アドリブ将軍モッタの『イチ確』 -15ページ目

第三章 ~伝心~

桐島「何をやってるの!このバカ者!」


桐島菜々の声が遠慮なく鳴り響くホール。怖くて逃げ出しそうになったのは最初だけ


彼女の右手を握ってから、もう3ヶ月が過ぎた今は、不覚にも慣れっ子になってしまった


こんな僕をスロ友にして何がしたいのか問い質したいのが本音だが、それを聞く余裕すら僕の毎日には存在しない


全部を吹き飛ばす覚えたてのウイスキーロックで、憂鬱な気分を誤魔化すことなんて今はしなくなった


それすらの余裕もないのだ


今はパチスロの特訓後に、ファミレスで復習することが日課


攻略誌を必死に読みながら口にするのは、最近お気に入りのカルピスとフライドポテト


もちろん目の前には桐島菜々が、高校時代の鬼教師のように監視している


昔なら確実に逃げていただろうが、言われたことをやり遂げた時に出る、桐島菜々の満面の笑みと誉めの一言が癖になっているから、逃げることはしない


桐島「この機種の設定判別ポイントは?」


本田「えっと………で、合ってます?」


桐島「うん、正解だ!これでこの機種を一緒に打てるね♪」


これだ。この笑顔と変に勘違いさせるセリフだけで、ウイスキーよりも酔える自信がある


何のために毎日パチスロの特訓してるかって?


それは僕にもわからないよ


少なくとも僕が接している限り、桐島菜々という女性はバカではない。何か彼女なりの作戦があるのだろう


桐島「今日はこれくらいにしようか」


本田「まだ12時ですよ?」


桐島「明日は5時起きだよ?帰って休むのも、大切な立ち回りの一つよ」


言われるがままに席を立つ僕ら


会計は僕の役目とカッコつけたいが、まだまだ借金は残っているし、桐島菜々もその辺の事情は理解してくれている


恥ずかしいが、桐島菜々におごってもらい、深々と頭を下げるのも毎日の日課となっているのだ


本田「じゃあ、僕はこっちなので…」


桐島「え?明日は私の家に近いホールなんだから、泊まっていきなよ」


僕は耳を疑った


耳を疑ったのに、なぜか両手で股間を押さえた


本田「そ、そんな僕も一応…その、男なんですから、ダメですよ!」


桐島「あのさ…何か勘違いしてない?」


桐島菜々の一言で冷静になった。あくまでパチスロのために泊めてもらうのだ


それ以上でも、それ以下でもない


桐島「私が泊まってほしいと思うから、言ってるの。これは命令よ?」


僕は耳を疑った


耳を疑ったのに、なぜか両手で股間を押さえた


ガチャッ


桐島「ゴメンね。少し散らかってるの」


女性の部屋にしては少し寂しい部屋で、本棚にはパチスロ雑誌が並んでいた


桐島「先にシャワーいいよ」


普段と変わらないトーンで話す桐島菜々は、やはり僕を普通の舎弟として見ているからだろうか…


もしくは、僕が気付いていないだけで二人は付き合っているのだろうか…まさか、な


本田「シャワーありがとうございました」


僕のあとに桐島菜々がシャワーへ向かった


当然、僕がソワソワするのは言うまでもないが、部屋を見渡していると…一枚の写真が飾られていた


両親らしき人と小さな女の子


たぶん、小さな女の子は桐島菜々だろう


ガチャッ


桐島「ふ~、サッパリした」


桐島菜々は、なぜか体操服を着ていた


本田「ちょっ、何で体操服なんすか!?」


桐島「いや、昔からこれが着やすくて♪」


本田「全く!もっと女の子らしくしなきゃ、モテませんよ!」


そんなことを言って、僕の右手は力強くガッツポーズをしていた。そんな高ぶった気持ちの僕に、桐島菜々が低いトーンで話し始めた


桐島「私ね、前にパチスロが嫌いって言ったよね?実は私のお父さん…ギャンブル依存症だったの。当時は裏モノ全盛期で、私やお母さんに構わず毎日パチスロしていたわ…。挙げ句の果てには、借金を作って蒸発。借金は何とか払い終えたけど、お父さんを変えてしまったパチスロが今でも大嫌いなんだ」


