美食と癒しの大人の隠れ家 湯川温泉「山人-yamado-」(岩手県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

サルヒツの温泉めぐり♪【第163回】

湯田温泉郷・湯川温泉 山人-yamado-

℡)0197‐82‐2222

 

往訪日:2023年10月6日~10月7日

所在地:岩手県和賀郡西和賀町湯川52地割71‐10

源泉名:出途の湯開発1号泉

泉質:ナトリウム‐塩化物・硫酸塩泉

泉温:(浴槽)約42℃(源泉)51.4℃

匂味:石膏・微量の鉄分臭、無味

色調:無色透明

pH:7.7

湧出量:不明

その他:動力揚湯、非加水、無濾過、かけ流し

■営業時間:(IN)15時(OUT)11時

■料金:メゾネット37,500円/人(税別)※冷蔵庫のみインクルーシブ

■客室:12室

■アクセス:秋田自動車道・湯田ICから約15分

■駐車場:17台

 

濁流を背に深まる秋を想う》

 

 

ひつぞうです。東北遠征の投宿先は湯田温泉郷のひとつ湯川温泉山人(やまど)でした。部屋数わずか12室。いずれも露天風呂つきのデザイナーズ系の大人の隠れ家。おサルのたっての希望を容れて訪ねました。以下、往訪記です。

 

★ ★ ★

 

ことの発端は恒例の年末年始の計画だった。

 

「行きたい温泉があるのち」サル

 

どこよ。また雪国?

 

「岩手の温泉だにゃ」サル

 

聞けば、凝った意匠の隠れ家系。食事も美味しく、ホスピタリティも最高だとか。早速ネットで検索する。しかし、無情にもすでに満室…。それも年末年始だけ。直接伺ったところ、常連客が一年後の予約を済ませてしまうらしい。これではどうにもならない。

 

「もういい。年越しは家でゴロゴロすゆ」サル 拗ねゆ

 

「子供か」と内心思ったが、普段は僕の趣味に付き合わせてばかりなので、秋が深まる前に投宿しようと提案した。

 

「いく!」サル ぜひ!

 

さて当日。岩手県立美術館から花巻方面に戻り、秋田自動車道に入った。奥羽山脈には厚い布団のような雲が圧し掛かり、太平洋側に勢力を伸ばそうとしている。雨雲に突入すると、想像どおり叩きつけるような雨。ついてない…。

 

なんとか無事にチェックイン開始の15時に到着した。

 

 

一説によれば1046(永承元)年開湯と言われる湯川温泉中の湯、奥の湯、そして出途の湯の三源泉が存在する。奥の湯といえば昔ながらの湯治宿の風情が残る老舗の高繁旅館が思い浮かぶが、山人が引くのは出途の湯。実は(御多分に漏れず)近年の余暇の多様化で、廃業した建物も目立つ界隈だ。にも拘らず、経営者である高鷹政明氏は、40年以上続いた宿《末広》を継承。2009年5月に山人をスタートさせた。

 

「意外に新しい宿だったんだにゃ」サル

 

しかも大胆な試み。

 

 

猟師、ゼンマイ取り、山菜取り、炭焼き小屋の主など、山を知り、山で生活する人びとを、西和賀では山人(やまど)と一種畏敬の念を込めて呼んできた。その名を背負う山人‐yamado‐のスタッフは総じて若い。そして異業種からの転職者や都市圏からの入社組も多いという。今流行りのダイバーシティ。だからこそ多軸のサービスが保証されるのかもしれない。それは極上のリトリート、最高の時の贅沢である。

 

「それにしてもひどい雨脚だにゃ!」サル

 

駐車すると、黒い傘を掲げてスタッフが駆け寄ってくる。あれ。このシチュエーション。どこかで一度体験したような…。

 

 

「平地はそうでもないんですけど山あいなのでよく降るんですよ」とスタッフが笑う。知っている。数年前に和賀岳登山で遠征した前日もひどい大雨だった。渡渉絡みのコースなので、増水で厄介な思いをした記憶が蘇った。

 

 

フロント前のロビーで記帳し、館内の説明をうけた。

 

