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堀江則雄のブログ ユーラシアの風

ユーラシアの各地で起きていることについて思っていることを書き連ねる。


原油安――

ロシアに何をもたらすか

 

今年に入って、“原油激安の時代”に突入したようだ。ついに1バレル=26ドルを記録した。2年前の3分の1以下だ。原油大国イランの市場復帰、米国の原油輸出解禁、中国など新興国の需要減――原油安がしばらくつづく構図だ。


 原油価格とロシア(ソ連)の経済・政治動向は深い関係がある。経済が崩壊しソ連解体となった80年代末は、1バレル=10ドルほどの超安値がつづいた。経済・政治が混迷した90年代も、1520ドルの安値だった。

 それがプーチン大統領登場の2000年以降、原油価格は急上昇し、1バレル=30ドルから100ドル近くまでなった。その高値水準は2014年前半までつづき、ロシア経済は復興、成長した。政府歳入の半分、輸出の6割が石油・天然ガス関連のものだから、当然と言えよう。


 今日ロシアは、原油高による超過収益によって消費ブームが起き、生産設備が再稼働し成長していくというプーチン型の成長モデルの破綻に直面しているのである。一つの転換期にあるとも言えそうだ。

 通貨ルーブルが最安値をつけ、景気も低迷している。

 ルーブル1月、1ドル=85ルーブルと、1998年のデフォルト危機以来の下落となった。一昨年は35ルーブルだっただけに、その落ち込みは大きい。

 ルーブル安による輸入商品の値上がりなどで、昨年のインフレ率は13%超になる見込みだ。企業業績も低迷し、個人消費も落ち込んでいる。企業倒産も、予想以上に多く、続出している。


 シルアノフ財務相は「熟慮された措置をとり、新たな現実にふさわしい予算を組まなければならない」と強調している。

 今年の予算は、原油1バレル=50ドルを想定して組んでいたが、想定外の激安になっているため、歳入が5000億ルーブル(約8000億円)不足するという。歳出削減を余儀なくされそうだ。

 ロシア紙では、1998年のロシア金融危機のような事態が起きる可能性も指摘されている。当時はルーブル切り下げや対外債務の返済猶予に追い込まれた。経済破綻の局面である。その後、原油価格の値上がりとともに、経済は急速に回復したのだった。


 だが、今日はこの時代と決定的に違う。原油高の10数年間で、プーチン政権は外貨収益、財政黒字を蓄積し、危機に備えた基金を創設してきた。景気刺激のための「国民福祉基金」と財政赤字補てんのための「準備基金」の二つだ。昨年末で約8兆ルーブル(約12兆円)ある。外貨準備高も約3600億ドル(約42兆円)だ。

 2008年のリーマンショックでも、GDPはマイナス7.9%も落ち込んだが、この「基金」による大量の金融緩和とテコ入れで翌年、V字回復している。プーチン・ロシアの経済基盤はそれほどヤワではない。今後、数年間は大丈夫だろう。


 だが、この「基金」は14年後半に15600億ルーブル、15年も21300億ルーbルが使われた。このペースだと、「基金」はいずれ底をつく。この数年間に資源依存経済からの構造的転換を行う内外政策を貫徹できるか――ロシアの近未来はそこにかかっている。


堀江則雄


鴨川和子著

『南ロシア――草原、古墳の神秘』

重なるユーラシアの“古層”


 南ロシア。ドン川水域一帯からアゾフ海沿岸周辺にかけての地域を指している。この広漠たる大ステップに古代から現代まで積み重なっているユーラシアの“古層”が存在している。それが今日のロシアの懐の深さの源だ――。そのことを、何回にもわたる現地訪問・調査で分かりやすく解説したのが、本書である。

 “ステップのマンモス”と言われるトロゴンテリーゾウの発掘、紀元前5世紀ごろからこの大地を疾駆した最初の騎馬民族であるスキタイ人、サルマタイ人のクルガン(古墳)、守護神とされたユーラシア石人――。考古学の分野だ。アゾフ海から黒海沿岸にかけてのギリシャ植民都市の遺跡も出てくる。

 13世紀ごろから大草原を支配したキプチャク・ハーン国、さらに騎馬民族ポロベッツなどのチュルク系諸民族。そしてドン・コサックが出現する。やっとロシア時代に入るのだ。

 スキタイ人のクルガンや石人は同じものがアルタイ地方、東シベリアでも発掘されており、チュルク系諸民族同様、ロシア・ユーラシア全域に広がっている。

 南ロシアが歴史的にきわめて多様な種族、文明が積み重なっていることがよく分かる。こうしたユーラシアの“古層”が今日の南ロシア社会、ひいてはロシア社会全体、ロシア人の精神の奥底に横たわっているのではないだろうか。

