名建築を歩く「大阪府警察本部」他(大阪市・大手前) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

大阪府警察本部

 

往訪日:2023年10月20日

所在地:大阪市中央区大手前三丁目1番11号

開館時間:基本的に入れません

観覧料:見世物ではありません

アクセス:堺筋線・谷町四丁目駅から徒歩3分

■設計:黒川紀章

■竣工:2008年

■施工:竹中工務店

 

《鉄盾を模したような構造美》

 

ひつぞうです。10月半ばに大阪城近傍の大手前界隈に仕事の用があって出掛けました。天気もいいし、ついでに大阪府警察本部を眺めに行くことに。実はここ、黒川紀章設計の名建築なのです。以下、建築散歩です。

 

★ ★ ★

 

過去の経験から割り出すと(とりわけ権威的な)建築というのは東に向かって立っている。美しく撮ろうと思えば、午前八時くらいの斜光線があたる時間が望ましい。ということで早朝の堺筋線・谷町四丁目駅でおりた。周辺には多くの官公庁が集まっている。また、大坂城アクセスの起点でもある。流れる人の群れに混ざって舗道を歩いていった。

 

「仕事してね」サル 頼むから

 

 

ここは大阪府警察本部。不審者と思われては敵わない。遠巻きに観察するだけに留めよう。

 

設計コンペで一位を獲得した黒川紀章晩年の作品だ。初期のメタボリズム理論の諸作品とは異なる、福岡県庁沖縄県庁などに共通する行政庁舎らしい整然とした作例。だが、そこで終わらないのがアトリエ系。多くの数寄者を排出した大阪を意識したのだろうか、矩形の一角に扇状の凹部を設えた。

 

 

正面からみるとまた強烈な印象だ。屋内を闊歩する警察官僚の姿が見える。大坂城をイメージしたと聞くが、どこがどのように意識されているのか、自分には判らない。

 

 

基層部はベージュの御影石で覆われ、建物側面は白い化粧タイルで統一。そして曲面強化ガラスによるカーテンウォール。これは陽光降りそそぐタイミングで是非鑑賞したいところ。天端部のシャープなスリットも印象的。

 

 

完成を見ないまま、黒川紀章は2007年に病没した。マスコミへの露出が増えていた黒川の死はニュースでも大きく取り上げられた。この頃からだ。僕がアトリエ系建築家の著書にあたるようになったのは。

 

 

この御影石は大坂城の切込接の石垣をイメージしたものなのだろう。

 

 

背面(なのかどうか怪しいが)から見ると、黒川らしい構造の“遊び”が伺えて愉しい。確かに天守閣を方形に展開し、破風と瓦屋根を除けば斯くあるかも、などと写真をとっていると、やはりというか、駐車場入り口のポリスボックスから若いお巡りさんが、じわじわと笑顔で近づいてきて「お仕事ですか」と訊ねてきた。

 

「言わんこっちゃない」サル

 

テロリストや組織の工作員は、むしろサラリーマン然とした姿で偵察に赴く。スーツ姿だからといって堅気の証しにはならない。

 

いえ、近代建築の父、黒川紀章先生の作品を見学に参りました。

 

コトバを選んで仰々しく説明すればするほど疑わしさは倍増する。丁寧に頭を下げて引き下がることにした。遠巻きにと言いつつ、接近しすぎたよ。

 

「職質うけないで」サル 頼むから!

 

他にも写真とっている観光客いたよ。

 

「撮り方が執拗なんだよ」サル 判らんのか!

 

自覚なかった。

 

実はこのあたり、建築や美術作品が集まる、ちょっとしたパブリックゾーンなのである。順に観て行こう。

 

 

■大阪歴史博物館(左)

設計:シーザー・ペリ・日建設計・NTTファシリティーズJV

施工:大林組・竹中工務店・戸田建設・三井建設・安藤建設JV

竣工:2001年

用途:博物館

 

■NHK大阪放送会館(右)

設計:同上

施工:同上

竣工:同上

用途:オフィスビル

 

内部はいずれ見学するとして、まずは建築。建物はアトリウムで連結されていて、ともに同じ設計者、建設工事共同企業体による。歴史博物館はトマホーク状にそそり立ち、菱模様の化粧タイルで覆われ、一部でガラスウォールが露出。かたやNHK大阪放送会館は、一面を曲面ガラスウォールで構成。名古屋ルーセントタワーと似ている。

 

 

「左は福岡のシーホークに似てる」サル

 

お!おサル好いセンスしてるよ。あれも同じ建築家が意匠設計しているんだ。アトリウムの部分も似ているね。設計JVとして関与したアメリカの建築家シーザー・ペリ(1926-2019)は大阪の現代建築に大きな足跡を残していて、最近完成したものではあべのハルカスが、少し前では国立国際美術館が有名だ。