 

女性も綺麗だし、男性もイケメンばかり。採用基準を見てしまったかも(笑)。

 

 

フロントには岩手ゆかりの土産物が並ぶ。どれもセンスがいい。温泉温泉していない。中二階は図書コーナーになっているそうな。覗いてみよう。

 

 

なるほど。danchuオヤジが好きそうなデザイナーズチェアや雑誌、そして写真が並ぶ。ただ、宮沢賢治が眼を惹く程度で、趣味のいい本(例えば、高村光太郎や柳宗悦など、誰でもいいが、ゆかりの作家、アーティスト、美食家など)は尠い。インテリアが先行して、中身が追いついていない印象を受ける。このあたりは進化の途中なのだろう。

 

「shi-shi-iwaハウスはメッチャいい本がたくさんあったしにゃ」サル  ヒツ大喜び

 

 

みれば雑誌の《自遊人》がある。まてよ。さっきの出迎えのデジャヴは里山十帖だ。見当違いな推測かもしれないが、高鷹氏は岩佐十良氏と関係があるのだろうか。建物のコンセプトや食事も、考えてみればよく似ている。

 

脱線した。

 

 

建物は三棟。渓流沿いに二棟、計八室。そして、僕らが宿泊する四室が手前に並ぶ。御覧のように貸切露天風呂は投宿時に予約してカードに記載してくれる。敷地内の樹木も丁寧に名前が書かれている。春や紅葉の季節には嬉しい心配りだ。

 

 

ということで部屋まで案内いただいた。

 

 

ここですな。今年は暑い夏が続いて錦繍には及ばないが。しかし、急にここまで寒くなるとはね。

 

「雨降ると全然気温が違う」サル

 

 

まず靴脱ぎで上履きに履き替えよう。

 

 

メゾネットなので一階部分が広く天井はどこまでも高い。室内に流れるのはスウェーデンジャズ。フロントでCDを貸してくれる。

 

 

ソファの前に座卓があり、ふかふかのクッションが並ぶ。そして冷蔵庫、テレビ、CD。

 

 

階段を経て寝室。二階にヒーターが備えつけられている。超強力なので厳冬期でも大丈夫だ。

 

「暑いくらいだったにゃ」サル

 

加減が判らなかったのよ。

 

 

実は少し冷えてしまっておサル寒そう。

 

 

テラスには椅子が並ぶ。そして部屋つき露天風呂も。

 

「二階を見学すゆ」サル

 

 

こんな感じだ。一段高くなった畳敷き。背後の障子は開閉可能だ。

 

 

油断すると落ちそう。

 

 

残念ながら、初日は雨模様のままだった。

 

 

一応インクルーシブ。ただ、ワインとか酒とかはない。

 

 

洗面所も美しい。

 

 

部屋つき露天風呂は御影石。二人はいればギュウギュウである。

 

 

かなり熱いので冷水を足して適温にしよう。泉質は抜群。白い湯の花が浮き、鉄分の影響だろう。御影石は赤褐色に薄く染まっていた。

 

 

このわらび餅が最高に旨い。西和賀町はわらびが名物。澱粉質に富み、粘りが強いのが特徴だ。

 

ではそろそろ温泉探検の時間だ。

 

=山人の特徴=

■温泉

・源泉かけ流しの石膏泉

 

■部屋

・全て異なるラグジュアリースタイル

 

■料理

・季節と地産素材を活かした創作郷土料理

・酒(一般流通銘柄が主体)

 

■ホスピタリティ

・笑顔が素晴らしい若手スタッフ中心

・寝具敷きっぱなし(入室なし)

 

=当館の攻略法=

■浴場

・部屋つき露天風呂

・貸切露天風呂「一寸」

 

■泉質

・全て同一泉質

 

■利用時間

・以下参照

 

■貸切利用

・離れの露天風呂「一寸」

・15時~22時30分、翌5時30分~10時30分

・30分単位

・投宿時に要予約(当日と翌日二回OK)

 

■日帰り利用…不可

 

