堀江則雄のブログ ユーラシアの風 -13ページ目

堀江則雄のブログ ユーラシアの風

ユーラシアの各地で起きていることについて思っていることを書き連ねる。

みなさま

諸事情により、1年ほど休載していましたが、また再開します。

よろしくお願いします。


ウクライナ、ロシア、EU

政治的解決を探れ

 ウクライナ情勢は2月のキエフでの政変の後、316日のクリミア自治共和国住民投票での圧倒的支持を経て、同共和国がロシア連邦に編入されるなど危機的な状況がつづいている。この地域の平和と人々の生活の安定がそこなわれている。

 ウクライナ暫定政権の政策、ロシアの軍事を含めた介入姿勢とクリミア併合、これに対する欧米各国による対ロ制裁の発動など国際情勢は緊迫し、日ロ交渉にも大きな影響を及ぼしている。「軍事的圧力」とか「併合」とか「制裁」は問題を解決しないどころか、いっそう紛糾させるだけだ。

 今こそ、ウクライナ、ロシア、EU(欧州連合)が対話・交渉によって平和的、政治的な解決策を探ることが求められる。

 そうした解決策を目指すうえで無視できない二つの視点を指摘しておきたい。



221の「合意」は?

 一つは222日の暴力的な政変である。

 前日の21日に行われたヤヌコビッチ大統領と野党各派との「合意」が覆されたのだ。この「合意」は危機打開のために、①大統領権限の縮小②与野党による「暫定国民連合政権」を10日以内に樹立する②大統領選挙を前倒して5月末に実施する、というものだった。

 この合意はEUとロシアの特使の仲介で成立したのだが、一晩で覆され、出来たのは“勝者の政権”だった。腐敗と強権のヤヌコビッチ政権を打倒したとする現在のウクライナ暫定政権の正当性が同国憲法からも問題になってくる。

 暫定政権には一部の排外主義的な国粋主義グループが加わっており、民主派・親EU一色ではない。反政府勢力と治安部隊との衝突で100人近い死者が出た際にも、このグループが狙撃したという。ウクライナには、50年代まで反政府武装グループが存在したのは、歴史的な事実である。

 いま進行しているのが「ウクライナ革命」だとするなら、その「革命」は国民の統合と生活にとってきわめて危ういものだ。


「クリミア」と「コソボ」

 もう一つは、領土主権と民族自決の相克である。ウクライナの領土主権を尊重するべきことは言うまでもなく、一方的な領土の変更は許されない。だが一方、クリミア自治共和国で多数を占める民族が自決する権利もある。この二つの葛藤は慎重に考慮されねばならない。他国による領土の一方的「併合」は、「独立」とは別の問題となる。

 クリミアで現在進行している状況は、08年のセルビア共和国のコソボ自治州がNATO・EUの支援の下、住民投票の圧勝により独立宣言したときと酷似している。当時、欧米各国はすぐにコソボ独立を承認したが、セルビア共和国は独立を認めず、ロシアなども拒否している。つまりロシアがクリミアで行っていることは、欧米がコソボで行ったことをなぞっているのだ。


深くつながる対等な国家

 ウクライナはソ連崩壊の独立以来、親欧州と親ロシアで揺れてきたし、04年の「オレンジ革命」など政変もあった。経済も復興のメドが立たず、厳しい状況がつづいている。ウクライナにはEUとの関係強化への期待が強い。ロシアとは歴史的に文化的、社会的な深いつながりだけでなく、最大の貿易相手国、エネルギー供給国、最大の国債保有国である。ウクライナにロシア系市民が多いだけでなく、ロシアにもウクライナ系市民が少なくない。

 もちろん、ウクライナはロシアの“弟分”国家ではなく、対等な独立国家である。だが、ロシアと完全に断絶したウクライナの存在はありえないのではないか。EU市場ともロシア市場とも関係改善した場合に、ウクライナの経済的成功の可能性があるのだろう。ロシアとEUとの貿易総額も13年は4600億ドルと米ロのそれの11倍と深いつながりがある。

