実話かと思っていたら、なんとフィクションだった。
世界的な指揮者となったリディア・ターの栄光と凋落の物語。クラシック音楽界特に、オーケストラという家族的な大競争グループの中には、歓喜、快楽、嫉妬、陥穽が渦巻いている。頂点から落ちる、才能と努力の人の物語だ。少しばかりクラシックについての知識と音楽の知識があれば、より理解しやすいでしょう。面白いけど、長〜〜〜い。150分の映画。最近の映画は、長くなってきているよなぁ。
レナード・バーンシュタインの指導を受け、アメリカの5大オーケストラで指揮者を務めた後、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に女性として初めて就任したリディア・ター。天才的能力と類まれなプロデュースのスキルで、その盤石な地位を築いた彼女だった。穏やかではあるが、その傲慢な言葉は、周囲の人間を圧迫する。ベルリン・フィルの団員を家族と呼び、民主的などと言うが、実際には彼女の圧倒的権力の前に、全員は沈黙するよりない。冒頭のインタビューシーンでは、「指揮者は動くメトロノームかと」と問う司会者に「音楽は時間(テンポ)で、指揮者は時間を刻むのだが、その針(指揮棒)が止まれば、時間は止まる(それを支配しているのは自分だ)」と不敵に言う。SNSを嫌い、批評は読まないと言い切る。ジュリアード音楽院での指揮者志望の学生を指導している時、「バッハは嫌いだ。白人優越主義だ」という生徒に対して彼女は、彼を隣に座らせてピアノでバッハを弾く。「バッハの主義ではなく音楽を評価すべきだ」と言い、教室を去ろうとする学生に「ロボットだ」と侮辱する。