間戦争」――。


 本書はなぜこうした民族紛争が起きているのか、その経緯の背景は何かなどを歴史的に解明している。その論理には説得力がある。

この地域を支配してきたロシアの大国主義にその原因を求めるのが、一般的だが、本書はそう単純ではない。

ロシア・グルジアの「五日間戦争」はサーカシビリ大統領が南オセチア制圧のために発動した武力行使だったこと、ロシアはこの先制攻撃をやらせて一気にグルジアに侵攻したことはその後のEUなどの報告書で明らかになっている。また、大グルジア民族主義がソ連解体直後から少数民族の自治共和国であるアブハジアや南オセチアを“グルジア化”しようと攻略をかけたことに、問題の発端があることも、一部では知られていた。

本書は、陰の主役である米国の戦略とともに,そうしたことを明らかにして、民族紛争、つまり民族抑圧の真因を複合的に解説しているのが、特徴的である。

それは、黒海地域の一部であるウクライナ問題を見る不可欠な視点も提供している。



 コーカサス三カ国に加えて、ロシア連邦内の北コーカサスの7共和国の錯綜した民族の文化や政体の複雑な形成プロセスが解き明かされている。著者はアルメニア史の専門家だが、文体はわかりやすい。


1411月刊、明石書店、267p、3200円+税


堀江則雄





世界経済秩序とウファ宣言――BRICSSCO

強まる“大転換”の流れ


 ロシア・ウラル地方のウファ(バシコルトスタン共和国首都)で7月8-9日、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)第7回首脳会議と SCO(上海協力機構:ロシア、中国、中央アジア4カ国)第15回首脳会議が合同で開催された。両組織の合同首脳会議は初めてであり、欧米が主導している世界経済秩序を大転換させる潮流が本格化しようとしている。



 採択されたBRICSウファ宣言では、全体として米国をはじめとする欧米主導の体制、考え方に異議を唱えて、転換させようとする主張が目立っている。

 それは、①欧米の「二重基準」を排し、一部の大国の利益を他国より優先させない②一方的な軍事介入や制裁を非難する③情報通信技術の悪用による政治的独立、内政への干渉に反対④BRICS内貿易でのドル決裁を排し、自国通貨の拡大――を唱えている。

 さらに、新興国や途上国のインフラ整備などに投資するBRICS開発銀行の第一回総会が開かれた。5カ国の出資500億ドル(近い将来1000億ドル)、本部は上海に置き、初代総裁にインドの民間銀行出身のカマス氏が選ばれた。

 BRICSは通貨の安定を目的とする「準備金制度」の創設にも調印した。通貨下落などの際に外貨を支援するシステムで、1000億ドルの資金が予定されている。

 中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の発足とあわせて、こうした銀行システムの始動は「銀行、通貨システムを西側が独占している現状を打破する第一歩だ」(ロシア新聞)と言えそうだ。少なくとも、欧米の支配をさせてきたIMF(国際通貨基金)や世界銀行に対抗する金融システムが発足したのである。

 


BRICS5カ国で、人口は世界の42を占め、世界の経済規模でも全世界のGDP22貿易総額の17と存在感を強めている。それだけに、「より公正・民主的な世界経済政治秩序」(宣言)へ向けた流れが強まりそうだ。



 SCO首脳会議で注目されたのは、オブザーバー国だったインドとパキスタンの正式加盟国への手続きが開始されたことである。この両国の加盟は、SCOが南アジアに拡大すること、ロシア・中国・インドのユーラシア三大国のネットワークが政治的、経済的に緊密化するという意味で歴史的な意義がある。

 さらに核開発問題での国際合意をうけて、これまで棚上げされてきたイランの正式加盟を歓迎することになった。ユーラシアを結びつけるSCOの拡大と強化が本格化しそうだ。

 また、ロシアが構想する「ユーラシア経済連合」と中国が提唱する「シルクロード経済ベルト」構想を統合していくことで一致した。中央アジアをめぐる双方の思惑の戦略的調整が図られたことになる。


