大倉祟裕の本は、以前に友人に借りて読んだことがある。落語界を題材にした、七度狐という本だったと思う。確か、大手出版社の弱小編集部(部員2名)の季刊落語の女性編集者と、妙に鋭い編集長が、落語界で起こる事件を快刀乱麻に断ち切るという話で、それはそれで面白かったが、単行本千数百円も出して続きを買う気にはなれず、何故かそのままになっていた。この小説に出会ったのは、先日本屋をプラプラとしておったところ、1月2日にNHKでドラマ化とあったので、手にとった。すると、あの不思議なタッチの著者だった。
この人は、短編集が多いというか、僕の知る限りは全部短編だ。この本も4作の短編からできている。主人公はおぼこい顔した女性警部補。誰からも「嘘でしょ!」とか、「とても見えない」といわれるのに、すっかり慣れっこになっている。ところがこのおぼこい警部補、実に頭が鋭いのである。
さて、全てのお話は、倒叙法という手法に則ってできている。倒叙法とは、最初に犯人が現れる。いかなる動機であるかは分からないが、とにかく彼、彼女は誰かを殺害するのである。その殺害の方法も予め読者は知っている。さて、そこへ探偵登場というパターン。そうです!刑事コロンボ、古畑任三郎の、あのパターンです。
犯罪が起こる、福家警部補が駆けつける。鑑識の話を聞く。遺体を検分する。そして、ふと不可解な点に気づく。そして、第一発見者、そして聞き込み。徐々にターゲットを絞り込み、IF法によりめぼしを付けて、そしてジワリジワリと犯人を追い込んでいく。犯人も、最初は小娘とバカにしているが、段々とその実力に気がついてくる。その時にはもう遅い。すっかり絡め取られた後で、思わず自供してしまう。そして犯人は、誠に潔くお縄を受けるという。
この小説手法、僕は大好きです。だって、ズルができないでしょ?最初に手口も犯人も分かってしまうんだから、後から「実はあれは、こうだったんですよ。人形と見えていたのは、実は犯人がなりしましていたんですよ」なんてズルはできないわけだ。犯人と探偵役の息詰まるやり取り。頭脳戦。楽しいですよ!是非読んでください。
評価:★★★★★