【読書01】インセント・ゲリラの祝祭 | なんのこっちゃホイ!

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$これでいいのか!?こんなことでいいのか!?


海堂尊のイノセント・ゲリラの祝祭を読んだ。おなじみの、厚生省の火食い鳥白鳥と、不定愁訴外来田口助教授のシリーズ第3弾の文庫化である。第1弾は「チーム・バチスタの栄光」で、バチスタ手術の一人者が、連続する手術の失敗により、患者を死亡させる事件が起こる。これを病院内で調査するために、倫理委員会が院長の指示の元に設立され、その委員長となった田口が、この術死事件を調査するという物語で、かなりミステリー色が強い。第2弾は、「ジェネラル・ルージュの凱旋」で、救命救急医と製薬会社の癒着を告発する文書が、倫理委員会委員長の田口のもとに届き、これを調査する。製薬会社営業マンの突然の飛び降り死。これは事故か自殺か、あるいは殺人か。救命救急における問題点を縦軸にして、ミステリアスなストーリーが始まる。そして、ついに起こった大火災!桜ノ宮市東城大学医学部付属病院には、大量のやけどを負った患者が運び込まれてくる。そして、救命救急のジェネラル・ルージュは蘇る。その時、贈収賄事件と思われた事件の背景全てが、顕にされる。救命救急における、ドクターヘリの導入は、どうなるのか。

しかし第3弾の本作は、前の2作とやや趣きが違うように感じた。

物語の冒頭は、厚生省の会議に呼ばれた田口助教授が、厚生省の白鳥に誘われて夕食をとった帰り道の公園で、行き倒れのように倒れている一人の青年を発見する。白鳥は、その青年を道路まで引き出して、そして救急と警察に通報。厚生省の身分証明書は絶大な力を発揮し、この青年を監察医のところへ送り届ける。ところが監察医の診断は「心不全」。かけつけた母親が、既往症もない青年が、なぜ突然に心不全で死亡するのか。実は怪しい宗教団体である「神々の楽園」とかかわりがあったことを説明、死因の解明を依頼する。しかし解剖を行うには時間がかかる。そこで白鳥は、AI(死亡時画像検査)強行する。その結果、遺体には激しい内臓出血があり、暴行を受けたことによる死亡であることが確認される。しかも「神々の楽園」を中心にこれまで3件のリンチによるとみられる死亡事件があった。警察の初動捜査の誤りを、マスコミは取り上げて騒ぐ。と、ここまではミステリーっぽいんだが、ここから小説はガラリと様相が変わる。

厚生省が中心となり、死亡時検査の適性を検討する会議が開催され、そこには法律家、医師、法医学の専門家、そして田口ら臨床医が集められる。そして、人間が死んだ時には、どのように対処するのが正しいのかという議論が激しく展開する。既得権益と、過去の栄光にすがる法医学者や解剖医は、解剖による検死が最も適切だと主張。しかし、年間100万体を超える死亡遺体の内、解剖されているのは10%にも満たない現状。そもそも医師法21条の「届出の義務」で定められた、「医師が不審と判断したときには、届け出る義務がある」とする「不審」とは何か。定義が明確でないこの法律は、不適切であり、現状では医師が不審に思わなければ、ごく普通に死因を特定し、死亡診断書を書く。多くの死者は「心不全」とされるが、死んだものは全て「心不全」であるから、これは死因とは言えない等々、もう完全にドキュメンタリーの世界で物語は続いていき、最後はある医師が、厚生省をギャフンと言わせて終わるのだが、それだけ。神々の楽園の事件はどうなった?途中で登場して、ふっつりと現れない女性記者はどこへいった?なんだか、作者の主張が一杯に詰め込まれた小説で、僕はあまり楽しくなかった。しかも最後は、まだこの話は続くぞと思わせるエンディング。また次回作もこんなテーマのドキュメンタリーなら、ちょっと遠慮申し上げる。作者は医学博士で外科医を経て、現在は病理医であるらしいから、確かに現場の問題点を取り上げて、それを分かりやすく小説の形で世間に訴えようとしていることは、前作2作を読んでもよく分かる。しかし、この本は、どうみてもミステリーじゃない。

解説を書いているのも衆議院議員で、この小説が国会を動かしたと、諸手をあげて賞賛している。これもどうも、煙たい感じだ。

次の作品は、どんなだろうなぁ~
作者、乗り換えるかな?