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 今、鹿児島県から沖縄県に至る南西諸島への自衛隊配備による軍事化が進行し、中国を事実上の仮想敵としたミサイル網が急速に構築されつつあることをご存知でしょうか?

 そんな状況に光を当てた映画の上映会が北杜市であり、12月17日、高根図書館まで足を運びました。

 

 「ドキュメント石垣島」というその映画は、2023年3月の陸上自衛隊石垣駐屯地開設の過程を追ったドキュメンタリーです。

 映像制作者の湯本雅典さんによると、もともとは、来年1月完成予定の「この島に戦争という言葉はない(仮題)」の一構成要素だったのを、3月の石垣島の基地建設の報道が本土であまりにもされていないのを見て、ピックアップして先行上映したということでした(;^_^A



 

 映画は3月4日の市民による交流集会の模様から始まり、翌5日の軍用車両の搬入、全国集会、16日の部隊発足、18日のミサイル弾薬の陸揚げ・搬入、その後に行われた沖縄防衛局による住民説明会の模様まで、駐屯地開設をめぐる動きを追っていました。

 畜産農家の避難は可能なのか、外交努力はできないのか、など、集会では住民の不安と心配の声が飛び交っていました。

 

 ドキュメンタリー映像の後、補足として石垣島に住む4人のインタビュー映像がありました。

 その中で引っかかったのが、高校卒業後自衛隊員4年で満期除隊し、その後漁師を続けているという方が、自衛隊基地建設に賛成する理由として、尖閣諸島への中国艦船の侵入の増加を挙げていたことでした。それというのも、私の理解では、尖閣諸島に中国艦船の侵入するようになったのは、故石原慎太郎元都知事が尖閣諸島を東京都が購入する意向を示したのを受けて、野田佳彦政権が尖閣諸島を国有化したためであったからです。要するに、中国が突如として侵入を始めたのではなく、原因があってのことで、それを飛ばして中国の侵入と自衛隊基地を結びつけて基地開設に賛成することに違和感を覚えたのでした。

 

 映像の上映後、制作者の湯本さんから補足のお話がありました。そこで湯本さんが話されたのは、尖閣諸島に中国艦船が侵入する割合が激増したのは、野田政権が尖閣諸島の民有地を国有化して以降であること。2014年の日中4項目合意以降はそれも月2~3回に減り、問題解決のための外交努力の余地は充分にあるということでした。

 問題はメディアがそうした事実を正確に伝えていないことであり、『東京新聞』のような比較的リベラル傾向の強い新聞でも、「2012年の国有化以降、中国海警局の船による領海侵入が常態化。」(2022年)という共同通信から配信された記事を載せている、と紹介されていました。そういったメディアの情報を鵜吞みにしていれば、先の漁師のかたのような意見になるのかもしれません。

 したがってそうした情報を反省的に受け止めることのできるリテラシーの有無が重要だと思いました。漁師のかたのインタビューを耳にしたとき私が違和感を持てたのは、日中国交正常化をしたとき田中角栄首相と周恩来首相の間で尖閣諸島の領有問題については棚上げで合意され、後に鄧小平からは「領土の主権にかかわらない状況下であれば、釣魚島(魚釣島)付近の資源の共同開発を考慮することができる」と海域の共同開発の提案もあったことを知っていたからです。

 中国艦船の領海侵入の引き金をひいたのは日本のほうであり、そのことを知っていれば中国の行動についてもいたずらに不安を感じることはないのです。

 歴史的知識を踏まえたリテラシーの重要性を痛感しました。

 

 また、湯本さんが力説されていたのが、自衛隊ミサイル基地建設の是非を問う石垣島の住民投票運動でした。

 陸上自衛隊ミサイル基地建設に対して様々なリアクションが起きました。その中で特筆すべきが、島の若者たちが始めた住民投票運動です。

 この運動は2018年、1ヵ月間で石垣市の有権者の3分の1以上の署名を集めましたが、市議会は住民投票条例案を否決しました。

 また石垣市の自治基本条例には、有権者の4分の1以上の請求があったときは、「所定の手続を経て、住民投票を実施しなければならない」とされているにもかかわらず、市長はそれを無視しました。

 若者たちは裁判で住民投票の実施を求めましたが、1審、2審でそれぞれ、却下、棄却されました。

 日本政府が琉球弧を軸に日米一体の軍事戦略を展開、強化している中、憲法と地方自治の破壊が進んでいる時に、あくまでも話し合いを求め、地方自治のあるべき姿を追い続ける若者たちに湯本さんは希望の光を見出していました。

 

 実を言うと、この日湯本さんが言及された「石垣市自治基本条例」については私も以前から注目していました。それは2020年に北杜市で選挙があった際、私は北杜市に自治基本条例を定めることを政策提言しましたが、その時全国の自治基本条例を調べた中でこの石垣市自治基本条例が住民自治に関する規定において特に目を惹く条例だったからでした。

 しかしその「自治基本条例」を廃止するための条例案が2019年12月16日に石垣市議会で採決されたという報道もありました。幸いにしてその条例案は否決されましたが、「これは一体どういうことなのだろうか?」と訝しく思っていました。

 それがこの日の湯本さんのお話を聴いて理解できました。それは、この上映会の主題である陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票実施を求めて「市住民投票を求める会」が2018年12月 に直接請求した際に、「自治基本条例」を実施の根拠としていたからだったのでした。

 「自治基本条例」を廃止するための条例案が否決された後も、「自治基本条例」に対する攻撃は止まず、2021年6月28日とうとう市議会は住民投票実施の根拠である第28条(住民投票条項)を削除してしまいました。そして今年5月23日、那覇地方裁判所は「2021年に自治基本条例の住民投票条項が削除されたため、原告に最早投票権はない。」として、若者たちの訴えを却下したのでした。

 ドキュメンタリーの中で、私はこの「事件」に最も注意を惹かれました。自衛隊基地建設、台湾有事、中国の脅威と聞くと問題がやや遠くに感じられます。しかしこれを私たちの自治の問題ととらえると、ぐっと近づきます。実際そうしてとらえて運動を起こした若者たちが石垣島にいたということは、暗い日本の政治における「光」のように感じました。

 

 今年の秋から私はとある大学で国際平和論を担当しています。この授業を引き受けるに当たって、日本から平和を考える上で沖縄を外すことはできないと考えて、6月には沖縄県の辺野古や沖縄戦の戦跡を探訪しました。そして沖縄戦が決して過去の出来事ではないということを伝えたくて、前週の授業では学生と一緒に「ドキュメント石垣島」の映像も視聴しました。

 

 「政治に無関心でいることはできるかもしれない。しかし誰も政治と無関係でいることはできない。」わたしはそれを、戦争体験者だった祖父から、戦争から、学んで、6年前に政治活動に足を踏み出しました。

 

 「誰も政治に無関係でいることはできない。」その最大の例は戦争です。

 

 今、日本は平和を脅かされる暗雲に包まれつつあります。「ドキュメント石垣島」が映し出した世界はそのシグナルを私たちに送っているかのようでした。