セミが鳴き始めたばかりの、ある年の7月のことだ。
私と友人で林道散策に出かけた。
軽トラックで無計画に山道を走り回り、なんとなく気になった林道へ片端から突入していった。
すると、道路脇に名もなき小さな滝が連なる場所にたどり着いた。
道はぐんぐん登って行った。
すると、道路の隅に怪しき影。
あった。草ヒロだ。
スズライト・キャリイ
ピックアップトラックだった頃のキャリイが林道の隅で朽ち果てていた。
屋根には木が倒れかかっていた。
そのため、最初に遠くから見たときは、クレーン車なのかと思ってしまった。
かつてはこんな小さな車で、下界と往復していたのだろうか。
エンブレムも健在だった。
草ヒロを長らく追い続けていると、特に探しているわけでもないのに偶発的に遭遇することがある。
それらを、我々の間では「呼ばれる」とか「声が聞こえる」といった表現をする。
今回のキャリイはまさしくその典型だった。