 欧米に対抗する新興国の政治的、経済的枠組みが国際舞台で現実化しようとしているのだ。ウクライナ問題でG8を離れたロシアと世界トップクラスの経済力を誇る中国との結束が下支えしているのだが、非欧米世界の台頭が歴史を画するものであることを物語っている。


堀江則雄

村井 淳著

『母なるヴォルガ ロシア史をたどる川旅』

ロシアの懐の深さを味わう

 世界最大の陸地面積を誇るロシアは、河川の国でもある。大小さまざまな河川が交通と運輸の大きな柱となっている。

 歴史を振り返れば、コサック部隊が60年ほどで、道なきシベリアを横断してオホーツク海まで達し、シベリアを征服できたのも、多くの大きな河川を活用できたからであった。ヴォルガ、カマ、ウラル、イルティシュ、オビ、エニセイ、レナ、アムールなどの大河川である。多くはその長さ、流域で世界十指に入る。



 本書が扱うヴォルガもその一つで、モスクワ北西の丘陵に水源を発し、ロシア平原を縦断してカスピ海にそそぐ、全長3530キロの大河だ。そのヴォルガを運河経由で北方、サンクトペテルブルクへ、そしてカザン、ヴォルゴグラード、アストラハンの南方へと川旅をした経験を踏まえて、著者のロシア史についてのうんちくを披露している。



 旅は、モスクワ北西郊外の「川の駅」から出発する。筆者もここから船旅をしたことがあるが、「この駅から5つの海に行ける」とい大きなポスターに驚いたことを覚えている。実際、モスクワから白海、バルト海、カスピ海、黒海、地中海へと船旅ができるのだ。

 その船も30005000トン級の立派な客船だ。日本の川船では想像もできない大きさである。



 モスクワからヴォルガへは、モスクワ運河を経由する。さらに北へはバルト運河、白海運河を経ることになるのだが、いずれもスターリン時代の強制労働によって建設された。多くの犠牲者を生んだのだが、その素晴らしい景色とはまさに好対照の負の歴史である。


 ヴォルガ本流を南へと縦断すると、“母なるロシア”、ロシアの懐に深さを実感すると言う。イスラムのモスクが並ぶカザン、各地のクレムリン(要塞)の風景、ドイツ人入植地、独ソ戦最大の激戦地だったヴォルゴグラード、キプチャク・ハン国の首都だった「サライ」、そしてキャビアの産地アストラハン――。


 ヴォルガはロシアとチュルク系異民族との境界線だった。

 さぁ、この一冊を手に、ヴォルガ・クルーズに出かけよう。


153月刊、東洋書店、ユーラシア・ブックレット、63p、800円+税


 サハリン南部・道北の“一体化”の流れ

      国境モニターツアーに参加して


 6月中旬、国境地域研究センターなど主催のサハリン国境モニターツアーに参加して、稚内コルサコフ(旧大泊)、ユジノサハリンスク(旧豊原)の日ロ両国の国境地帯をめぐった。

 そこで痛感したのは、国境を「行き止まり」ではなく、「ゲートウエー」にすることが国境をはさんだ両国地域の発展、 振興に不可欠であるという事実であった。実際、歴史的にも、そして地理的にもサハリン南部と北海道北部が“一体化”していたこと、今日もしていることを学んだ。



 稚内では、市街地の道路標識や店舗の名前に日本語とロシア語が併記されており、国境の街だと感じた。日本の北の果てとしてではなく、隣接の地サハリンとの交流圏の拠点として街を振興させようとする気概があるようだ。

 稚内の宗谷岬からサハリンの島影が見えるが、稚内港からコルサコフ港まで140キロ、約5時間のフェリーの旅である。

 ラペルーズ(宗谷)海峡に国境線は引かれているが、地形など自然はまったく変わらない。氷河丘陵地帯のゆるやかにうねる丘が双方ともつながっている。黄色いキンボウゲ(金法王花)が野原一面に咲き誇っているのも同じだ。専門家によると、生息する動植物もほぼ同じで、かつてはマンモスも生息していたと言う。

