朝日軍道を歩く/朝日連峰主脈縦走①(以東岳~大朝日岳~長井葉山) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

以東岳(1772m)/寒江山(1695m)/竜門山(1688m)/西朝日岳(1814m)/大朝日岳(1871m)/平岩山(1609m)/御影森山(1534m)/中沢峰(1344m)/長井葉山(1237m) 山形県・新潟県

 

日程:2019年9月13日~16日

天気:(1日目)晴のち霧

行程:(1日目)泡滝ダム7:05→10:00タキタロウ山荘10:10→13:08オツボ峰→14:10以東岳14:23→14:28避難小屋

■駐車場:20台ほど

■トイレ:あり(ユニット式)

■登山ポスト:あり

 

≪以東小屋から残照の化穴山を見る≫

 

こんばんは。ひつぞうです。秋分の日の三連休は駄目でしたが、シルバーウィークは朝日連峰縦走を果たしました。六年越しの課題だったので達成感もひとしおです。詳しくはいつもの山行記録で!

 

【朝日軍道縦走コース】3泊4日

 

時は豊臣政権時代。越後藩主上杉景勝は、秀吉の命により置賜(米沢)に加領移封される。その際、庄内藩だけが所領として残った。この結果、最上氏(山形領)・堀氏(村上領)の領地に阻まれ、上杉領は分断されることになる。

 

最上・堀は徳川方。有事の際は庄内藩は取り残されかねない。そこで眼をつけられたのが総延長65kmに亙る朝日連峰だった。開削整備にあたったのは景勝の懐刀直江兼続。それまで一部拓かれていた修験の道を鱒渕(鶴岡市)から草岡(長井市)まで繋ぐ軍道として密かに整備したのである。

 

★ ★ ★

 

縦走にあたっては泡滝ダムから入山し、朝日鉱泉に下山。登山口までは予約バスでのアプローチが一般的。軍道踏破に拘る僕はアクセスで悩み続けることになる。

 

≪アクセス①≫長距離バス

 

新宿発の夜行バスを確保できれば、早朝の鶴岡入りが可能。しかし、泡滝ダム到着は8時45分。以東小屋まで約7時間の道のり。行けなくはないが、小屋は詰めても20人が好いところ。最悪ツエルト泊りを覚悟しなくてはならない。

 

※泡滝ダムまでもそうだが、朝日鉱泉からの登山バスも予約が必要。

 

≪アクセス②≫マイカー

 

アクセスの自由度は飛躍的に高い。ただし一日目は寝不足覚悟。回収にも丸一日かかる。加えてバスダイヤの都合で泡滝ダムからの入山に限定される。回収までの乗り継ぎは以下のとおり。

 

白兎駅…(山形鉄道)…赤湯駅…(山形新幹線)…新庄駅…(陸羽西線)余目駅…(羽越本線)…鶴岡駅→(庄内バス)→朝日庁舎→(朝日観光バス)要予約 →泡滝ダム 

 

二人で行くことを考えれば、長距離バス・電車の方が安いし、帰りはゆっくり新幹線で帰れたかもしれない。しかし、最近多忙で長距離バスの予約まで手が回らず、以東小屋の宿泊も不安だった。結局マイカーを選んだ。

 

「じゅうぶんな検討だにゃ。ほんとに多忙なのち?」サル

 

★ ★ ★

 

 

泡滝ダムに着いたのが午前二時半。翌日が平日だからだろう。車は一台もない。ライバル次第で出発時間を決めるつもりだったので少し安心した。

 

翌朝、車の音で目が覚めた。時刻は午前六時を回っている。どうすべきか。グズグズしているとタクシーが数台、列をなしてやってきた。ひさしぶりに場所確保に腐心する山旅になりそうだ。車から出ると、朝露に濡れたツリフネソウが揺れていた。

 

※ちなみに今年の市道泡滝線(大鳥口~泡滝ダム)の開通は6月20日

 

 

支度をすませて出発。三台のタクシー以外に追従する車はなかった。泡滝ダムは1965年に運用開始された山形県企業局の発電施設。大井川の畑薙ダムのような、立派な堤体を想像していたのでちょっと拍子抜け。

 

 

堤体背面はほとんど土砂に埋まっている。

 

 

その脇に登山口があった。長い三泊四日の旅の一歩を踏み出す。朝日軍道という名称は昭和に入ってからのもので、古くから庄内道路と文献にも記されている。さらに言えば、現在のトレイルは軍道そのものではなく、歩きやすく付け替えられたものだ。

 

元は鱒渕(現在の荒沢ダム周辺)から高安山芝倉山戸立山と繋ぎ、現行トレイルに合流するらしいが、廃道になって久しい。そのため軍道を完全トレースすることはできない。葉山以降もオケサ堀コースを取る方が本来の意義に相応しいが、早朝の電車を乗り過ごす訳にはいかず、白兎駅に降りることにした。

