ロシアのウクライナ侵略を断固として非難する

 224日、ロシア軍はウクライナに侵攻しました。これは、ウクライナの主権と領土を侵し、国連憲章、国際法を踏みにじる侵略行為であり、断固として非難します。

 

ウクライナ侵略の外交史的要因

 そのことを大前提としながら、しかしこの事態の要因を質すならば、核の傘を振りかざした北大西洋条約機構(NATO)のロシア周辺にまで迫る膨張主義を無視することはできません。

 そもそも北大西洋条約機構はソ連を仮想敵とした同盟です。したがって、冷戦終結の際は、ゴルバチョフが「欧州共同の家」構想を出し、米国を仮想敵としたワルシャワ条約機構の解体とともに北大西洋条約機構の解体も同時に行われるものと考えていました。しかし米国は、マルタ会談でロシアと共同して冷戦終結宣言を行い、ワルシャワ条約機構は解体させたにもかかわらず、その後も北大西洋条約機構を存続させました。さらに、1997年には北大西洋条約機構は東欧には波及させないとロシアに約束したにもかかわらず、その約束を反故にして、一方的に北大西洋条約機構を拡大させてきたことは、プーチンにつけ込む口実を与えてきたことは否定できません。

要するに、依然として欧州に米ソ冷戦体制の枠組を持ち込んでいるのは、北大西洋条約機構なのです。しかし日米基軸という枠組に深く囚われてきた日本の世論は、この史実を踏まえた議論ができていません。

ウクライナ問題の要因を歴史的にとらえるべきなのです。そうすれば、今回の侵攻の一方の因は、1997年のロシアとの合意事項を破棄し続けてきた北大西洋条約機構側にあることが分かるでしょう。

その時の合意で北大西洋条約機構側は、ロシア、東欧を含む北大西洋条約機構ではない新たな平和機構、条約作りをすることとしていたにもかかわらず、それを信じたロシアがその後知ったのは北大西洋条約機構の東欧への拡大で、おまけに北大西洋条約機構の基軸は米国にあるという事実でした。

これは外交史の常識というべきだろうに、現在の日本の議論にはこうした認識があまりにも弱いです。

これを東アジア国際関係に当てはめてみれば、北大西洋条約機構とロシアの関係は日米安保とロシアそして中国の関係に符合します。北方領土をロシアが日本に決して返さない理由もここにあります。要するに、北大西洋条約機構がロシアに与えている圧力と同様の圧力を日米安保はロシアと中国に与えているのです。これを考えるならば、今回のロシアのウクライナ侵略は、地球の裏側の問題ではありません。また、ウクライナが北大西洋条約機構に加盟しようとしたように、もし台湾が米国と同盟を締結する動きを示したら、中国はどうするか。答えは明白です。

 

同盟の枠組を超えた平和的関係構築の道を探れ

さて、ロシアの要求の中に、ウクライナの中立国化がありました。これを米国始め北大西洋条約機構はなぜ無視するのでしょうか。NATOの同盟体制を変えることができないならば、ウクライナを緩衝国家の一つとして、北大西洋条約機構加盟を行わせない途もあったはずです。

ロシアの侵攻をその背景を含めて正確に理解しないと、「日本国憲法第9条は無力だ」という意見が国民の間に多数となり、改憲の動きに拍車がかかるでしょう。9条改憲を阻むためにも、その辺の整理は行われなければなりません。

冷戦が終焉して30年経つのに、なぜ冷戦体制時の北大西洋条約機構が現在も存在するのか?

政策的には、北大西洋条約機構を解体して、同盟体制に代わる欧州全体の集団安全保障体制を確立するしかありません。これについてもロシアは、みずからと東欧を含む同盟ではない平和的な新たな地域協定の締結を要求してきたわけで、筋が通っています。

今回の事態を受けて、安倍晋三元首相は「国連の安保理の常任理事国が当事者だった場合は、残念ながら国連は機能しない。自分の国を自分で守る防衛力の強化を常にしなければいけない、同盟国との関係を強化していくことが決定的に重要だ」と述べました(フジテレビ系番組「日曜報道The PRIME」2月27日)。これは国連の成立の歴史的経緯とその組織的前提を知らない発言です。

国際連合は、世界が再び同盟間の対立から軍拡競争、そして戦争へと至ることを防ぐ目的から、誕生した集団安全保障機構です。集団安全保障は、同盟の存在を前提としていません。集団安全保障は、同盟が存在しないという条件のもとで初めて十全に機能します。集団安全保障が機能するためには、同盟はあってはならないのです。

しかるに、国連が働き始める前に冷戦が始まって、再び北大西洋条約機構とワルシャワ条約機構という同盟が作られてしまいました。それによって国連は機能不全に陥りました。

安倍氏が言っているのはこの機能不全に陥った国連についてであって、それは国連の問題ではなく、国連の成立理由を無視して、同盟を締結している諸国家の問題なのです。要するに安倍氏の発言は、国連の役割を無視した現状追従から発せられたものです。現状追従から生まれるのは、同盟間の果てしない軍拡競争と、戦争勃発の危険です。また観念的な平和主義です。

 20世紀に2度の世界大戦の惨禍を経験した世界が求めるのはその道では決してないはずです。核兵器使用をもためらわないプーチンの姿勢は、ささいな軍事行動でも核戦争に発展する恐れが客観的に存在することを世界に示しました。

 21世紀にまで同盟の枠組を引きずることをきっぱりと拒絶する新たな国連中心の平和的関係構築の道を探ることが、改めて現在求められていると思います。