 夏にだけ運行するこのフェリー定期航路の廃止がとりざたされていたが、別会社で運航が継続されることになったとのニュースが飛び込んできた。定員230人の貨客船にツアー一行など40人ほどの日本人とロシア人10人足らずのお客で心配していたのだが・・・。



 日露戦争後から第二次世界大戦敗北まで40年間、南サハリン(樺太)は日本領となり、多くの町が建設された。その当時の少なくない建物が今も健在だ。当時は、内地から数多くの定期航路があり、宗谷海峡は内海化していた。それがソ連の北緯50度線を越えた侵攻で、負の遺産となるのだ。

 州都ユジノサハリンスクはシベリアの地方都市と同じように近代的街づくりが進行しており、緑の多い綺麗な街路になっている。樺太神社跡に整備された戦勝公園にワシリエフスキー総司令官(対日進攻軍)の銅像が立っていた。この5月9日に建立したという。いろいろ考えさせられた。



 “一体化”の流れの圧巻は、コルサコフ郊外アニワ湾のプリゴロドノエで稼働している巨大なLNG(液化天然ガス)基である。2009年に建設された。サハリン北部の産地から900キロのパイプラインでここに搬送し、タンカーで日本、韓国、東南アジアに輸送されている。

 ちょうど、海霧がたちこめるなか、タンカーが入ってきて、ガスを抜く火花が上がっている光景は、国境地域の新たな、エネルギッシュな胎動を感じさせた。ここから北海道、日本へはパイプライン敷設による大量輸出も検討されている。

 残念だったのは、ロ日協会サハリン支部、「サハリン日本」友好協会が活動をやめていたことだった。



土井全二郎著

『西伯利亜出兵物語』

今日の自衛隊「出兵」と重なる


 憲法9条を破壊する「戦争立法」が国会に提出され、「わが軍」(安倍首相)こと自衛隊の海外派兵、出兵が大きな政治問題になっている。戦争か平和かである。

 海外での出兵の目的や口実と実際との大きな違い、宣戦布告なしの武力行使や治安維持なるものの内実――。「平和のため」とか「邦人保護」なる建前がいかなるものか、それを教えてくれる日本軍の出兵が100年ほど前にあったのだ。


 西伯利亜(しべりあ)出兵である。この「出兵」は、1917年のロシア革命後の内戦に、欧米そして日本が革命の圧殺をねらって軍事介入した干渉戦争である。本書の副題は「大正期、日本軍海外派兵の苦い記憶」となっている。

 シベリア出兵に関して書かれた書籍は、学術的なものや文学など少なくないが、本書は広い意味でシベリア出兵に絡んだ人物ごとに、「物語」として手際よくまとめて、出兵の裏面史を分かりやすく明らかにしている。そこに利点があり、著者が新聞記者出身だけに文章も平易だ。

 

「シベリアお菊」、「風雲児島田元太郎」の章が面白い。ただ面白いだけでなく、明治以降の日本人の大陸、シベリア進出の初期の荒々しい姿、意欲的な開発魂、次第に色濃くなる軍事的進出、シベリアと長崎との関係などが明らかになってくる。

 シベリアに出兵した日本軍に対して現地で反戦活動を行った3人を3章を割いて詳しく紹介しているのは、特筆すべきだ。「パルチザン佐藤三千夫」は宮城県出身の反戦活動家として知られているが、「社会主義者中尉長山直厚」「革命軍飛行士新保清」については未知の人だった。


 欧米各国との共同出兵で思惑の違いがあったこと、出兵目的のチェコ軍救出から居留民保護、治安維持への変更、海軍陸戦隊のウラジオストク上陸の口実としての居留民殺害「石戸事件」の陰謀――。今日の自衛隊「出兵」問題でも、「邦人保護」とか「治安維持」、「共同行動」とかが口実なっているが、その内実がいかなるものか知るには、恰好の書である。



148月刊、潮書房光人社、276p、2200円+税