 ドン・コサックの起源は一般的にロシアからの逃亡農民とされているが、チュルク系民族にその由来をからめているのは、興味深い。ドン・コサックの歴史についての記述やその古都訪問、コサック祭り見学、歴史博物館の内容も面白い。

 著者は日本でロシア美術史やマンモス展など展覧会を組織しており、南ロシアのロストフやアゾフの博物館、美術館との人的ネットワークに豊かだ。そのおかげで日本ではほとんど知られていない貴重な場所や土地のエピソードを紹介している。

 加えて、各地の遺産や風景などのカラー写真は鮮明で珍しいものが多い。それを眺めるだけでも価値があるが、これも、そうしたネットワークの賜物だろう。ロシアを深く味わうには格好の書だ。


(雄山閣、159月刊、344p、4500円+税)

堀江則雄


2016年 ロシア・ユーラシア

波乱の幕開け

 2016年。ロシア・ユーラシア各国は波乱の幕開けで新年を迎えた。昨年からつづく内外情勢の厳しさは予断を許さない。ピンチがチャンスになるか――。

最悪期脱するか?ロシア経済

 昨年のロシアのGDP(国民総生産)はマイナス成長で、3.71-10月)を記録し、外貨準備高も5.61-11月)となった。かつてない縮減である。インフレも15.6となった。

 原油価格の大幅安とウクライナ危機での欧米による経済制裁がその原因だ。とりわけ原油価格は1バレル=100ドル台から50ドルを割り込み、年末には38ドルを記録した。

 今年も原油供給は米国の輸出解禁、イランの輸出再開など過剰気味で、原油価格の安値トレンドはつづくだろう。原油・天然ガスの輸出に依存するロシア経済の厳しさは変わらない。

 プーチン大統領は年末恒例記者会見で、「経済は、最悪期は過ぎた」と言明したが、先行きはそれほど明るくない。

IS、シリア内戦、ウクライナ危機…

 過激派組織IS(「イスラム国」)包囲網にロシアが加わったのが、昨年の新展開だった。シリア内戦終結とイラク安定、ISへの資金・武器提供の根絶がIS一掃のカギだが、戦闘機撃墜をめぐるロシア・トルコの対立、アサド政権をめぐる米ロの軋轢など複雑だ。

 プーチン大統領はシリア内戦の政治的解決に「移行政権」樹立などで主導権を取っている。アサド政権は国連でもシリアを代表している正統な政権であり、ロシアのアサド支援は正当なものだ。反政府勢力を支援している米国は内戦干渉となる。

 プーチン大統領はウクライナ問題でも、「西側と対決するつもりはない。国益を守っているだけだ」(年末会見)と、ドンバスでの政治的解決を求めている。シリア問題とウクライナ問題を連動させつつ、イニシアチブを発揮する構図だ。

インド、パキスタン、イラン

 ユーラシアをゆるやかに束ねている地域協力組織である上海協力機構(SCO)が大きく拡大する年になる。創立以来15年で、初めてのことだ。

 インドとパキスタンがSCOの正式加盟国になるのだ。ロシア、中国、中央アジア4カ国の加盟国に南アジアの両国が加わる。インド、パキスタン両国も関係改善に踏み出している。

 プーチン大統領はSCO拡大を「時代の要請だ」としており、中国、カザフスタンなども外交の多面的展開に不可欠と歓迎している。

 これによって、ロシア・中国・インドのユーラシア三大国が政治・外交的、経済的に結束を強めることになるだろう。

 さらに中東の大国イランも核疑惑の解消による制裁解除によって、SCO加盟に大きく近づいている。今年のSCO首脳会議の主要議題になろう。



堀江則雄




塩原俊彦著

『ウクライナ2.0―地政学・通貨・ロビイスト』

ウクライナ、シリア…米国の介入戦略を分析

 昨年からつづいているウクライナ危機はこの地域の不安定化をもたらしているだけでなく、米ロ関係の緊張を招き、世界の平和・安定にも否定的影響を及ぼしている。

 そのウクライナ危機の原因は、クリミア半島の併合で領土拡張を狙い、東部のドンバス地方で軍事介入して内戦をもたらしたプーチン・ロシアにあるというのが、日本の主要メディアのもっぱらの論調である。それは、欧米の論調を引き写したものなのだが。

 