 

 

回り込むとこんな感じだ。なんとなく印籠みたい。

 

ということで、長居すると不審者としてマークされかねない。次のポイントへ。大坂城大手門の脇の広場に銅像がある。観てみよう。

 

北村西望《世界連邦平和像》(1973年)

 

なにかと大阪にゆかりのある彫刻家、北村西望(1884-1987)の作品だ。京都市立美術工芸学校の卒業だったからかな。

 

 

世界連邦運動協会・大阪支部が設立したんだね。

 

 

「人物はともかく馬がうまい」サル


西望は人物像もできるんだけど、敢えて簡素な表現を選んだんだろう。

 

 

騎馬像が得意だったから馬は旨いよ。

 

この銅像の前にトイレがあるんだけどさ。これがまたスタイリッシュな訳よ。

 

「トイレまで観るのきゃ」サル 酔狂すぎゆ

 

多分アーティスト作品だと思ったらビンゴ!

 

 

■大坂城大手門前トイレ

設計:遠藤秀平

施工:不明

竣工:2007年

用途:公衆トイレ

GOODデザイン賞(2007年)

 

遠藤秀平氏の作品だった。天井と側壁に耐候性鋼板が使用されている。ニッケルモリブデンを混合することで、表面錆の緻密性をあげて内部進行を抑えるんだよ。これにコート剤を塗布すると黒褐色の綺麗な被覆層ができるんだけど、あえて塗らずに赤褐色を狙ったんだろう。

 

「よく天井が落ちないにゃ」サル

 

緩くカーブを描いているでしょ。これがアーチ構造となって剛度をあげるんだ。公衆トイレって莫迦にできなくて、隈研吾、坂茂、安藤忠雄、伊藤豊雄など一流建築家の作品が都心を中心にたくさん設置されているんだ。

 

「なぜ?」サル ほわい

 

なぜ?だって芸術品のトイレだったら用を足す側としても快適だし、トイレ破壊を鬱憤の捌け口にする大バカ者もさすがに怯むでしょ。アートだと莫大な修理代を請求されるだろうし。いいアイデアだよ。

 

 

■大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター

設計:日本設計・竹中工務店

施工:竹中工務店

竣工:2016年

用途:病院施設

 

ロータリーを挟んでみえるのは大阪国際がんセンターだ。波型のデザインが美しいね。これ美観だけなくて構造的な剛度の保持にも役立っている。側面からみると格子状に積み重なったような景観だ。

 

そしてロータリー脇に随分古い建物も。

 

 

■大阪市水道局 大手前配水場

施主:陸軍大阪砲兵工廠?

設計:不明

施工:不明

竣工:1931(昭和6)年

 

戦前の建物だった。外壁の壁龕はテラコッタ製だろう。切妻風のRC造の平屋建て。細部を観察できないのは残念だが現役のポンプ場ではあるらしい。

 

「どーしてまたこんな場所に浄水場が?」サル 川ないじゃん

 

いやいや。すぐ北には堂島川が流れているんだよ。かつてコレラや流行病の防止のために、大坂城内に浄水場を建設することになったのが始まりらしい。

 

そして、がんセンターの隣には大阪府庁舎が鎮座している。1986年建替えの大阪市庁舎と違って、白堊のアールデコ調の建物だ。

 

 

■大阪府本庁舎(三代目)

施主:大阪府

設計:平林金吾、岡本馨

施工:大林組、清水建設

竣工:1926(大正12)年

登録有形文化財(2012年指定)

 

これもいずれ改めて、内部見学を含めて取り上げなおすつもりだが、さわりだけ備忘録。設計は愛知県出身で東京工業学校(現:東京工業大)出身の建築家、平林金吾。平林は担当案件の設計で知遇をえた高橋貞太郎学士会館の設計者)を慕って内務省に移籍。後に大阪府庁舎の設計を同僚、岡本馨とともに手掛けた。他には帝冠様式の名古屋市庁舎が有名だ。

 

「うむ。何度もいった」サル

 

住んでたしね。

 

 

すごく綺麗なので誤解していたが、現存する全国都道府県庁舎で最古の建築なのだそうだ。

 

 

天井や柱にアステカ、マヤ風の彫刻が施されている。

 

 

この日は平日。登庁する職員が駆け込んでいく。そんな状況で内部撮影はちょっとね…。2012年に登録有形文化財に指定。府の機能は咲洲庁舎等へ移転が進んでいる。その後美術館に生まれ変わると聞いている。

 

「その方がいい」サル 壊されるより

 

 

昔の暖炉なんだろうね。

 

 

いつまでも残ってほしい。

 

 

ということで大手前周辺の建築・美術散歩は終わり。このあと、真面目に働いた。

 

「遊んでるじゃん」サル

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。