ボーイングB747-400の主翼の下に付けられた、ロールスロイス製のジェットエンジンがうなりをあげる。
ブレーキが解除され、機体がゆっくりと動き始める。
4発のエンジンは更にうなりを上げて、スロットルは全開となる。
機体は解き放たれたように、滑走を始めた。
V1。離陸決心速度。
この速度を超えると、もう離陸を中止することはできない。
何があっても離陸するしかない。
VR。離陸速度。
操縦桿が手前に引かれ、機首が持ち上がった。
そして300トンの機体が、ふわりと浮き上がった。
これまで、うるさく滑走路のオウトツを拾っていたタイヤが静かになる。
そしてゴトゴトという音を残して、ギアが機体に収められた。
滑走路が眼下に見え、急速な勢いで地上の建物が小さくなっていく。
その時だ。
機体が右に傾いた。
まるで、右へターンするように、主翼が大きな角度で右へ。
エンジンはまだ、大きな騒音をたてている。
しかし機体はますます右へと傾きを大きくしていく。
それを立て直そうとするかのように、エンジンは更にうなりを高める。
しかし、機体は傾きをさらに大きくしていく。
いまや、小さな窓から見えるのは、海面だ。
眼下に見えるべき海面が、今、窓のすぐ外に見える。
明らかに揚力を失った機体は、さらに右へと傾きを増し、そしてついに主翼の先端が海面を切り裂くように海に突き刺さった。
強い減速を体で感じると同時に、主翼が根元から折れるのを見た。
いや、見たような気がしたという方が正確だ。
何故だろう。
いつも飛行機が離陸する瞬間に、俺は幻想を見る。
眠っているわけではないので、夢ではない。悪夢ではない。
そう、幻想だ。
デ・ジャブと言っても過言ではないだろう。
そして、それがいつか自分の身におきるであろうことを、俺は知っている。
知っていながら、また今日もこうして、飛行機に乗っている。