”Tor des Geants” (トルデジアン/巨人の旅)
トルデジアンは、イタリア北西部アオスタ自治州の山々で開催されるトレイルレース。
総距離330km(200マイル)、累積標高差は2万4000mD+、を制限時間150時間(6日+6時間)で
1 モンテ・ビアンコ(=モンブラン・4810m)、
2 グラン・パラディーソ(4061m)、
3 モンテ・ローザ(4634m)、
4 モンテ・チェルヴィーノ(=マッターホルン・4478m)
等アオスタ自治州を囲む4000m級の4つの名峰(4人の巨人)を望みながら進む巨人の旅です。
スタート&ゴールは、アオスタ川のリゾート地、クールマイヨール。(UTMBのほぼ中間地点)
レースコースは、アオスタ自治州の山々を反時計回りにぐるりと一周する。
トレッキングルートであるAlta Via1(アルタ・ヴィア:天空の向こう)とAlta Via 2をつなぎ
標高2000mを超える25の山々、30の山岳湖、2つの国立自然公園をノンストップで走ります。
2018年は9/9(日)~15(土)の7日間で行われます。
※4人の巨人には登りません。周囲の山々を走ります。
2018. 9/9(日)午後12:00クールマイヨールを894名がスタート、200マイル/330㎞の旅が始まりました。
晴れてピリピリと刺すような陽射し、先ずは暖かさにホッとしながら流れに任せて街中を走ります。
まるで観客に選手の顔見世をするように、中心街をグルっと回ってから町はずれの登りに入ります。
「なんか変だ!」
ところが私は、この町はずれの登りで早くも 「脚が動かない!」 という違和感で焦ります。
休養は十分、トレーニングでも登りの脚は作って来た、でも身体は軽いのに脚だけ重くて動かない…
流れから遅れ、多くに抜かれ、付いて行けずに愕然とし 「これが7日間続くのか?」 と恐怖すら感じる。
< スタート前の微妙な緊張感 >
そういえばスタート前から嫌な感じだった。
レース中はスマホの電池温存のため、コンパクトカメラで写真を撮る作戦。
スタートエリアに入ってスマホで数枚の写真を撮ってから、カメラに切り替えようとメインスイッチ入れる。
【トラブル1】
作動しない。
「なんで?」 電池を確認すると …入ってない!
直前まで充電したまま充電器と一緒にホテルに置いて来ちゃった。
スタート前なのに、いきなり持っていた予備電池を使う事に。 これ1個で一週間もつのか…
スタート直前にケチが付くも、「まあ、走行に支障が無いからいいや」 と思い直してスタート。
< スタート後間もないエイドの山小屋。 以後はばらけてこんなに混む事はありませんでした。 >
で、一つ目の山 『Col Arp』(2571m/アルプ山と読むのか?) を登り始めるも
脚は力が入らず、重くて思い通りに動いてくれない。
こんな事は、今まで経験した事のない初めてのトラブル。
これまでレースのスタート直後は、アドレナリンが出まくって興奮状態のオーバーペースとなり
後半に疲労でペースダウンし、後悔するのが毎度のパターン。
なのに今回に限って、スタート前もそれほど興奮せず落ち着いていたっけ。
まあ、始まっちゃったし今それを考えても仕方ないから、このまま行けるだけ行く。
【トラブル2】
さて、下り始めてしばらくして右胸のソフトフラスクの麦茶を飲もうとすると…
無い!!