 ウクライナ・ロシア・EUの三者協議による政治的解決の可能性には、現実的基盤があるのだ。(14年320日記)



堀江則雄(ジャーナリスト)


ロシアとチュルクのことば交流

 閑話休題。

 


21世紀に入って、シベリア、極東ロシアに関心が集まっており、ロシアの重心は東へ、東へと動いている。このロシアの“東方移動”は最近とみに高まっている。

 それはロシアのアイデンティティにも大きな影響を及ぼしている。モンゴル支配によってロシアはアジアの後進性、停滞にとどめられたとする「タタールのくびき」という考え方が逆転しているのだ。

 つまり、ロシアはタタール=モンゴルなどチュルク系諸民族と一体化したことによって、ロシアの独自性が育まれたのであり、ユーラシアの一部であることにアイデンティティがあるという考え方である。そうしたロシア国民の観念の転換が、ユーラシアの胎動のなかで進行しているのである。

 各方面から注視されているプーチン政権の極東ロシア開発、アジア太平洋重視の路線は、ロシア経済の重心(例えば石油・天然ガスの産地)が東へ移動していることの反映であろう。だが、この動きも、こうした国民的考え方の転換が底流にあることは無視できないだろう。さらに、こうした東への動きそのものが、ロシアのアイデンティティ転換に拍車をかける――相互作用である。

 もともと、ロシアはユーラシアの一部であり、チュルク系はじめユーラシア諸民族との深い接触・交流のなかで形成されてきたのである。東方性こそが、ロシアの特徴なのだ。

 その一つの証左に、ロシア語とチュルク系諸語(チュルク語)のことばの交流、ロシア語のチュルク語からの借用があげられるだろう。

 ある言語学者によると、チュルク語から借用されたロシア語のことばは、およそ2000にものぼると言う。チュルク系諸民族は遊牧民族だっただけに、馬などの動物、皮革などに関連したものが多い。

 だが、それだけではなく、ロシア人の基本的な生活にかかわることばも少なくない。商品、お金、税関、レンガ、本、鉛筆などのロシア語はチュルク語が起源だとされる。

 商品( タヴァール)は、古代チュルク語tavar、モンゴルル語tawarから借用されたもので、もともと家畜を意味し、そこから財物、財産の意味が発生し、さらに商品の意味になった。

 ちなみに同志( タヴァーリシチ)は、イシチがチュルク語で仲間のいみがあり、

全体として「財の仲間」という意味になるという。ソ連時代に生まれたことばではなく、チュルク語を起源とする古くからのロシア語なのである。

 お金( デェーニギ)というロシア語も、チュルク語やモンゴル語の「テンゲtenge」(銀貨)が語源だとされる。

 ここで言うチュルク語とは、近代トルク語成立以前のタタール語やカザフ語などを現すことばである。スラブ系であるロシア語は、アルタイ系のチュルク語をシャワーのように浴びながら豊かになっていったのである。


極東開発に熱い視線

プーチン路線と日本

 4年ぶりに権力トップに復帰したプーチン大統領は、極東・東シベリア開発を政権の戦略的目玉と位置づけている。そのための方針と体制を相次いで明らかにしている。

 ひとことで言えば、今、極東開発に熱い視線が注がれているのだ。

 日本では、日本海の向こうのロシアの領域はウラル山脈まで広大なシベリアとされる。だがロシアの行政地図では、シベリアはバイカル湖から始まる。そこまではザバイカル・極東地方である。

 極東管区は、アムール州、ユダヤ自治州、カムチャツカ地方、マガダン州、沿海地方、サハ共和国、サハリン州、ハバロフスク地方、チュクチ自治管区の9連邦構成体で成っている。

 ロシア全土の36%もの面積を占め、大きな資源が埋蔵されている。だが、人口は720万人にすぎず、全体の5%である。将来の大きな可能性を秘めているのだ。とりわけ、ロシアの石油・天然ガスの産出地帯が東へ、東シベリア・極東へと移っている。だが、ほとんど手つかずで、21世紀ロシアのフロンティアとされる。

