【あらすじ】
東京・池袋で男の刺殺体が発見された。警視庁池袋署刑事課長の本宮は、捜査の過程で捜査一課長からある密旨を受ける。その約半年後、東京・新木場で爆殺傷事件が起きる。やがて容疑者が浮上するが、捜査に携わる警視庁組織犯罪対策部の植木は、その経緯に違和感を抱く。そしてまた、捜査一課の管理官となった本宮も違和感を覚えていた。捜査の裏に、いったい何があったのか——。
本書は3部構成になってる。
第1部「裏切りの日」
警視庁池袋署の刑事課長である本宮は、西池袋で起きた男性の路上殺人事件の捜査にあたる。犯罪捜査で防犯カメラの画像解析が大きな役割を果たしているが、その分、警察は足を使った捜査に弱くなっているのではないかと、危惧している。捜査は遅々として進まず、本部の捜査方針に疑問を持ちながら本宮は捜査を続けている。警視庁捜査支援分析センター(SSBC)による画像解析で、黒いスーツの男が浮上する。ところが、被害者が追われているのではなく、被害者が尾行しているように見えた。この黒いスーツの男は何者か。そんな時、捜査一課長から内密に、被疑者の妻の過去を調べるよう命じられた。その調査の結果が犯人特定に繋がり事件は解決に向かうのであったが、本宮は捜査一課長がなぜそのような命令を自分に出したのかぎもんに感じる。捜査一課長の態度を見ていると、本宮自身、なにか大きな間違いを犯したのではないかと思うようになる。
第2部「顔のない眼」
警視庁組織犯罪対策部の植木は、違法薬物の売人をマークし、取引現場を押さえるべく捜査を進めていた。慎重だった売人が動き出し、ライブ会場のロッカーで受け渡しが行われると見て、ロッカーを開けようとした売人に近づいたところで、ロッカーが大爆発。売人は死に植木は重症を負う。傷から回復した植木は、捜査本部の片隅で情報整理班として復職したが、植木のコンビである佐古にタレコミ電話があった。その情報に基づき容疑者を逮捕にいたるが、佐古にかかってきたタレコミを不審に思い、情報の出処を調査し始める。
第3部「背中の蜘蛛」
この章からが、いよいよ本番、物語のスピードも上がってくる。
捜査一課の管理官として赴任した本宮も、第2部の瀑殺傷事件の担当となり、被害者となった植木と、タレコミ電話を受けた佐古に興味をもつ。本宮は植木に声をかけ話を聞こうとする。第一部で感じた共通点を頼りに、植木と佐古を従えて、調査を開始する。昔本宮と同じ署にいた後輩刑事の上山という警察官の動きに注目し問い詰めると、「情報管理課運用第三係」という部署に所属しているという。しかし、警察の組織図にその運用第三係はない。「運三」と呼ばれる部署の実態は、セキュリティーが強化された窓のない部屋に無数のPC画面が並び、そこで100人を超える人間がPCを触っている。さらに聞き出すと、アメリカのFBIやCIAが使っているダークサイトを検索するシステムの日本語版で「スパイダー」と呼ばれている。このシステムは、国民のあらゆる通信、ネット上での書き込み、特にダークサイトでの犯罪行為、ないしはそれを誘発しそうなやり取りを完全に傍受して、犯罪の兆しや進行中の犯罪を調査している。現在の法律では、これは完全に法律違反であり、したがってここで集めた情報を、直接捜査に利用することはできない。そこで、係員を通じてタレコミを装い、現場の捜査官へ情報を流して、被疑者へ誘導している。一般国民のありとあらゆる情報に自由にアクセスし、行動、言動を監視する組織。それが「運三」の実態であった。その結果浮かび上がる被疑者の行動は、数百万台あるビデオカメラを通じて把握され、実際の刑事がそれを追い詰めていく。これには植木もボーゼンとしてしまうが、これにより犯罪の検挙数は飛躍的に上昇する。悪なのか、善なのか。
【感想】
読者をはじめ、個人によっては情報監視社会になんにも感じない人も多くいるだろう。犯罪が摘発できたり、未然に防げるなら、それは有意義なシステムだ。しかし、あくまでこれは、現行法では違法な捜査だ。エドワード・スノーデンが、闇の中にあった警察のシステムを暴露し、世界中が大いに騒ぎ、本人はロシアに亡命した事件があった。調査の対象者は一般大衆から有名人、著名人、富裕層、貧困層さらには政治家や内閣閣僚、総理大臣に至るまで、本人のしらないところで、身ぐるみ剥がれて明らかにされていく。それらの膨大なデータベースを警察組織が維持、管理していて、適切なタイミングをみて現場の捜査へ情報をおろしていく。それも秘密裏に。個人Aが某銀行で3000万円の元気を引き出した。その指示は電話で行われたが、その指示した人間は、アジアや欧州、米国のネットワークを使って末端に指示を出す。引き出された3000万がどこへ流れ、何に利用されるのかも、スパイダーを使えば、立ち所に分かる。もう個人に秘密はなく、国家権力が調べようと思えば、たとえそれが捜査のためであろうが、または個人の興味であろうが、国民を丸裸にし、さらに不利な情報を付加して被疑者に仕立て上げることなど、簡単だ。イデオロギー、宗教、右翼、左翼、それらが属する団体とその構成員。全部彼らの思いのままだ。
ある日玄関のチャイムがなって、「はい」と答えたら、「警察のものですが、少しお話を伺いたい」と見知らぬ察官が、あなたの前に立つかもしれない。簡単な質問を2,3交わしたあと、「任意同行」を求められる。任意がから拒否もできるが、それはなにか、話せない秘密を持っていると心象を持たれると、あなたの回りのありとあらゆる情報機器を通じて、行動を徹底的に監視され、「やってない」という無実の叫びには、あなたの全く知らないダークな情報がすでに背中に貼られていて、まるで黒い大きな蜘蛛が、あなたの背中を這い回るような気持ち悪さ、恐怖、苛立にさいなまれ、こねくり回した「事実」というものを積み重ねて「真実」と名付けられた見に覚えない犯罪の、首謀者として逮捕される。「そんなことはありえない」と本当に信じられるか?身の回りになにか、不思議なことが起こってないか?あなたは、見張られている。
僕は見知らぬ警察官に僕の全てを監視されるなど、冗談ではない!だが彼らは、足音を忍ばせて、あなたの背後に近寄り、赤い蜘蛛を背中にはるかもしれない。