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堀江則雄のブログ ユーラシアの風

ユーラシアの各地で起きていることについて思っていることを書き連ねる。



ウクライナ危機、「特別な地位」で政治解決を


 ウクライナ政府と東部の分離派武装勢力とが9月、停戦に合意し、紛争の平和的な解決に向けて、ウクライナ危機は大きな転換点を迎えている。


 ウクライナで対峙している両勢力の合意は画期的なものだ。だが、それから1か月以上も過ぎたが、合意・協定の具体的な履行はスムーズでなく、10月のプーチン・ポロシェンコ首脳会談でも大きな前進はなかった。散発的な衝突もまだ起きているようだ。

 これまでも「停戦合意」は何回かあったが、すべて反故にされてきた。しかし、今回は違うようだ。


 第一に、内戦当事者のウクライナ政府とドネツク、ルガンスク両州の分離派武装勢力が合意したことが重要である。これまでウクライナ政府は分離派武装勢力を「テロリスト」と呼び、交渉のまともな相手にしてこなかった。その合意をロシア政府代表とOSCE(欧州安保協力機構)監視団代表が裏書きした。

 中身はプーチン大統領がこれに先立ち提唱した7項目提案に近い。停戦合意は12項目で、双方が即時停戦する▽双方の人質・捕虜の釈放▽重火器など大型兵器の戦闘地域からの撤去▽東部両州への「一時的な自治権」の付与▽人道支援物資の提供――などである。

 なかでも注目されるのは、大型兵器の撤去と自治権付与である。大型兵器の撤去はウクライナ政府軍の東部からの撤退につながるからである。


 東部両州への自治権については、経済政策や治安など大幅な自治権をあたえるものになりそうだ。ウクライナ国会はこの合意をうけて、両州に3年間の「特別な地位」を認める法案を承認している。それは独自の議会選出や言語政策の独自性、経済・内政に独自性、ロシア行政機関との関係強化を認めている。

 いわば、就任すると「短期間で終わらせる」と豪語して制圧作戦に乗り出したポロシェンコ大統領が、政治的、軍事的に追い込まれたのである。


 軍事的に“敗北”したのがその第一の原因だ。兵力5000人を投入したが、2000人が捕虜になっている。しかも、国連機関によると、すでに戦闘での死者は3000人をこえ、市民の犠牲者が増えるばかりだ。

 経済は破綻し、同国の重工業地帯のインフラが破壊されている。国民生活の惨状は目をおおうばかりだ。加えて、徴兵制も復活した。

 国民の不満と不安は全土に広がっている。ポロシェンコ大統領の分離派への武力制圧路線は転換を迫られていたのである。

 プーチン大統領は当初から「ウクライナの分裂は望まない」と言明し、東部の独立・併合の立場はとっていなかったし、今もとっていない。大幅な自治権を付与した「連邦制」を評価していた。

 今回の「合意」によって、ウクライナ政府は東部両州の「特別な地位」を3年間という期限付きであれ、承認している。プーチン構想に一歩近づいたと言えそうだ。


 だが、11月、ドネツク、ルガンスク両州で独自の議会選挙、「元首」選挙が行われ、独自の政治体制が形成された。独立国家への流れを強めているのだ。ウクライナ政府はこれに反発、「特別な地位」の棚上げを検討しており、政府と分離独立派との対立は再び緊迫化している。

(以上)








シベリアの一隅を旅して・・・



 シベリア最大の都市ノボシビルスクで開かれた「第11回日ロフォーラム」に参加するために、9月シベリアの一隅を旅した。ウラジオストク、ノボシビルスク、バウナウル、ゴルノアルタイスクである。感じたこと、考えたことを述べたい。

ウクライナ避難民

 まず目にしたのは、ウクライナでの内戦が市民生活に及ぼす影響である。ウクライナ東部からの避難民が遠いシベリア、極東の各都市にまで逃れてきているのだ。私が立ち寄ったノボシビルスク市内のホテルには、避難してきた母親と乳幼児でいっぱいで、保育園のようだった。

 3歳の誕生祝いで廊下を走り回っていたナターシャを抱き寄せた母親は、「早く帰りたいのだが…」と顔をくもらせた。

ウラジオストク、ハバロフスク、さらにはマガダンにまで、数十万人の避難民がロシア全土に散らばっているという。

増える出生数

 ロシアも少子化で悩んでいると聞いていた。ところが、意外にもシベリアの街角で乳幼児を目にする機会が多かった。聞いてみると、出生率は以前の13ぐらいから17にまで改善しているという。日本よりも大きい。