 その極東の巨大開発のためのメガプロジェクトが動き出している。それには、次のようなものが挙げられている。

 *大陸とサハリンのモスト構想。大陸とサハリンを鉄道で結ぶ。橋とするか海底トンネルとするかは未定だ。また自動車道路の併設も検討している。橋だと約6キロ、トンネルだと12キロと想定され、総費用は30004000億ルーブル。

 *第二シベリア鉄道であるバム鉄道(バイカル・アムール鉄道)の完全複線・電化。距離は3600キロ。総費用は1兆ルーブル。アジア太平洋との物流拡大に備える。

 *ヤクーツクからマガダンへの鉄道建設。シベリア鉄道からヤクーツクまでは昨年、開通。

 *チタ・ハバロフスク間、ハバロフスク・ウラジオストク間の高速自動車道路の整備。

 *LNG(液化天然ガス)プラントの新設と拡張。サハリンからの天然ガス・パイプラインの沿海地方に巨大LNG基地を建設し、サハリン南部のLNG基地を大幅拡張する。

 *沿海州に石油化学コンビナートを建設。東シベリア、極東から流れてくる原油を加工して輸出する。

 *ボストーチヌィ宇宙基地の建設。アムール州に建設し、2018年の友人宇宙船の打ち上げをめざす。総費用4000億ルーブル。

 *中国と折半した大ウスリー島の開発。中ロ共同の観光センター、ビジネスセンターを整備する。

 このために極東発展省が新設され、イシャーエフ元ハバロフスク州知事( 大統領極東管区代表)が大臣に就任し、同省はハバロフスクに置かれる。2020年までに9兆ルーブル(約25兆円)の予算を担うことになる。

 この極東大開発は、日本にとっても大きなビジネスチャンスだ。領土問題を解決した平和条約締結の機運が再活性化する背景でもある。

堀江則雄(ジャーナリスト)

「世界5大経済国」、「東へ、東へ」

 プーチン就任の大統領令

 大統領として返り咲いたプーチン氏は57日のクレムリンでの就任式とともに、内外政策にかかわる注目すべき大統領令を二つ出した。国内政策と外交路線を「実現する措置について」の大統領令だ。素早い対応である。

 内政では、ロシアが2018年までに「世界の5大経済国に入ること」を最大の目標に掲げている。かなり意欲的な目標だが、プーチン大統領は「達成は可能である」と力説している。

 さらに、この大統領任期が終わる2018年までに、次のようなことも課題にしている。

 *世界銀行のビジネス環境ランキングでロシアを現在の120位から20位に押し上げる。

 *生産性の高い産業分野の雇用を2500万人増やす。労働生産性を1.5倍にする。

 *GDP(国内総生産)におけるハイテク・知識集約産業の生産の割合を13倍にする。

 *ロシアの長期にわたる人口減少に歯止めをかけ、少なくとも現在の人口を維持する。

 いずれもロシアの経済・社会システムの「近代化」に不可欠な課題だが、とりわけ注目されるのは、「ビジネス環境ランキング」である。

 このためには、所有権の完全な保護、行政の透明性、裁判の独立が必要になってくる。とくにロシアのビジネス展開を妨げている汚職・腐敗の一掃が求められることになる。一言でいえば、ロシア社会の真の民主化である。

 いずれも、この10年以上にわたってその根絶が掲げられてきたが、進展のなかった課題だ。

 外交路線の実現に関する大統領令では、外交政策の基本は「ロシアの長期的発展、経済の近代化、世界市場におけるロシアの立場の強化に好都合な対外条件を促進することだ」と、経済に重点を置いているのが特徴だ。

 そのなかでは、国連の中心的役割に加えて、世界政治におけるBRICS、G20、上海協力機構の役割の向上を指摘している。そして書く地域、問題ごとにロシア外交の基本を明らかにしている。