どこかで落としちゃったらしい。 …ど、どうしよう \(゜ロ\)(/ロ゜)/
スタートして僅か3時間で、大事な生命線であるソフトフラスクが1個無くなっちゃった。
それでも左胸のソフトフラスク500mlと、背中のハイドレ2ℓがあるので、装備基準「1,5ℓ以上」はクリア。
ガッカリするも、うまく使って6日間を過ごすしかありません。 (でもこれは、けっこう凹みました。)
< 山頂のマーク >
一つ目の山『Col Arp』を下りると、一つ目のCP(チェックポイント)『ラ・トゥール』(18,6㎞地点)に到着。
私の予定では、ここを4時間30分で通過する計算。
タイムを見ると 「4時間07分」、これは今後を占う過程で良い数字。
走力・距離・傾斜の計算がほぼ正しく、これなら多少の不調でも完走可能の手応え。
この後、2800m級の山を二つ越えて、31,4㎞先の第1のライフベース『ヴァルグリセンセ』を目指します。
※ライフベース(LB) : コース中6か所ある大きなエイドステーション。個別の食料・装備を入れた
『ドロップバック』を受け取る事ができる。通常のエイドが仮眠時間2時間までの制限が
4時間まで可能。シャワーを浴びる事もできる。
『Passo Alto』(2857m/アルト山)の取っ掛かりが午後5時過ぎでも、サマータイムのためまだまだ明るい。
始めの力が入らない感覚は消えたものの、今度は脚と呼吸がキツイ。
富士山も登ったし、西沢渓谷2700mでもガンガン練習したから自信はありました。
正直、2800m程度の山は舐めていたため、酸素の薄さにショックを受けます。
体調が悪いのか、練習不足なのか、イタリアの酸素が薄いのか、などと変な疑いまで頭に浮かぶ。
【トラブル3】
私はストックの扱いが苦手で、特に下りではストック無い方がバランスよく下れます。
そのため下りでは、ストックを折りたたんで胸にゴムで装着して、両手を空ける工夫をしました。
ところがアルト山を下っている最中、ストックを縛っている面ファスナーがバカになってくっつかない。
何度くっつけなおしても解けてブラ~ンと垂れ下がり、脚に纏わり付いて危なくてしょうがない。
あと7日間、ず~っとストックを手にもって下らなけりゃならないのか?
ど、どうしよう。
あ! いい方法がある!
ドロップバックにゼッケン取り付け用の予備のパンツのゴムがある、ハサミも入ってる。
そのゴムでくくればイイ。 これで安心。(^_^)
さて、アルト山の下山途中、後方でトルデジアンに詳しいと思われる日本人女性の話し声。
「ヴァルグリセンセに午前2時までに入れればほぼ完走できる。」
「え!そうなの?」 私の予定では午前1時に入る予定で、さらに1時間の余裕がある。
そしてこの日二つ目の『Col Crosatie』(2829m/クロサティ山?)に臨む頃の8時過ぎは暗闇の中。
しかし、先ほどの山より辛くない。 僅か半日で高所適応したのか?
いずれにしても、いいペースで林道を下っていると、トルデジアンの常連『吉本バナナ』さんに会う。
挨拶と自己紹介をして、ヴァルグリセンセまでの約7㎞/約90分をご一緒させて頂く事に。
トルデジアンの走り方・注意事項・仮眠の取り方・バナナさんの練習法、等様々な知識を頂きました。
バナナさん曰く 「仮眠はライフベース毎に2~4時間しっかり寝る。登りと平地は走らない」 との事。
そして 「ヴァルグリセンセに午前2時に着く予定。」 と、先の女性と同じ発言。
そしてヴァルグリセンセ到着が 『午前1時51分』 とドンピシャ。 流石バナナさんお見事。
ここでバナナさんは仮眠所へ、私は食堂へと別れてドロップバックを受け取る。
< 30ℓのドロップバック ・ 昨年までは50ℓだったのがスポンサーがケチったという噂 >
初めてのLBでの時間の使い方はとても重要で、これ以後の基準になります。
それと迷っていた仮眠については、バナナさんの助言に従って2時間取る事にしました。
<LBでの予定作業>
① プロテインの摂取→筋の材料であるプロテイン粉末を飲む。エネルギーだけでは7日間動けない。
② 米を食べる → エネルギーとして『モンベル・リゾッタ』、アルファ米の『牛めし』を食べる。
③ フロに入ってから寝る → 安眠のためにはフロでサッパリする事は大切。
プラス急きょ加わった ④ ストック収納作業 → ゼッケン取り付け用予備のゴムを切って束ねる事に。
②米食の用意をしつつ、①プロテインを作って飲み、④パンツのゴムを切って結んでストックに装着。
これで、下りでストックを胸に収納した時もブラブラして脚に纏わり付かず、安心して下れます。
食事を終えると、仮眠所へ行ってコット(折り畳みベンチのような寝台)を確保してシャワーへ行く。
石鹸が無いため、お湯のみで洗ってからサッパリした寝着に着替えて毛布をかぶって2時間の仮眠に。
先ずは、トラブル連発の長~い初日が終了。 この先どうなるのか…zzz
~第2話に続く~