サルヒツのグルメ探訪♪【第224回】
旬彩天つちや
℡)06‐6338‐2288
カテゴリ:天麩羅・日本料理
往訪日:2023年12月23日
所在地:大阪府吹田市豊津町41‐4
営業時間:(日月の昼のみ定休)
(L)12:00~14:30
(D)18:00~21:30
アクセス:御堂筋線・江坂駅5番出口より8分
駐車場:あり(5台)
■10席+個室1(4名)
■予算:
(L) 8,800円(税込)
(D)20,000円(税込)
■予約:完全予約制
■カード:可
■オープン:2008年7月
《究極のモダン天ぷら懐石》
ひつぞうです。昨年末、二人きりの年納めをやりました。場所は江坂駅近傍の住宅地の一画。そんな静かな場所に天麩羅割烹《つちや》はありました。実はここ、ミシュラン星つきの予約困難店でした。以下、往訪記です。
★ ★ ★
つちやの存在に気づいたのは、ジョギングを初めて間もない頃だった。時は四月。駅前周辺のビル群では、縄張りを主張するイソヒヨドリの美しい鳴き声が谺している。だが、少し外れると、都会の喧騒は遠のき、人が擦れ違うだけで一杯の細い路地が入り組み始める。ここは豊津町。江戸時代までは荘園が広がっていた場所だった。
だからだろう。蔵つきの豪壮なお屋敷が数軒高塀の向こうに見え隠れしている。ようやく路地を抜けると一本の車道に飛び出した。そこに(周囲の環境にそぐわない)ひと際目立つ白壁の店舗があった。何かが違った。これは余程好い店に違いない。そう思いながら、通りすぎることが幾度か繰り返された。
ある日(いや、最近はいつものことだが)おサルがこう言った。
「行ってみたい店があるのち」
また?どこよ。
「近くに良さげな天ぷら屋さんがあるんだよにゃ」
ひょっとしてそれって、つちやって店?
「なぜ判った?」
ということで予約することになった。ところがである。次の週末はおろか、数箇月先まで予約で満席。ちょっとなめていた。こうして苦労して今回のランチの予約に漕ぎつけたのだった。
席はカウンターと4人掛けの個室(といっても殆どオープンスペース)。カウンターで店主の箸捌きを堪能するのが天ぷら懐石の醍醐味だが、まあ仕方ない。予約が取れなかったのだ。
酒とワインも豊富。注文は一合グラスらしい。飲んだことがないものを頂戴しよう。
小鳥のさえずり・純米吟醸(神亀酒造・埼玉)
残念ながら一升瓶からは注いでもらえなかった。謂わずと知れた日本で初めて全品純米製造に踏み切った神亀酒造の別銘柄。看板の神亀やひこ孫のように濃醇な旨味主体ではなく、むしろ軽めで果実味も豊か。食前酒にちょうど良かったかな。
「酒のことはまかせた!」 飲めればいい♪
=前菜=
梅花皮の入った美しい器が登場。蓋を開けてみよう。
大阪白菜と京菜の煮びたし
まずは郷土の季節野菜でダシを味わう。
=造里=
大分のモンゴウイカ 今別(青森)のマグロ 福井の辛み大根 いくら醤油漬
モンゴウイカも本マグロも程よくグルタミン化。ねっとりとして旨い。
=八寸=
これまた器が美しい。九谷焼だろうか。香合風の松ぼっくりの蓋を開けると…
こんな感じの艶やかさ。
(12時の方向から時計回りに)
南瓜饅頭
舞茸、帆立の柚子ジュレ
茶ぶりなまこ
鮟肝しんじょう 市田柿ミルフィーユサンド
長崎産ヤイトガツオの変わり寿司
やはり懐石の華と云えば八寸。料理人の腕と美意識が開花する。
「めっちゃキレイ!」
南瓜饅頭は生麩のような食感。思わず笑顔になる。次の茶ぶりなまこ、すなわち、番茶に通して特有の生臭さを消し、身を柔らかくした赤なまこも絶品だ。ヤイト(お灸)の痕のような柄があるのでその名があるが、寿司ネタではスマの方が通りがいいかもしれない。脂の乗るこの季節、全身トロと言われるほどの高級魚に化ける。表面にかかっているのはシャリを麹で溶いた特製ソース。なれ寿司の変形版だろうか。
