わたしのブログをご覧いただき、有難うございます。

 先般、市民が訪ねてきて昨今報道されている山梨県男女共同参画推進センターについて、尋ねられました。中身のあるやり取りができましたので、こちらでも紹介させていただきたいと思います。

 

市民 この頃、山梨県立男女共同参画推進センターの集約について報道が度々されています。つい先日も長崎幸太郎山梨県知事が方針を発表していました。男女共同参画の推進というと、もう社会的には合意事項という感もするのですが、そのセンターの集約をめぐって議論になっているようですね。問題の発端は何ですか?

 

飛矢﨑 山梨県庁は施設の維持費用の縮減と長寿命化を求める総務省の方針を受け、2017年度から公共施設の在り方を見直してきました。2015(平成27)年には「山梨県公共施設等総合管理計画」を策定し、2016(平成28)年度に外部評価を行って、2017年から公共施設のあり方検討を実施しました。

 

市民 かなり前から検討が進められていたのですね。県民の知るところとなったのはいつでしょうか?

 

飛矢﨑 2021210日に、新日本婦人の会山梨県本部が県民生活総務課へ知事宛要望書を提出した際に、県庁が男女共同参画推進センターの「ぴゅあ総合への集約」を検討していることを認めたのが、最初でした。それを受けて211日の「山梨日日新聞」に「県共同参画センター 一カ所に集約」の記事が載り、広く県民の知るところになりました。

 

市民 その後はどうなったのですか?

 

飛矢﨑 県民が知らない中で、重大な検討が進められ、集約の方針が出されたことに対して、女性団体を中心に驚きと怒りが広がり、31日には、山梨県女性団体協議会が、「県立男女共同参画推進センターに関する『集約』方針の見直しを求める請願書」を桜本広樹・山梨県議会議長に提出して、38日、「請願書」が県議会総務委員会において全会一致で「採択すべきもの」と決定されました。それを受けて、39日、県立男女共同参画推進センター「集約」問題を考える連絡会による「集約」方針の見直しを求める署名活動が開始され、約80日間で累計13,010人分が集まり、528日、長崎知事に提出されました。

 

市民 それに対する長崎知事の対応はどうだったのでしょうか?

 

飛矢﨑 617日、知事名にて、県議会議長宛に請願書への対応についての報告書が出されました。その内容は次のようなものでした。

意見を聞いて検討してきた。

男女共同参画の推進は県政の最重要課題の一つ、施策を充実・強化する必要がある。

このため、ぴゅあ総合に人的資源・財源を集中、機能強化する。オンラインでの相談、講座により全県各地でサービスを利用できる仕組みづくり、リニューアル、利便性を高める。

峡南、富士を利用している団体の活動拠点の在り方は、当事者の意見を丁寧に聞いて支援策を講ずる。

その後、720日、長崎知事は定例記者会見を開き、2020年度末に都留市と南部町の2施設(「ぴゅあ富士」と「ぴゅあ峡南」)を閉館した後、新たに23年度に別の拠点を設ける方針を明らかにしました。拠点には職員を配置する方針で、男女共同参画の普及啓発などの機能は維持するとしました。甲府市の施設(「ぴゅあ総合」)はICT(情報通信技術)環境などを充実させるほか、男女共同参画事業の企画などを担う専門スタッフを配置し、男女共同参画関連の予算を現状通り維持する方針も示しました。但し、拠点の施設規模や施設の機能の中身については具体的に述べませんでした。

 

市民 なるほど。今話された知事及び県庁の方針について、どのように評価しますか?

 

 飛矢﨑 知事は6月県議会定例会での「所信表明」において、「ICT等により全県各地でサービスを利用できる仕組みづくりを進め、利便性を高めていく」としていますが、男女平等、女性の社会参加の問題は「文化・慣習」「根深い偏見による観念」に基づくもので、単に「サービス」を提供したり、利便性を高めることで改善するものではありません。

「熱心な担当者がいた時は活動が盛り上がったが、異動で下火になった」と話している市民もいます。ICTにより提供されたサービスは、直接会っての話し合いや、現実的な地域活動につなげなければ、男女共同参画にかかわる課題の解決にはつながりません。「男女共同参画」を地域に浸透させるために、地域の人々が直接交流しつつ、さらに地域の人々の自主的活動を支援してネットワークをつくり、実情に合わせて学ぶ仕掛けを作る専門的知識を持った人財がいる「拠点」があることが不可欠です。

