名建築シリーズ283
綿業会館
往訪日:2025年5月24日
所在地:大阪市中央区備後町2-5-8
開 館:10時~20時(日祝・第三土曜休館)
アクセス:御堂筋線・本町駅から5分
駐車場:なし
見学会:毎月第4土曜(10:30~食事つき 14:00~見学のみ)
時 間:1時間
見学料:1000円(事前抽選)
■設計:渡辺節建築事務所(渡辺節・村野藤吾)
■施工:清水組
■竣工:1931年
■国重要文化財(2003年)
■近代化遺産(2007年)
《ついに往訪を果たした》
2025年5月下旬の大阪ひとり旅。続いて訪ねたのは綿業会館。関西モダニズム建築の雄ともいうべき傑作のひとつだ。大阪赴任時に抽選に応募。幾度はずれたか知れない。ふと思った。ランチつきに拘らなければ競争率は下がるのではないか。狙いは的中。見事に当たった。しかし、無情の異動通知。このためだけに新幹線で戻るのは勿体ない…のか。行くべきやろ。これが事の次第。
訪れた日は大雨。そんなこともあろうかと離任前に外観を撮っておいたのは正解だった。塔屋つきSRC造6階建て。設計は渡辺節建築事務所。関西にアメリカ流近代建築をいくつも残した渡辺節(1884-1967)の事務所だが、実際の設計は若き日の村野藤吾が担当した。当の村野は「これはあくまで渡辺先生の作品で、自分は手伝っただけに過ぎない」という意味のことを語ったというが、例えば冒頭の写真の(陰になって見づらいが)網目模様の塔屋はいかにも村野だし、各階で異なる窓のスタイルも初期の代表作、大庄村役場庁舎(1938)に通じる。
とにかく贅の限りを尽くした建築だ。
到着は1時間前だったが、普通に入れてくれた。
ホールではランチ付きのグループが優雅に寛いでいた。時間まで待つように優しく言われた。その間会員食堂は自由に見ていいとのこと。神対応である。
風除室の巨大なシャンデリア。トラバーチン仕様の格天井も彫りが深い。
ふりかえる。入り口の返し扉の飾り模様が繊細だ。この格子模様は館内至るところに見られる。
(エアコン排気口)
参考までにドラマ「名建築で昼食を」公開の前後で見学の応募数は変わったかと訊くと60倍近くになったという。それでなくてもモダニズム建築祭の効果で関東関西を問わずに大盛況。昭和建築の取壊し回避のムーブメントに繋がれば。
「そればかりはねえ」
全て持ち主の意向次第
大ホール
いよいよ見学会開始。参加者は約30名といったところ。殆どは在阪の中高年。そういう自分もほぼそのひとりなのだが。
「自覚ないよねえ」![]()
正面に三階ぶち抜きの大階段がドンと現れる。まるで映画のセットのようだ。中央には東洋紡績の専務取締役をつとめた岡常夫の銅像があたりを睥睨している。岡の遺贈金100万円と業界の寄附50万円で建設され、繊維業界の社交クラブとしてスタートした。現在価値にして約50~75億円。それで建てばすごい。
「ていうか専務クラスの遺産が数十億円ってどうよ」![]()
昔の重役は本当にひと握りだったしね。
流れるようなマニエリスティックな手摺がたまらない。
中央で一段低くして二階への視認性を確保している。よく観察しないと判らないが、下層は天然琉球石灰岩。上層は人工擬石で化粧しているそうだ。
踊場から入り口を見返す。
ホールはイタリア・ルネサンス様式で統一。古代遺跡のようだ。
側廊を連続アーチで飾る。天井はハーフティンバーの折衷式。
続くエレベーターホール。どこまでも贅沢だ。
会員食堂(本館一階)
つぎは改めて会員食堂。
高さを確保するために一段低くなっている。
天井は30年代のアメリカで流行したミューラル・デコレーション。
エンボスの効いた幾何学模様とアールヌーヴォー風の唐草模様が絡みあう。
裸電球による照明。
透かし彫りの窓。ここにも菱形格子。
招来の本格的な冷暖房設備の導入を見越してダクト径を大きくし、設備の空間もあらかじめ確保するなど未来志向の設計になっている点も特筆しておきたい。
談話室(本館三階)
部屋は全て様式が異なる。世界中の人に寛いでもらいたい。そういう願いをこめたそうだ。ちなみに開業間もない頃、この談話室にリットン調査団が訪れている。
英国ジャコビアン様式。関東では岩崎邸が有名だ。
当館でも指折りの贅沢な設え。窓には鋼製ワイヤー入りの耐火ガラスを使用。大阪大空襲にも耐えたのはその先見の明ゆえらしい。
豪華なタイルタペストリーが眼を惹く。関西ではおなじみの京都・泰山タイル製。
そして、隠れた顔ともいうべき軽快な吊階段。いかにも村野藤吾って感じだ。
手摺といい丈の高い腰板といい優雅の極み。
神社建築の手挟に似た添え木が面白い。
大理石で化粧した暖炉。壁龕のような壁飾り。
これだけの吹き抜け空間はなかなかない。
特別室(本館三階)
別名・貴賓室。貴顕の賓客もこの部屋に遊んだ。
天井の鏝飾りや照明に曲線を多用した英国クィーン・アン様式になる。
細かい装飾もみどころ。
家具の猫足も。
会議室(本館三階)
会議室には扉一枚で隣接していた。
通称「鏡の間」。アンピール様式。
「なに?あんぴーるって」![]()
エンパイアのフランス語読みだね。帝政様式ともいうよ。19世紀前半のナポレオンの時代に流行した虚飾を排した室内装飾だ。
崩し卍にゼツェッシオン風の文様。
いずれも幾何学的なデザインだ。
特別室との連絡ドア。
楕円の時計。
床石にはアンモナイトの化石がここにもそこにも。
こちらは珍しい大型巻貝。計算に基づく配置といわれている。
「茶目っ気があったのかも」![]()
グリル(本館B1F)
このあと見学会ランチで利用されるグリルを見学した。催し事次第で螺旋階段は観られない日もあるという。幸運だった。
設計は同じ渡辺節建築事務所の仕事。ただし村野独立後であり、直接携わっていないが、リスペクトをこめて“村野らしさ”を演出しているという。
流れる様な吊階段。手摺の曲線も素晴らしい。
籐家具のような高欄飾りは宝ヶ池プリンスホテルを連想する。
灰釉タイルとの組み合わせなんか「これ村野藤吾なんですよ」といわれれば「ホントですね!」って思わず言ってしまいそうだ。
ランチは頂くことはできなかったが見学できればそれでいい。(ちなみに午後の見学者もランチ割引券がもらえる)。
色ガラスの象嵌。
リスペクトを感じさせるグリルだった。
倶楽部にはバーはマスト。大阪の紡績王たちが商談の疲れを癒すそんな場面が想像された。ちなみにガイドの皆さんは紡績会社からの出向でこの日はクラレの方だった。建物同様に皆さん、品格のある紳士だった。
(つづく)
ご訪問ありがとうございました。






















































































































































