 力点を入れているのは、アジア太平洋地域であり、「東シベリア・極東の発展」と「ユーラシア経済連合」だ。

 プーチン大統領にとって、東シベリア・極東は21世紀ロシアのフロンティアであり、世界5大経済国になる潜在力はここにある。だから、大統領の視線は「東へ、東へ」と向かっている。そこには中国、日本、韓国がある。

 東シベリア・極東開発の国営会社を大統領直属で設立する構想も浮上している。20年間で30兆ルーブルという巨額の資金が必要という試算もある。

 中国とは東シベリア・極東開発のための中ロ共同投資基金(約40億ドル)を創設することで4月基本合意している。日本や韓国にも投資を呼び掛けている。

 日ロ関係、とりわけプーチン大統領が「最終決着させたい」と言っている領土問題にも、この東シベリア・極東戦略が影を落としているのだ。

BRICS5カ国の結束

世界金融・開発に衝撃


 欧米主導の世界金融・開発のシステムが揺らいでいる。経済力を抜本的に強めてきた新興国が、経済力に裏打ちされた自らの立場を主張し、具体的な構想を打ち出しているからだ。

 3月末にインドの首都ニューデリーで、BRICS5カ国の首脳会議が開かれた。英語の頭文字でブラジル・ルセフ、ロシア・メドベージェフ、インド・シン、中国・胡錦涛、南アフリカ・ズマの新興5カ国大統領、首相らが結集した。

 この首脳会議で、IMF(国際通貨基金)や世界銀行の改革、新「開発銀行」の設立、各国間貿易での自国通貨使用・ドル使用制限の方針などを盛り込んだデリー宣言を採択して、注目を集めた。

 BRICS5カ国の宣言は、公正かつ民主的な世界経済秩序を求めていくというものだ。これまでは、戦後の欧米主導の世界経済を支えてきたIMFと世界銀行への発言権の増大を求めてきたが、今回は途上国のインフラ整備や経済振興に融資する「BRICS開発銀行」と具体的な構想に発展した。

 つまり、欧米主導の途上国援助の枠組みに対抗して、有力新興国が国際社会での影響力を飛躍的に高めようとする画期的なものだ。

 世界銀行の総裁は米国が、IMFのトップは欧州が一貫して独占し、欧米の利害に沿った途上国の開発や為替安定が行われてきた。新「開発銀行」設立はこれに対する対抗措置である。これが実現すれば、BRICSがつくる初めての国際機関になる。

 BRICSはIMFの議決権拡大や世界銀行総裁への立候補などによっても挑戦している。こうした事態は、08年のリーマンショックによる国際金融危機後に本格化しており、昨年からの欧州財政危機でいっそう拍車がかかっている。

 この5カ国は2000年代に入って急成長を遂げており、世界に占めるGDPの割合は当初の8.7%から11年には19.5%にもなっている。米国のそれと肩を並べる勢いだ。人口では世界の43%を占めており、大きな存在感がある。この経済力が攻勢の背景にあるのは間違いない。

 BRICS首脳会議は今回が4度目である。初の首脳会議は09年にロシアが呼び掛けたもので、エカテリンブルクで開催された。この時点ではBRICs4カ国だったが、昨年から南アフリカが参加した。この5カ国はG20の主要メンバーであり、G20首脳会議でも大きな影響力をあたえている。

 デリー宣言は、イランの核問題やシリア情勢についても平和的、外交的解決や当事者の対話による解決を支持することも表明している。世界政治の焦点の問題での意見一致も注目される。

 メドベージェフ大津横領は「BRICSは将来にわたっても世界経済を安定したバランスのとれた発展へ向かうよう貢献していく」との声明を発表した。

 胡錦涛主席は「BRICSは新興国と途上国の大家族の重要な部分であり、共同発展を促進する積極的な勢力だ」と述べている。

 この5カ国の結束の背景に、中露両国、インドが加わる、ユーラシアを束ねる上海協力機構の10年間の活動の積み上げがあることは無視できない。