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 昨週710日、北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会が主催する登山道整備についての講演を聴いてきました。

 


 ユネスコエコパークとは、国連のユネスコが指定する生物圏保存地域のことですが、自然を守ることはもちろんのこと、自然と人間社会がうまく共生していくことを目指しています。北杜市では、甲斐駒ヶ岳、鋸岳、鳳凰三山などが含まれ、北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会は、中山を中心に、自然環境の保全活動等を行っています。

 今回は、北海道の大雪山・山守隊の岡崎哲三さんから、近自然工法を用いた登山道整備の実践について話を聴きました。

 


 近自然工法とは耳慣れない言葉だと思います。わたし自身も、この日初めて聞きました。

 登山をするためには、「道」が必要ですが、道を保つための管理も必要になります。山の環境は土壌や植物、水や雪がバランスよくあることで成り立っています。しかしそこに登山道がついてしまうと、そのバランスを崩すことになり、管理をしないと登山道が荒廃の切っ掛けになってしまうのです。

 自然を利用するためには保全が必要であり、近自然工法の登山道整備は「生態系の復元」を目標にしています。そこで、近自然工法は自然観察から始まります。この方法は自然界の構造を施工に取り入れ、生態系を復元させる方法ですので、近自然方法は技術を知る前に、自然観察が一番必要となるのです。

 「構造物の構造は、自然界の構造から学ぶ、というのが、近自然工法の考え方です。今日はこれだけ持ち帰ってもらえればいいです。」とまで、岡崎さんは言われていました。

自然界の構造を取り入れた施工が自然に優しいのであり、自然に優しいということは人間に優しいのだそうです。そして、自然の真似をしていくときに「正解」はないので、常日頃自然を見て、自然が作り出した形を頭の中にたくさん入れておくことを勧められていました。



 そこで興味深かったのは、自然の真似をするために最も必要なのは「感性」だと強調されていたことでした。感性とは、「美しい」と感じる力です。

近自然工法での施工には美しさがあります。それは自然の風景の意味を知り、施工物に伝わるように心がけるからです。「美しい」と感じるとき、わたし達は自然と対話しています。だから、謙虚に自然と対話しながら施工することにより、自然な形の「美しさ」を再現できるのかもしれません。

山岳管理の課題は登山道の荒廃だけでなく、トイレ問題、山小屋の運営問題、資材運搬のヘリコプター問題、気候変動による生態系保全の問題など、今までの管理体制では解決策はなく、厳しい状況にきています。本気で国立公園を活用しようとしても、保全ができなければ利用は続かないことに気がつかなければなりません。予算がない中で、国立公園管理も、登山者からお金を徴収して管理に利用するという方向に向かっています。



他方、自分が歩くことで山が崩れていることを知っている人も、保全に関わる「きっかけ」を探しています。そういう状況のなか、自然との対話を本質とする近自然工法には豊かな将来性を感じました。

この可能性を開いていくためにも、このノウハウを蓄積し、技術を地元に残していくことが必要であり、そこで行政の役割が重要であると思いました。

豊かな緑とそこから育まれる綺麗な水があってわたしたちは生きることができます。山を保護することによって保護されるのは、実は人間です。

多くの山岳のある北杜市、山梨県で、豊富な可能性を持つ近自然工法がどのように追求されていくのか、注視したいと思います。