サルヒツのグルメ探訪♪【第226回】
中村
℡)06‐7506‐8218
カテゴリ:モダン懐石
往訪日:2024年1月27日
所在地:大阪市北区西天満4‐5‐25
営業時間:17時~21時(LO)(日曜祝日定休)
アクセス:地下鉄堺筋線・南森町駅から8分
駐車場:なし
■8席(カウンター)
■予算:18,000円(税別)+アルコール
■予約:要
■カード:可
■オープン:2016年
《女性らしくあしらいは繊細》
ひつぞうです。一月末の晩にモダン懐石の店、中村を訪ねました。雑誌やSNSではなく自分の嗅覚で見つけた隠れ家系。以下、往訪記です。
★ ★ ★
一月のある晩のこと。まだ松の内だった。西天満の老舗で新年会を開いた。お開きになったあと、外で酔いを醒ました。見れば同伴向けの小さいながら構えの立派な店が散見された。通りから奥まった所に小さな表札だけのひと際映える白壁があった。それが中村だった。
早速、散歩から帰った犬のように、こんな店があったと事細かにおサルに報告した。女性店主が経営する少人数予約制のミシュラン星付きの店。カテゴリーはモダン懐石。
「奢ってくれるのち?」
いいよ。
「じゃいく!」
小遣いにそんな余裕はないが、駄目なら家計から借りればいい。どこか理屈が妙だが、いちいち気にしていると予約できるものもできなくなる。
ついに来てしまった。
店内は八人掛けのカウンターが一列。玄関の脇に四人掛けの個室があるが、使われていないのかも知れない。網代葺きの天井に、どこかの温泉でみた市松模様の壁飾り。二年前までは四人で応対していたようだが、店主の中村明美さんはスタッフと二人で接客していた。これでは大人数を受け付けないのも頷ける。
「クオリティ重視だの」
最初に御屠蘇が振舞われた。ここで恐る恐る撮影は大丈夫かと訊いてみた。だが「遠慮頂いている」とつれない回答。ええー!ネットに普通にあがっているけれど…。近頃では高級飲食店での撮影および投稿に関して批判的な意見もあるので、仕方ないといえばそれまでなのだが。
「ちゃんと聞いてみれば?」
そこで「自分用でもダメでしょうか」と悲しい気持ちいっぱいで訴えてみた。すると、自分用の撮影および時間をおいての投稿ならばOKという快い回答。月替わりの献立なので、料理を愉しみにしている予約客の眼に触れさせたくない。そういう配慮だった。(三箇月経過しているのであげました)
許しを得れば撮りたくなる。それが人情。
「じゃ酒を」
数は多くないが、良いものを揃えている。(メニューには日本酒としか書かれていない)
大吟醸は九平次、磯自慢ともう一本(よく見えなかった)。純吟は上喜元と武勇。選ぶなら、繊細さよりリッチバランスな純吟だろう。上喜元も好きだが、開栓済みで残り半分。武勇は未開栓。それに飲んだことがない。
「それにしよう♪」 ムキキ
武勇 純米吟醸 山田錦 黒ラベル
生産者:㈱武勇
製造年月:2023年11月
所在地:茨城県結城市
タイプ:純米吟醸 火入れ原酒
使用米:兵庫県産山田錦100%
精米歩合:55%
アルコール:15度
定価:1590円(税抜)
辛口だが、期待を裏切らないピチピチしたガス感と、ほんのりマスカット系の果実味。旨い酒だ。
=先付=
柚子窯風に出てきた。
生湯葉とゆり根の餡かけ
開けるとこれが。
湯葉は調味料なし。素材の味のみ。ゆり根のザクザクした食感も新鮮。それを泡立った柚子の搾り汁の酸と淡い甘味が包み込む。
「めっちゃ繊細♪」
=造里=
塩釜産の車海老 本鮪(中トロと赤身)
車海老のいまだかつて体験したことのない弾力にまず驚く。茹でた頭はそのままで。そして鮪。中トロなのに口の中で融けてしまう柔らかさ。
=椀物=
色うるしが鮮やかな椀。モチーフは南天。赤い実をつける一月に合わせている。
「蓋を開けると蒸気がすごいよ」 よい香り~♪
ウグイス菜、河豚の白子、蓮根の白味噌仕立て
本当にいい香りだ。
蓮根は慈姑のような柔らかさ。口に含むと隠し味の柚子の香りが広がる。ウグイス菜は初めて耳にする。なんでも小さな壬生菜のような京野菜。ウグイスが鳴く季節に収穫されるのでこの名がついたそうだ。
「色じゃないのにゃ」 うんま♪
=八寸=
豪華絢爛。大王松の長い松葉が眼を惹く。そして、ピンクの寒木瓜が色を添える。
左から順に。
柿、大根、胡瓜の白和え
自家製からすみ餅
つくね芋の餡かけ
河豚の酒盗焼き
なまこ ぽん酢
梅肉入りゆり根饅頭、慈姑せんべい、厚焼き玉子、栗
正月飾りの繭玉を模した松葉に可愛い料理が刺さる。つくね芋は関西で人気の長芋の仲間。
=強肴=
中村では揚げ物はなくて強肴が中盤に出てくる。
河豚のジュレ
昆布と鰹の白黒のジュレを河豚の皮、身、そして肝に和えて。
=焼物=
チシャ菜 かぶ 黒毛和牛ステーキ
器といい、盛りつけといい、食材といい、パーフェクトな和牛ステーキ。粗挽きの塩と胡椒で下味はついている。肉が実に柔らかい。
「ふた切れで十分かも」
=御飯=
ごま油で炒めた青菜、焦がして風味づけした大根、そしてシラスを惜しげもなく使った釜炊き。とにかく手間がかかっている。
「美味しいものは手間がかかるのち」
残った分は小さなオムスビにしてくれた。お料理はここまで。
=氷菓=
パンナコッタベース。バニラアイス、苺(さちのか)、柑橘(せとか)のゼリーが乗る。この苺。本当に甘かった。
「御馳走様ですた!」
本当は店主の中村さんとお話したかった。ベテランの料理人だが、決して取っつきにくい方ではない。むしろはにかみ屋なだけで、お喋りも嫌いではなさそうだった。とにかく忙しい。料理を供する以外は奥の厨房にスタッフと籠り切りだった。
てっきり関西人だと思っていたが、なんと福岡県出身。辻調理師専門学校を卒業後、上本町「和光庵」、宗右衛門町「本多」、北新地「割烹まつもと」などで修業している。独立は2016年。「雑誌かなにかでお知りになったんですか」と訊かれたので、偶然通りかかり、店のオーラに引かれたと正直に答えた。
ちょっと驚いた風だったが、「是非またお越しください」と言ってくれた。
最後は店の先まで見送ってくれて土産のオムスビを呉れた。見れば丁寧にラッピングされていた。あれから既に三箇月。もう春のメニューも終わり、初夏のイメージを構想されているのはないだろうか。
「また行きたい店が見つかった」
なかなか予約取れんけどね。
(おわり)
ご訪問ありがとうございます。