綾辻行人をご存知だろうか?1960年、京都府生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院博士後期課程修了。京大推理小説研究会所属、在学中の87年に『十角館の殺人』でデビュー。『水車館の殺人』『迷路館の殺人』と続く「館」シリーズを中心に、現代本格ミステリを牽引する。92年には『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞を受賞したという、新本格ミステリの旗手である。
十角館の殺人を読んだ時には、度肝を抜かれた。文章力がどうとかではなく、圧倒的なパワーがあって、どうしてもページをめくるのがやめられない。風呂の中で読んだら、のぼせてしまう。便所でよんだら、尻が痛くなるまで、ページを繰り続ける。
そして、それこそアッ!と驚くトリックが仕掛けられている。
「館」シリーズといい、中村青司という建築家が、全国に10の館を作った。それらは全て、依頼主の依頼により、様々な仕掛けが施されており、全ての館で何がしかの事件が起こったり、人が死んだりしているという曰く付きの館ばかりである。10の館があると最初の作品、十角館の殺人で表明したのだから、最低10作は作られるのだろうと期待に胸を膨らませた。
ところがこの作家、実に筆が遅いのである。イライラしながら待っていると、忘れた頃に、ポツリと新作を産み落とすという具合。その後、水車館、迷路館、暗黒館などそれなりに面白い小説を発表していたが、しばらく止まっていた。
今回の「びっくり館の殺人」はシリーズ8作目である。
正直言って、これ、反則である。
作者も、「読者の非難は、あえて受けよう!」等と挑戦的に嘯いているが、どう考えても、これは反則である。推理小説には、ルールがある。犯人を特定するための材料は、探偵が知りうるものは、全て読者にも知らしめること。つまり、読者は知らなかったが、どっかで探偵が調べてきました結果、こいつが犯人です。みたいなことはしてはいけない。次に、一旦否定したことは、最後まで否定しないといけない。例えば、最初に探偵役が、彼は犯人ではありえないとか、これは紛れもなく偽者であったと断定したら、最後までそうでないといけない。一番最後の最後になって、「あれ、実は嘘でした!」では、白けてしまうのである。
この小説に何故、作者はこんな手法を使ったのだろう。今更、何に挑戦したというのか。意味が分からない。
この作者は、今では若手のホープからそれなりに脱皮して、いまや重鎮の域にいる方で、色々な賞の審査員になったり、他人の小説を解説、批評しているが、これは全く、なんじゃいな!「あえて読者の非難を受ける」ってのは、「失敗作でしたが、締め切りがきちゃったので、とりあえず出します」ってのを、上品に言った言葉か?
2時間弱で読めてしまう。それなりに軽い内容で、まったく僕は、大きな失望感を味わった。買うんじゃなかった。それも2回も。妻が、単行本を買っていたことをすっかり忘れていて、2回も買ってしまった。すぐにBookOffに直行したい。
評価:☆☆☆☆☆