本田「桐島さん…」


桐島「だから、パチ屋を潰すなんて言ってたんだけど…いつの間にか好きになってた」


桐島菜々は泣いていた


薄暗い部屋でハッキリと見えなかったが、初めて聞く震えた声を僕はそう捉えた


桐島「いつの間にか好きになってた…」


本田「そりゃ、パチスロは楽しいですもん」


桐島「ハッキリさせなきゃね」


本田「えっ?」


桐島「伝えなきゃと思ってたの」


本田「えっと…?」


桐島「あ、あんまり顔見ないで…照」


本田「桐島さん…」


桐島「スゴく言いにくいんだけど…」


僕はモテない。でも一度だけ告白されたことがあった。この空気、まさにその時と同じだ


こんな美人に告白されるんだ。答えは決まっていた


桐島「本田くん!スゴく言いにくいんだけど…実は!」


本田「よ、喜んで!!」


僕は食い気味にそう言った


桐島「本当?本当にイイの?嬉しい」


そう言って桐島菜々は薄い毛布を渡した


桐島菜々が伝えたかったこと…


それは寝床がないから外で寝てほしいということだった。僕は、世界で一番の笑顔で泣いた


桐島「朝は起こしてあげるね♪」


僕は玄関の外で寝た


それは寒い寒い12月の話でした


次の日僕は高熱で病院に運ばれ、三途の川を渡りかけた


第三章 ~伝心~ 完

第二章 ~選択~

バイトを始めて、早いもので1ヶ月が過ぎた。バイト初日で出逢った桐島菜々という女性は、ここ数日間僕の働くホールでは見ていない


彼女が言ったセリフを時々思い出す


「嫌いなのよパチスロが」


あれだけホールで圧倒的なパフォーマンスを魅せつけておいて、そんなセリフが出るなんて誰も思わないだろう


少なくとも、パチスロで負けながらも打ちたくてたまらない僕には考えられなかった


さて、借金返済を第一に考えている僕のバイト生活だが、現実はそう甘くない


利子だけを返すだけで精一杯で、一向に減る兆しを見せない借金の額に、憂鬱な日々を送る


その憂鬱さを少しだけ忘れさせるのが、覚えたてのウイスキーをロックで飲み干す瞬間だ


当然のように次の日は二日酔いで、思い出す憂鬱な感情と二日酔いの頭痛で、気分の悪さが2倍になるわけだ


この日は、そんなまともに呑めない覚えたてのウイスキーを片手に、大学の友達宅を訪れる途中


駅から出て15分くらいに友達のボロアパートがあるが、晩飯にコンビニの惣菜が食べられるだけ裕福だと思える


友人宅にあと5分という所で、僕は足が止まる


キレイなパチンコ屋があった


友人から耳にはしていたが、見るのは始めてだった。情報収集なんて負けキャラに似合わない自分に言い訳をし、中に入った


本田「設置台数は…まぁ、一般的か」


どこにでもあるようなホール


でも、意外な光景に…いや、正直心のどこかで期待をしていたのかもしれない


データロボを慣れた手つきで触っている女性がいた。そう、桐島菜々だ


本田「あの…また会いましたね!」


彼女は一度だけ僕の顔を見て、もう一度データロボに視線を戻した


桐島「あとにして」


寝不足なのだろうか。充血した目と疲れた声で僕にそうつぶやく彼女


本田「あ…邪魔するつもりじゃ…」


桐島菜々は僕の言葉を予想していたかのように、間髪入れずに次の言葉を発する


桐島「邪魔じゃないけど…もう少しでホールのカラクリがわかりそうなの。ナンパでも何でもイイけど、話があるなら10分待って」


追い返す言葉がなかっただけ、僕は嬉しかった。勘違いされても困るが、僕はナンパするような強心臓の持ち主ではない


それから10分も経たない内に、桐島菜々はデータロボを離れて僕のところに来た


桐島「はぁ~。スッキリした」


どうやら、そのカラクリというやつがわかったのか、先ほどの険しい表情は消えていた


本田「明日はここを狙うんですか?」


桐島「ええ。数日かけてクセを調べてたからね。それが正しいのかが明日わかるわ」


そう言って、桐島菜々は右手に持っていたコーヒーを差し出した


桐島「さっきは冷たい態度しちゃってゴメンね。お礼にこの缶コーヒーで温まってよ」


桐島菜々なりのギャグなのか、渡された缶コーヒーは冷めきったホットだった…。それでも心が温かい気持ちになれたのは、桐島菜々との距離が縮まったと思ったからだ


渡された缶コーヒーを飲みながら、僕は桐島菜々に悩みを打ち明けていた


借金、パチスロ、親、将来のこと…


感情が沸き上がり、震える声で話していたからか、僕の話を遮るように桐島菜々が声を発した


桐島「とても素敵ね」


僕は耳を疑った


慰められるか、怒られるか…そんな反応を待っていた僕は、その拍子抜けする言葉の真意が気になった


桐島「それだけ忘れられない悩みがキミにはあるんだ。生きている意味がそれだけであるのよ…。生きていたら、目の前には必ず選択する場面がある。そして自分の意志で決断して、その結果を受け止めるんだよ。その結果の繋がりが生きた証なんだと思うわ」