 新生児一人当たり40万ルーブル(約130万円)の給付金を出すことになって、出生数が増えたらしい。プーチン大統領の政策では評判がいいものだが、少子化には思い切った対策が不可欠なようだ。

もっとも、この出生給付金、現金ではなくバウチャーのようなもので、育児や住宅購入・リフォームなど支出は限定されているようだ。

スキタイ文化の意味

 ノボシビルスクから南西へアルマトイ(カザフスタン)行きの列車で、アルタイ地方の州都バウナウルを経て、アルタイ共和国の首都ゴルノアルタイスクを訪れた。ユーラシア諸民族の一つアルタイ人の民族主義とアルタイの山岳地帯で発掘されているスキタイ文化に興味をそそられたからである。

 スキタイ人はユーラシアにおける最初の遊牧民族で、紀元前に広い地域で活躍した。古代ギリシャの歴史家ヘロドトスが著書「歴史」でスキタイ人の存在を明らかにしていたが、つい最近までその生活や生態の詳細は明らかになっていなかった。

 それが20年ほど前からアルタイ山脈に点在するクルガン(古墳)からあいついで遺品(鉄製品、土器、衣服、じゅうたん)が発掘され、その水準の高さが証明されている。

 最大の発見は氷づけの「アルタイ・プリンセス」だ。2500年前の埋葬状態がそのまま保存されている奇跡だった。ヨーロッパ系でもアジア系でもないユーラシア的顔相、衣服や布に織り込まれた繊細な模様、各種デザインなど驚くべき文明の一端が明らかになった。

現地では“スキタイ人は草原のピラミッドの建設者”と言われている。

 アルタイ山脈はロシア、カザフスタン、モンゴル、中国にまたがっており、ロシア・モンゴル国境が最近、開放された。ロシアから中国へのガス・パイプラインの建設も決まった。

 スキタイ人が疾駆した草原が今日、一つの経済圏としてよみがえろうとしている――。冬が迫るこの地で思った。


9月5日シベリアの最大都市ノボシビルスクで、日本ユーラシア協会が共催した第11回「日ロフォーラム」が開催された。そこで「ウクライナ情勢と日ロ平和条約交渉に寄せて」と題して報告した。ロシア側の参加者からは「客観的な意見で、その通りだ」、「そういう方向で解決していきたい」などの声が聞かれた。



ウクライナ情勢と日ロ平和条約に寄せて

                  

 ウクライナ東部において、ウクライナ政府軍と分離派武装勢力との軍事衝突がつづき、多くの犠牲者が出ている。国連機関によると、8月末までに、この間の軍事衝突で死者は2000人を超え、避難民も26万人を超えている。犠牲者の多くは一般の市民である。そして、上空を通過していたマレーシア航空機が撃墜されて、世界中に大きな衝撃をあたえた。

 ウクライナの現地から遠く離れた私たち日本の人々も、こうした流血の事態を痛苦の念をもって、注視している。とりわけロシア、ウクライナ、さらにユーラシアの人々との友好を願っている私たちは、一日も早い停戦と政治的解決によって現地に平和な事態が訪れることを切に願っている。

 ウクライナの政治情勢は2月の流血の政変によって、かねてから存在していた親欧米と親ロシアの国内対立が激化し、ウクライナにおける極右勢力の台頭、ロシアによるクリミア半島編入、分離派武装勢力による東部主要都市の占拠と政府軍による制圧作戦など複雑になり、混迷している。

 停戦や平和的解決のための交渉が行われ、ウクライナ、ロシア両大統領に加えて、OSCE議長や仏、独両首脳の仲介によって、何度か停戦合意に近づきながら、その交渉は破綻してきた。そして7月に入ると、ウクライナ政府軍による分離派武装勢力に対する攻撃がエスカレートし、多くの市民に犠牲者を出している。きわめて残念な事態である。

 ウクライナとロシアは、歴史的にも、社会的、文化的にも切っても切り離せない関係だと思う。実際、ロシアには多くのウクライナ出自の市民が混住しており、ウクライナにも多くのロシア人、ロシア語母語の市民が暮らしている。さらに、ウクライナの最大の貿易相手国はロシアであり、最大の債権国もロシアで、最大のエネルギー供給国でもある。

 ウクライナのクライはロシア語で「端」とか「辺境」という意味があるという。しかし、ウクライナはEUの「端」でもなく、ロシア世界の「端」でもなく、双方の「架け橋」になる地政学的位置にあるのではないだろうか。そこにしか、ウクライナ危機の解決の方向はないだろう。ただ、ウクライナとロシアは対等な主権国家であり、ウクライナを「小ロシア」のように扱う仕方は慎むべきだろう。

