魅惑のドボク「土木遺産 打越橋」(神奈川県・横浜市) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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土木遺産シリーズ1

土木遺産 打越橋

 

往訪日:2024年3月31日

所在地:神奈川県横浜市中区打越

■発注:横浜市

■施工:横浜船渠㈱

■竣工:1928年(昭和3年)

■用途:橋梁構造物

■諸元:橋長38.4m×幅員8.1m

■形式:2ヒンジ逆ランガー桁

■土木学会奨励土木遺産(2015)

 

《稀に見る構造美》

 

ひつぞうです。建築散歩しているので、ついでに土木遺産も観察することにしました。まずは地元の名橋から。根岸森林公園に向かう途中に通過する打越橋を改めて紹介します。

 

★ ★ ★

 

関東大震災は横浜市民の暮らしを大きく変えた。住む場所を失った人々は(以前も書いたが)主に野毛山牛島山に移住した。その急激な都市化に合わせて車橋から現在の山元町に建設されたのが横浜駅根岸道路だ。その結果、坂の頂点に切通しを開削。山の手を結ぶ交差道路を維持するために架橋することになった。現在の打越橋である。

 

 

「ここ走って登るのメチャきつい」サル

 

おサルは坂道が大の苦手である。

 

かつて市電が走っていた。そのため下道は片側二車線のゆとりある幅員構成。近年の塗替えでビビッドなオレンジになった(以前はレモンイエロー)。

 

 

橋台に土木遺産の銘板とともに解説が附されていた。

 

説明をそのまま引いてみる。“関東大震災の復興事業として、車橋から山手本通りに抜ける道路(現在の市道横浜駅根岸線)が横浜市電の線路敷設とあわせて建設されました。この道路により付近が切通しとなり、岡を通る生活道路が分断されるため、この打越橋が建設されました。”

 

因みに橋の名前は「うちこしはし」。橋梁の正式名称は濁らないのが一般的なんだ(例外もあります)。

 

「発音しにくくね?」サル

 

橋は川に架かるでしょ。(川が)濁ると災害で流される。そういうゲン担ぎなんだよ。お酒の銘柄と一緒。日高見は「ひたかみ」。〆張鶴は「しめはりつる」。「しめはりづる」って呼ぶ酒飲みが多いけど。

 

「清酒も濁らないからか」サル

 

そういうこと。それよりもホント美しい橋なんだよね。これ。

 

 

下から見上げるとさ。アーチリブが橋軸方向に対して左右非対称に反っているんだよ。しかも斜角が入っているし、縦断勾配もある。三次元変化が著しいんだよね。まだFEM解析もない昭和の初め。きっとタイガー計算器を使った手計算。当時の技術者はレベル高かったんだね。

 

 

偏断面のアーチリブがまた優美。

 

「なに?へんだんめんって」サル

 

アーチリブの垂直方向の幅に絞りが入っているでしょ。これが偏断面。偏る断面ってこと。

 

補剛桁トラス梁横桁を支える二重構造。まだ高強度の型鋼や厚板が現れる前。今ならもっと部材数とアーチライズを抑えた構造で設計可能だ。条件制約が生んだ“図らずして生まれた構造美”といえる。だからこそ大切にしたい土木遺産なんだよね。ペンキの落書き、絶対やめて欲しい。

 

 

親柱も大正モダニズムっぽくておしゃれ。

 

 

橋面全景。こうしてみるとただの道路(笑)。

 

 

竣工は昭和3(1928)年。施工は横浜船渠㈱。その後、三菱重工業と合併(事業継承会社はエム・エム・ブリッジ)。事実上事業所は消滅したが、みなとみらい地区にドックの遺構が残る。

 

 

西之橋、谷戸橋などと併せて《元町・山手地区の震災復興施設群》として土木遺産に認定された。もし、徒歩でここを通るときは当時の職人技に注目して欲しい。名橋である。

 

「くだりはめっちゃ楽!」サル

 

そういいながら朝食を作るために一目散で帰路につくオサルなのであった。ありがたい。ありがたい。

 

(おわり)

 

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