年老いたイギリス人女性が、食料品店で、ミルクを買おうとしている。大きいボトルと小さいボトル。一瞬迷って小さいボトルを手にとってレジへ向かう。「このミルクはいくら?」と女性が聞く。「46ペニーです」と店員が答え、女性は一ポンドを支払いお釣りを貰う。後ろに並んでいたイヤホンを耳に突っ込んだ若者とぶつかりそうになる。若者は、やれやれと首を降っている。彼女こそ誰あろう、「鉄の女」と呼ばれた女性首相、マーガレット・サッチャーその人出会った。
鉄の女も年には勝てず、夫と二人で朝食の席にいる。「牛乳がなんと46ペニーもするのよ!どうなっているのかしら。生活に困る人がでるわ」
「じゃ、僕達の家を売ろう。他にも売れるものはあるよ!」とジョークを飛ばす男性は、彼女の夫である。だが、とっくに他界した。彼女は彼の分も朝食を用意している。アルツハイマーの初期の症状である。
映画は、フラッシュバックのように、彼女の過去を描いていく。食料品店の主人であった父親の影響を受け、政治を目指すが、裕福でもない食料品店では、勉強どころではなく、家族の全員が店で働かねばならなかった。そんな環境でも、彼女の下にオックスフォード大学の合格通知が届く。家族の誰も喜んではくれなかった。
学校を卒業し政界を目指すが、そこは典型的な男性社会であり、女性の入る隙間もない。そんな時にであった男性と結婚し、姓を変えて、見事に下院議員に当選する。めきめきと頭角を表すサッチャーであったが、相変わらず男尊女卑の国会は彼女を見下し、甲高い声がうるさいと揶揄する。そして彼女は決断する。「党を正したければ、党をりーどせよ。国を正したければ、国をりーどせよ」首相になることを決心する。
首相になってからも景気に喘ぎ、労働組合のストライキと戦い、働かなければ賃金は貰えないと国民に訴え、フォークランド島にソビエトが侵攻した時には、毅然たる態度で反撃を命じ、アメリカの説得を跳ね返し、最後まで戦うと宣言。大勝利を得た。
だが、イギリスの経済は一進一退で回復の兆しは見えず、戦後景気も長続きせず、財政は悪化の一途を辿る。遂に、彼女が花道を歩き、辞任する日がやってきた。
もうちょっと自伝的な映画だと期待して行ったのだが、年老いたサッチャーの姿を通して、夫との思い出の中で彼女の業績が描かれる。もっと時系列に彼女の歴史を淡々と描いても、立派に映画になったと思うのに。これでは、ぼけ始めた老人の混濁した思い出という域を出ない。残念だ。
メリル・ストリープは、アカデミー賞候補になっているらしいが、流石の貫禄、演技力である。彼女の存在がなければ破綻している。そういう映画になっていると思う。
★★★☆☆
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