旭菊・純米吟醸(旭菊酒造・福岡)
一杯目は軽く終了。次は筑後の酒で。故郷の酒ながら飲んだことがない。穏やかで酸味と果実味を感じる。軽やかな朝霧のようなキレのある酒。
「すぐなくなゆね」 困ゆー
=てんぷら=
いよいよ揚げてもらう。
塩は三種類。
メキシコの辛口塩 対馬の藻塩 モンゴル産紅塩
「やっぱ藻塩でしょ」
天草の車海老 茨城の蓮根 大山のブロッコリー&むかご
海老の身の甘いこと!蓮根は芋のようなホクホク食感。
祖父江の銀杏 若狭の甘鯛うろこ揚げ 明石の鰆 淡路の鱚
鱗揚げは味も食感も殆どスナック菓子だね。
田从(たびと)特別純米(舞鶴酒造・秋田)
三杯目も飲んだことがない銘柄を。いうほどガッツリ系でもなく、天麩羅によく合うシャープな味わいだった。旨い。特別稀少な銘柄はないが、ちょっと余所では眼にしないものが並ぶ。計算されたラインナップかな。
=止め肴=
愛媛産・紅マドンナ
まだ料理が続くので、小鉢ではないが、止め肴という表現にしておいた。ネーブルの交配種なのだろうか。瑞々しくて酸味と甘みのバランスがいい。
千葉のブラウンマッシュルーム 胡麻豆腐 香住カニ シルクスイート(薩摩芋)
肉厚でキノコ特有の旨味のお汁が詰まったマッシュルームと、松葉ガニの一大ブランド香住(兵庫県香美町)の蟹を10本丸々揚げて、熱々の処にザクっと包丁を入れる。旨くない筈がない。
「カニは名物らしいにゃ」
=酢の物=
水菜、カキノキダケ、近江コンニャクの酢の物
お茶で一服。
吟香露(杜の蔵・福岡)
四杯目はひさしぶりに焼酎をロック(600円)で。吟醸酒の酒粕で造る焼酎らしい。米焼酎特有のクセがなく深みのある造りだ。
「サルが選んだんだよ」 飲まんといて
そういえば、熊本の母方の爺さんはいつも強烈な匂いの球磨焼酎を飲んでたなあ。
=御飯もの=
最後は関西風うどんと稲荷寿司。
「やっぱ関西のうどんは旨いにゃ!」 ダシがスバラシイ
お稲荷さんはお替り自由。数に限りがあるので早いもの勝ちですよと、若いスタッフが煽る。もとより小振りなので、食べ過ぎという訳ではないのだが、他のお客は大半が女性。まだここまで辿り着いていない。そこを「早い者勝ち」の一言で「では」と応えては随分いやしいようで厭ではないか。
「食べないの?」
ください。
食慾は常に理屈ではない。
ということで二個目。大層旨かった。
最近は天麩羅でも鮨でも赤酢ばやりだが、こうした素材そのままのほうが個人的には好き。
天カスも高級。器も高級。これ、瀬戸焼の人間国宝・加藤卓男の作風そのままなんだよね。
山椒と陳皮をいれると饂飩の風味も味変。
「なんでも旨い」
=氷菓=
北海道産大納言仕立てのブラマンジェ。久留米の特産・恋みのりを載せて。最近の改良苺って全然酸味がなくて食べやすくなったよね。
「歯ざわりもよくなった」
ごちそうさまでした。
あっという間のランチタイムだった。店主の土坂幸彦さんは滋賀県出身。大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、宗右衛門町などの幾つかの割烹料理店で腕を磨いて、37歳の時に独立したのだという。なぜにこの豊津町を選んだか、それを是非訊きたかったが、個室だったがゆえに適わず。
酒よし、器よし、料理よし。そしてホスピタリティ100点満点の店。やはり最初に感じた磁力は本物だった。
「そんなオカルトみたいな」 たまたまよ、キミのばあい
(おわり)
ご訪問ありがとうございます。