施設の老朽化や維持管理の経費がかさむことなどを理由に、長崎知事は、「ぴゅあ富士」(都留)と「ぴゅあ峡南」(南部)の2館を「独立した施設として維持するのは非効率的で難しい」と述べました(「山梨日日新聞」202158日)。

2館を「独立した施設として維持するのは非効率的で難しい」という知事の発言からは、今回の統廃合、集約の根拠は「男女共同参画」の評価に基づくものではなく、建物の維持管理、資金的問題から発していると考えざるを得ません。

長崎知事は「男女共同参画推進や女性活躍は県政の最重要課題の一つであり、山梨再生の王道である」と発言されています。しかし、ジェンダー平等の学習や男女共同参画推進活動の拠点の評価を「効率」という物差しによって測る知事の姿勢を見ると、知事の言う「男女共同参画推進や女性活躍」は「女性の経済参加や経済的活躍の推進」という限定された参画でしかないのではないかという疑いを持ってしまいます。

 

市民 山梨県の男女共同参画の現状はどうなのでしょうか?

 

飛矢﨑 都道府県議会における女性議員の割合が2.7%で全国最下位(全国11.4%)、女性議員がゼロの市区町村議会の割合33.3%で全国45位(全国17.9%)(内閣府「女性の政治参画マップ」2020.12)、自治会長に占める女性の割合3.3%(全国6.1%)(内閣府「全国女性の参画マップ」2020.12)に見られるように、山梨県は男性主導の社会構造に対する意識改革を、まだまだ男女ともに推進していないのが現状です。

その中で2館を閉鎖する方針を出すことは、知事及び県庁当局がジェンダー平等・女性の活躍を重要な政策と位置づけていないという誤ったメッセージを発することになると思います。山梨県では「男女共同参画課」も廃止されたと聞いています。

 

市民 確かに、山梨県の男女共同参画は道半ばという現状ですね。何かお話を聴いていると、今回のことについては議論を進めていくための軸が定まっていないように見えます。何を軸にしてこの問題を考えていくべきなのでしょうか?

 

 飛矢﨑 知事の説明を辿ってみると、男女共同参画促進の問題が「建物の統廃合」の物差しで評価されて、さらには現在、男女共同参画の「機能集約」へと問題がすり替えられています。男女共同参画促進のために、本当に何が必要なのか、山梨県の何が問題なのか、という議論がなされないまま、事が進められようとしています。

  意見交換会において「県施設全体の外部評価」を質問したが、回答がなかったと聞いています。今回の施設・建物評価は県施設全体に行われたはずです。利用率が低く老朽化が進む施設は他にもあるのに、なぜ、男女共同参画推進センターなのか。他の施設と比較して、廃止・集約の優先順位が高いのか、妥当なのか、を検討する必要があります。

その際には優先順位を測るための物差しが必要です。その目盛りは県民の福祉であり、「効率」であってはならないと思います。県民の福祉とは、経済的な利益ではありません。人権、民主主義、そしてそれを支える地方自治など、憲法に保障された公共の価値を含みます。物差しの目盛りは県民の福祉でなければならないのです。そして、男女共同参画とは何より、人権の問題です。

 

市民 分かりました。問題を考えるための視点を皆で共有することがまず必要ですね。そういったことを含めて、今回の件から得られたものがあるとしたら、それは何でしょうか?

 

飛矢﨑 男女共同参画推進センター「集約」方針の見直しを求める運動の盛り上がりは特筆すべきものでした。そこで注意したいのは、それらが集約の見直しと3館の機能強化を求める請願が2月定例県議会で採択されたことを弾みにして、展開されたことです。それと同時に、県庁も当面、センターのあり方について検討を続ける方針に転換しました。

議会は、社会の中で政治化された問題が争われ、世論を形成し、その上で何らかの合意を形成するための中心的な場です。その役目を議会は今度果たすことができたと考えます。

政治の主役は一人ひとりの市民です。市民が知るべきなのに「知らないまま」進められる問題を少しでもなくし、問題を考えるための情報を提供する務めを議会は担っています。

県政を私たちに身近な政治にしていくためには、県民の直接参加、すなわち住民自治が欠かせません。住民の意思に基づく地方自治の運営をするために、議会が重要な役割を果たすことを再確認できたことは、大きな収穫だったと思います。


市民 なるほど。「男女共同参画」から始まった今回の問題は、私たちの民主主義、その中心的な場である議会の役割も明らかにしたということですね。男女共同参画は私たちの民主主義の問題でもあると思いますから、そういう収穫が得られたことも腑に落ちる気がします。今日は有難うございました。