本書は、それとは真っ向から反する視点から書かれている。

いわゆる「マイダン革命」の評価である。一般的には、政権腐敗と親ロシア政策に反発した市民による民主主義と公正を求めた政権交代とされている。

 本書は、米国政府の扇動によって引き起こされた事実上の“クーデター”だとしている。米国が極右民族主義勢力を戦闘訓練士、ヌーランド国務次官補らが資金援助や扇動によって、前日の与野党合意を覆して暴力によって大統領を追放したものだと指摘している。

ロシアによるクリミア編入や東部での内戦も、米国扇動のクーデターに対する巻き返しであり、ロシアの拡張主義が主因ではなく、米国の内政介入を柱とした対ロ強硬外交がもたらしたものだと分析している。

 もちろん、対ロシア経済制裁には大義もなく、そして米ロ関係の緊張・対立の強化も、米国の干渉戦略が主たる起動力だと、様々な事実を例示して強調している。

 さらに、ウクライナ危機以降のロシアの経済情勢や対中国との関係の密接化などの背景にメスを入れている。ロシア経済の困窮化とか一方的な中国依存という一般的、通俗的な報道を実証的に否定し、大きな世界的な転換の動向を明らかにしている。

 米国の地政学的戦略、グローバル大企業の動向、通貨問題なども分析して、国際情勢を見ていくうえでの貴重な視点を提供してくれる。

 本書は全体として、ウクライナ問題の欧米寄りの通俗的な解説に対する“毒消し”として有益だ。

 ただ、本書も分析的に読む必要があるだろう。

社会評論社、156月刊、300p、2,600円+税

堀江則雄





シリア内戦とロシアの空爆

そしてパリ同時多発テロ、IS空爆・・・

 1113日にパリで起きた、過激派組織IS(「イスラム国」)による同時多発テロ(129人死亡)が世界に衝撃をあたえている。

 この大規模テロ事件は単発ではない。その直前に起きたエジプト・シナイ半島の観光地からサンクトペテルブルクに向かっていたロシア旅客機の爆破事件(224人死亡)、そしてレバノンの首都ベイルートでの連続爆破テロ事件(43人死亡)、トルコの首都アンカラでの爆弾テロ事件(103人死亡)も、ISが犯行声明を出している。



 ロシアは930日からシリアのアサド政権支援とISせん滅を掲げてシリアでの空爆を開始していた。米国やフランス、トルコ、サウジアラビアなど「有志連合」が昨年9月からイラク、シリアでの対IS空爆を実施していたが、それとは別の形でIS包囲網に加わった形だ。

 今回のパリ同時多発テロで、オーランド大統領は「戦争状態」を宣言し、シリア空爆を格段に強化している。

 ロシアも旅客機爆破をテロと認めてこなかったが、今回、ISによるテロと断定、オーランド大統領と歩調を合わせている。IS支配地域への数次にわたる重爆撃を実施し、巡航ミサイルを撃ち込み、戦略爆撃機も使用している。プーチン大統領はフランスを“同盟国”と呼び、「敵を最後まで追い詰める」と言っている。

 


1115日、トルコで開催されたG20首脳会議でテロへの共同対処が宣言されたが、同時に開かれたBRICS首脳会議で、プーチン大統領はこう強調した。

 「テロに打ち勝つためには、国際社会の努力を一にすることが不可欠である」、「国連憲章と国際法を順守し、各国の主権と国益を尊重することが必要だ」。

 これは、アサド政権打倒の反政府武装勢力を支援している米国など欧米各国に、アサド政権への立場の違いを乗り越えて、IS打倒で共同戦線を組もうという考え方だ。


 これに関係して、シリア内戦をめぐる関係17カ国会議が1114日ウィーンで開かれ、和平プロセスの日程で合意した。①アサド政権と反政府派が参加する「移行政権」を6カ月以内に発足させる②18カ月以内に国連監視下での選挙実施を目標とする――。アルカイダ系の「ヌスラ戦線」はじめ各派に分かれている反政府派をどう扱うか、など問題は山積している。だが、この和平プロセスの進展が注目される。



 過激派組織「イスラム国」が、米国によるイラク戦争、そしてシリア内戦介入による破綻国家をつくりだした状態のなかで生まれたのは周知のことだ。シリア内戦の終結は、ISへの大きな政治的対抗だ。

 シリア空爆、“対テロ戦争”は解決策にならないだろう。それは多くの居住者も殺害し、難民をさらに生み出すだろう。英国の人権団体によると、ロシアの一カ月間の空爆で595人が死亡し、うち185人が市民だったという。米国主導の「有志連合」がこの一年間で行ってきた空爆も、同じような状況だろう。

 憎悪が憎悪を、報復が報復を生む悪循環にストップをかける――。政治的、平和的解決こそが遠回りのようで、実は近道だし、その道しかないのではないだろうか。



堀江則雄