課題は貸切露天風呂の予約枠だけ。折角なので早めの時間を押さえてバージン湯を満喫。後は部屋つき露天風呂でゆっくり楽しむことにした。風呂の数が多い(=あちこち点在する)のが最近つらい。これから先はこうした宿が僕らの世代には好いのかも知れない。

 

 

露天風呂まで階段をくだる。突き当り左が食事処。風呂は右だ。

 

 

ついた。予約制なので内から鍵をかけるだけ。

 

 

雨の日は笠を被るみたいね。

 

 

諦めていたら青空が出てきたよ。

 

「やっぱりおサルは晴れ女」サル

 

 

凝灰岩の仕業だろうか。光の加減で薄青く見える。

 

 

ということで僅か30分ではあるが露天風呂の気分を愉しんだ。

 

「熊が出そうで怖いにゃ」サル

 

スタッフもよく見かけるって言ってたよ。

 

「!」サル

 

ということで、後は素敵な部屋で。部屋つきのチューハイ片手に、くだらない四方山話で盛り上がった。

 

 

 

=夕 食=

 

夕食、朝食ともに食事処《福膳坊》で。

 

 

食事こそ山人一番の愉しみ。シェフも一流と聞く。

 

 

まずは食前酒で乾杯。

 

 

山人特製季節のバーニャカウダ

 

自家製菜園で育った旬の野菜に自家製ソースで頂く。このソースが絶品でバーニャカウダ食べたさに投宿する客も多いそうだ。隠し味にイワナが用いられているのが特徴。もちろん宿でも販売しているのだが要冷蔵。翌日以降も予定のある僕らにはムリだった。

 

「欲しかったのに…」サル

 

 

食前酒もなくなったのでメニューを確認する。

 

「やっぱ酒だよにゃ」サル

 

ワインの銘柄はいまひとつ。せめて紫波ワイナリーでもと思ったが。

 

 

だが、日本酒も地元流通銘柄のみ。特約店系には力を入れていないらしい。インクルーシブの隠れ家系の宿にしては珍しい。

 

「赤武とか酔右衛門とかあったらにゃ」サル

 

今後に期待したい。

 

 

ということで一番無難な雪の茅舎・純米吟醸を二合一度に。

 

「差しつ差されつで」サル

 

 

前菜盛り合わせ

 

中央に、ハツタケの煮蒸し。時計回りに、横手産茹で落花生、短角牛センマイ刺身風、山葡萄、生棗、無花果酒蒸し胡麻クリーム、サワモタシの寒天寄せ、松葉串(むかごと赤オクラ生ハム巻き)、短角和牛のローストビーフ

 

 

ミズコブ煮浸し

 

東北地方の山間部の宿では偶に出てくる珍味。しかし、長い枝状は初めて。噛むと粘りがでて旨い。

 

 

キチジのスッポンスープ煮

 

キチジとは三陸の地方和名で、キンキの方が通りがいい。炙りをいれて豪快にスープに浸す。三つ葉と松茸を散らせてスッポン出汁で。

 

 

身もホロホロ。

 

「出汁が旨いよ♪」サル

 

サルはダシに骨抜きにされやすい性質なのだ。

 

 

次は七福神・純米大吟醸

 

大味だが、香り高く旨味しっかり。大吟醸ながら食中酒にちょうどいいかもしれない。

 

 

天麩羅(南部かしわ、天然舞茸)

 

南部かしわは山人ファームのブランド鶏だとか。味わいが優しくジューシー。天麩羅との親和性が高い。また、酷暑続きで天然物は少ないと言われたマイタケを味わえたのは嬉しい誤算だった。

 

「なんか巨大なものがでてきたよ」サル

 

 

これなんですか?

 

「低温調理した花巻産の白金豚です」(スタッフ)

 

これから切り分けてソテーしてくれるそうだ。

 

 

三本目。蔵人の酒・吟醸酒。もはや味の違いは判らない。

 

 

一旦ハーブでマリネしたものを軽くニンニクと一緒にソテー。これ白ワインが良かったかも(笑)。

 

 

最後に飯物ならぬ麺物。蓬を練り込んだ特製稲庭うどん。塩蔵の西わらびと食用菊、そして釈迦シメジをトッピング。御理想さまでした。

 

 

秋のフルーツのパルフェ

 

桃が旨かった。

 

「御馳走さまでした」サル💦 腹がはち切れゆー!