本田「でも、僕の選択は全て間違ってたんですよ。だからこんな辛い思いを…」


桐島「…私は嬉しいよ」


本田「え?どうして…」


桐島「キミが選択してきた結果、こうして私とキミが出逢えたんだ。少なくとも、キミが生きてきたことで、私は喜んでる」


心から笑った表情、もしくはズバ抜けた演技力。いや、問題はそこではなかった


他人事にも関わらず、言葉だけでなく表情まで作る桐島菜々の存在がとても大きく、そして美しく感じた


そして桐島菜々は右手を差し出す。差し出した右手に缶コーヒーはない


桐島「私は今、目の前に選択肢がある。そして決断するわ。本田弘樹、私と共にこの地域のパチ屋で暴れよう!そして私の問いに本田弘樹…キミはどう決断する?」


今まで何気なく生きて、そして知らないうちに物事を選択してきた


しかし、これほど胸を打たれる選択があっただろうか。そして、これほど迷いのない決断があっただろうか


僕は桐島菜々に負けない笑顔で、彼女の右手を握った


その右手の中には、缶コーヒーよりも温かい気持ちと、今まで感じたことのない希望があった


僕の人生が、加速し始めた


第二章 ~選択~ 完

第一章 ~レバーオン~

僕の名前は本田弘樹


どこにでもいる21歳の貧乏大学生


親からの仕送りと、バイトで稼いだ少しの給料で、なんとか毎日を過ごしている


とは言っても……


最近の僕は、大学で勉強するというよりもバイトで金を稼ぐという毎日になっていて、なんのために生きてるんだろうと考えている


仕送りとバイトで貧乏なんて不思議に思われると思うけど、その貧乏の原因は完全に僕にある


19歳の時にギャンブルにハマり、貯めてたバイト代の大半をそれに費やしてしまった


それで止まればよかったが、僕は更にのめり込んでしまった


そして積もりに積もった借金は150万円


当然、親には言っていない


田舎に住む両親は、とても優しくて真面目だ。僕がギャンブルで借金をしたなんて言ってしまったら、きっとノイローゼになるだろう


あぁ、だいぶ話がズレてしまったようだ


そんなわけで今日からバイト先をファミレスからパチ屋に変更することになった


本田「今日から働く本田です!よ、よろしくお願いします!」


~3時間後~


本田「ゼーゼー。さすがに疲れるなぁ~」


駅前店というだけあって、僕が入る時間帯はサラリーマン達が多くて賑わっている


そんな中に飛び込んで来たのが、僕のその後の人生を変える女性だった


金髪のセミロング


胸元の開いた服にミニスカート


横顔のサングラスから少し見える獣のような鋭い眼


だが、一番の衝撃はパチスロを打つスピードと正確な目押し…そして圧倒的な出玉


結局、その日の彼女は閉店間際まで打っていた


ジャラジャラ~


運が良い…のかわからないが、彼女の出玉を流すことになった僕。勇気を出して話しかけてみた


本田「お、お客様スゴい出玉ですね!とりあえず7000枚はありそうですし…」


女性「…まだまだ」


本田「えっ?」


女性「今日打ったバジリスクは恐らく設定4ね。第2候補だったバジリスクが設定6ぽかったし…情けないわ」


本田「ハハハッ…(苦笑)」


仕事終了


本田「ふぁ~。疲れたなぁ…。それにしてもあの女の人なんか不思議な人だったなぁ。まっ、とりあえず明日は店の旧イベントみたいで客も多いみたいだし頑張るか」


~次の日~ 早朝6時


本田「ハァ~、なんか意味もなく早く起きちゃったなぁ。バイトは17時からだし、コンビニでパンでも買ってまた寝るかな」


徒歩10分のコンビニ。そこの通り道に僕がバイトしているパチ屋がある。開店時間は10時で、抽選はない


本田「今日はアツいらしいから6時過ぎでも並んでるのかな?さすがに早いか」


店前を覗くと開店4時間前で、ざっと30人は並んでいた


本田「スゴいなぁ~。ん?あれっ??」


先頭に並んでいたのは昨日の女性だった


本田「あ、あの…。おはようございます」


女性「ん…。あぁ、新人の店員さん。もしかして早番なの?それとも新手のナンパ?」


本田「や、やだなぁ~ナンパだなんて!ちょっと買い物の途中でして…。それより何時から並んでるんですか?」


女性「3時半かな。昨日はシャワーと軽く食事だけして、それから並んだの」


本田「えぇーーー!す、スゴいですね!めちゃめちゃパチスロが好きなんですね」


女性「…逆ね。嫌いなのよパチスロが」


本田「ふへっ!?」


女性「それよりキミさ…。私に近付かない方がイイわよ。今日は確実にバイオの設定6をツモってみせるからね。先頭の者が店員と話してたら怪しまれるでしょ」


そう言った彼女は少し笑って、セブンスターを吸い始めた


たぶん5秒ほどの時間が経って、彼女は視線を地面から僕の方に舐めるように移した


女性「……桐島菜々」


本田「えっ?」


女性「名前だよ。私は桐島菜々…キミが働くこのホールを1年で潰しに来た女さ」


その言葉通り…桐島菜々は、この日から3日連続で設定6を打ち続けた。それも全て万枚オーバーで


僕と桐島菜々の運命が、レバーオンされた


そう…僕の運命が変わり始めたのだった


第一章 ~レバーオン~ 完