 この問題で「制裁」は百害あって一利なしである。米国をはじめ欧米による対ロシア「経済制裁」が一方的に実施され、ロシアはこれに「報復制裁」を行っている。双方の利益に反し、世界経済にも否定的な影響を及ぼしているだけでなく、ウクライナ問題の解決を阻害するだけだ。

 


 ウクライナ問題とこの「制裁」は、昨年に日ロ両政府間で再スタートした日ロ平和条約交渉をストップさせている。予定されていた日ロ外相会談や外務次官級交渉が延期されている。残念なことである。

 今回の日ロ平和条約交渉は、核心の日ロ領土問題で「双方が受け入れ可能な解決策を探る」という合意でスタートし、われわれも大いに期待していた。

 日本ユーラシア協会は2011年と2013年に「日ロ平和条約締結促進の全国シンポジウム」を開催し、日ロ両政府が従来の頑なな姿勢を転換し、1956年の日ソ共同宣言を基軸に解決策を探ることが必要なことで意見がほぼ一致した。そして平和条約締結によって日ロ関係の抜本的改善とこの地域の平和と新たな経済圏をつくっていこうという認識で一致した。

 今後もさまざまな難題が起きるだろうが、「双方が受け入れ可能な解決策」を求めて日ロ平和条約の締結に向けて世論を喚起していきたい。

一利もない対ロ「制裁」

BRICS新開発銀行の意味

 ウクライナ危機の深刻化にともなって、米国を主導とするG7の対ロシア「経済制裁」が本格化している。

 プーチン大統領側近ら政府要人の入国禁止やその資産の凍結が中心だった4月からの従来の対ロ「経済制裁」が、銀行、エネルギー産業などロシア経済の基幹部門に飛躍的に強化されている。これまでは米国が主導してきたが、マレーシア航空機撃墜事件を口実にして、EUも全面的に発動し、日本も追随している。

 具体的には、①対外貿易銀行、ズベルバンク、ガスプロムバンクなどロシア大銀行の米国、EU内での株式や債券販売の禁止②大石油会社ロスネフチへの投資禁止や掘削高度技術輸出の禁止③ロシアへの新たな兵器、軍事技術の輸出禁止――などである。つまり、ロシアの経済の核心への打撃を狙ったものだ。

 ロシアは対抗措置として、欧米各国からの農産物の輸入を1年間禁止した。「制裁」の応酬だ。

 こうしたやり方は、双方になんの利益ももたらさないだろう。ロシアから外資が流出し、経済成長は“ゼロ成長”になるだろうと予測されている。それはロシアだけでなく、世界経済にも悪影響を与えるだろう。例えば、ロシアとEUの年間貿易総額は約4000億ドル(約40兆円)もあるが、少なからず縮小し、欧州経済にも打撃となるだろう。ウクライナ政府もロシアへの「制裁」を発表しているが、それはウクライナ経済をますます破綻させるであろう。「制裁」は百害あって一利なしだ。

 見逃せないのは、対ロ「制裁」が対北朝鮮への「制裁」のように国連安保理の決定によるものでないことだ。米国主導のG7の一方的な論理による「制裁」なのである。

 しかも、「制裁」の理屈も、かなり乱暴だ。「ウクライナの不安定化をロシアが助けている」、「マレーシア航空機撃墜をロシアが支援した」というものだが、国連でも航空機撃墜の真相解明はこれからだとしている。だれがこの惨事を引き起こしたのか、今のところ明確ではない。ロシアが武器や戦闘員をウクライナ東部に流入させているという証拠も明確になっていない。

 プーチン大統領はG7の対ロ「制裁」に関連して、「ロシアは孤立化を望んでいない」とのべて、G7との対立という戦略はとっていないとしている。

 だが、7月ブラジルで開催されたBRICS首脳会議が「新開発銀行」の設立を決めたが、ウクライナ危機はこうした流れを後押ししていると言える。

 米国主導のIMFや世界銀行と対抗して、①500億ドル(各国100億ドル)を拠出して参加国や途上国のインフラ整備などを支援する②1000億ドル(中国410億ドル、ロシア、インド、ブラジル各180億ドル、南ア50億ドル)で外貨準備基金を創設して、各国で資金を融通する――ことになった。共同宣言では「一方的な軍事介入や経済制裁」を非難している。

 「新開発銀行」や「外貨準備基金」の創設はロシア、中国、インドが数年前から検討してきたものだが、G7から追放されたロシアにとって、世界政治経済の舞台で一つの拠点をあたえるものになるだろう。

(9月10日)