 

 

立ち去り際に、籠に入った包みを渡された。あらかじめ説明を受けたはずだが、酔いが回って判らなかった。

 

 

部屋で包みを開けてみる。夜食のサンドイッチだった。いけないと判っているのに食べてしまった。さすがにそこまで僕も鬼畜ではない。食べたのは自分のぶんだけである。

 

「ZZZZZ」サルライダー

 

 

=翌 朝=

 

 

期待通りの天気になった。朝風呂で酒を抜いてさっぱりする。やはり温泉は最高だ。だが、熊が怖いので今回だけは旅先のジョギングは止すことにした。

 

 

=朝 食=

 

 

ハロウィンが近いせいだろうか。西洋カボチャがゴロゴロ。

 

 

朝も目いっぱい(笑)。

 

 

箱膳

 

左上から時計まわりに

 

ツルムラサキの和え物

おろし自然薯

もち米の茄子寿司

ヌキウチ(エゾハリタケ)と豚肉の煮しめ

胡瓜、大根、甘草の漬物

 

惰性で食べてしまうと何が何やら判らないが、歴とした郷土の食材や料理が鏤められている。とりわけ一種のなれずしである餅米で作る茄子寿司はねっとり甘く、いかにも雪国の料理という感じ。西和賀地方は岩手と秋田の食文化が綯交ぜになって、一種独特なのだとか。心して頂きたい。

 

「カンゾウを漬物にするんだニャ」サル

 

西和賀では“ぴょんぴょん”とも呼ぶそうだよ。

 

(ネットで拝借いたしました)

 

あとエゾハリタケも初めて食べた。

 

(ネットで拝借いたしました)

 

見た目は硬いブナハリタケって感じであまり旨そうにはみえないんだよね(笑)。

 

 

玉子もかしわファーム。

 

 

南部かしわのスープ豆腐

 

寄せ豆腐と言わないところがひとつのこだわり。

 

 

岩手の九穀米(ハト麦、大麦、粟、稗、黍、黒豆、青豆、茶豆、大豆)

 

 

里芋と豆腐の味噌汁

 

ここからはオプション。ただ注文しても料金は加算されない。これだけの量では大抵足りない。なのでお得感が倍増する。それに献立もいい。是非食してみたいという気になる。ここが商売の巧い処だ。普通であれば、全部端からメニューにしていいものを、お得感を演出するのだから。

 

客もそれと判って良い気分に浸るのである。

 

 

ヤマメの一夜干し

 

実際に唸るほどに旨い。

 

 

県産ポークソーセージ

 

練り込まれた行者ニンニクが好いアクセント。

 

 

南部かしわソーセージ

 

こちらは葱が隠し味。

 

 

サラダ(二人前は普通にある)

 

 

ギリシャヨーグルト

 

ソフトクリームが美味しい湯田牛乳公社の本格ヨーグルト。ネットリしている。

 

 

季節のフルーツ(葡萄、オレンジ、梨)

 

大層ご馳走になりました。

 

食後のコーヒーを頂いていると、若い男性スタッフと会話する機会を得た。僕らが山の食材に詳しいのでアウトドアするのかと訊く。今は全然機会がないが、東北を中心に多くの登山を重ねてきたと説明すると得心していた。彼もまた、大学時代は関東でラフティングに励んだ口だという。なので、Uターンしたものの、自然を半ば相手にした山人での仕事は愉しいという。過疎化が進む西和賀で、ひとつのビジネスの成功が、若い世代を呼び込む契機なればいいなと、そんな感想を抱いた。

 

 

さて。翌日は更に好天が期待できる予報。長らく懸案だった沢に向かうことができそうだ。感が鈍っているのが少し不安材料だが。とりあえず、ベースとなる町に向かう前に、寄り道することにした。

 

「ほんと道草好きだよニャ」サル

 

(つづく)

 

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