 

 

大鳥池(タキタロウ山荘)までこの白い道標が附されていた。また湧き水にはステンレスのマグも用意されている。暫くは背負った水に手をつけずに済みそうだ。

 

 

カメバヒキオコシが沢山咲いていた。亀の尾のような葉の先端が特徴的。

 

 

この日は朝のうち低層の雲が残り、昼前から晴れる予報。二日目は快晴で次第に崩れていくと出ている。太平洋側はずっと荒れているらしい。

 

 

涼しい。新潟同様に、盆地の山形も暑い。前の週に痛い目にあっているだけに「どうなるんだろう」という気持ちが強い。

 

 

一級河川の赤川。過去幾度も大洪水を起こしている暴れ川。そのため悪天時の入山は(光岳の易老渡同様に)慎みたい。

 

 

その赤川に沿って、緩い山道を延々歩いていく。

 

 

冷水沢の吊り橋。単管の上に足を置かないとパネルが跳ねる。

 

 

渡り切るとちょっと雰囲気のいい場所に出る。

 

 

「ちょっくらここで給水するだよ」サル

 

冷たくてうまい水だ。

 

 

二番目の七ツ滝沢吊り橋。ここまで平坦だった道もいよいよ七曲りの山道に。

 

 

九月はキノコの季節。優秀な食用菌のウスヒラタケ。少し下がり気味。

 

 

長い九十九折りの道が始まる。

 

 

なんども曲がっては登る。そのためか「ショートカット禁止」のプラカードが至る所についていた。山肌の崩壊に繋がるからね。

 

 

この造りを軍道と思っていたけれど違うんだね。

 

 

ドクベニタケ。毒です。

 

 

難なくタキタロウ山荘に着いた。

 

 

これが幻の怪魚タキタロウの棲家か。釣りキチ三平は釣りあげていたけどね。

 

 

山荘は静かだった。ここにトイレと水場があるので小休止。

 

「うみゃい!」サル

 

なにかと思えばまたシャインマスカットを持ってきてるよ。くれ!

 

「あげゆ」サル

 

 

大鳥池は山体崩壊がもたらした堰止湖だと言われる。制水門が建設され、利水されている。

 

 

以東岳からもたらされる湧き水が溜められた池の水は綺麗に澄んでいた。

 

 

ここでオツボコース直登コースに分岐する。後者は展望もなくつらい体力勝負なので前者を選択。

 

 

暫くすると斜度は緩んで展望が効くようになる。だがしかし…

 

 

太平洋からの湿った空気をモロに浴びたか、以東岳山頂はガスガス。

 

 

化穴山(左)と甚六山(右)。残雪期限定の化穴山はマイナー12名山の一座。

 

 

おっ。展望がよくなってきたよ。目の前に見えるのは三角峰。山頂は踏まないみたいだ。

 

 

来た道を振り返る。

 

 

実はここからが長い。

 

 

水場に到着。期待できないので偵察せず。

 

 

この後背の山嶺がかつての朝日軍道だ。

 

 

いや~。誰もいないよ。

 

 

山頂はまだまだ遥か先。

 

 

なんども振り返る。

 

コウメバチソウ

 

暑い日が続いているせいか、コウメバチソウ、ハクサンイチゲ、マツムシソウがたくさん咲いていた。

 

 

ちょっとバテてきた。

 

 

「オコジョいないかにゃ~」サル

 

ずっと歩いているけど、なかなか御坪(オツボ)峰につかない。おかしいと思ってGPSを起動させると、なんと過ぎ去っていた。

 

 

これだったのか。そういえば風化した標柱があった。この辺りでガスに巻かれ始める。

 

 

辛うじて大鳥池を撮った。なるほど。確かに熊の敷き皮みたいだ。この後は小さなギャップの連続。『山と高原地図』にはオツボ峰から山頂まで40分と紹介されているけど1時間近くは掛かると思う。

 

 

眺望もないまま山頂に到着だ。

 

 

三角点と標柱は別の場所に立っている。お疲れ!

 

長らく屋根が剥がれて使えなかった以東小屋も2017年9月に新築された。そのため山頂標識には「⇒以東小屋」の表記がない。こんな霧の日は間違って狐穴小屋に進まないように。

 

 

確かに300歩降ったら、霧の中から小屋が浮かび出てきた。

 

 

一回はバイオトイレと管理人小屋なので、宿泊は二階に限られる。都合六箇所の個室があるけど「身長170㎝以下」って書いてある。今時そんな日本人レアだと思うけど。

 

「ここにおる!」サル

 

ちなみにこの小屋は、赤川の守り神様を祀る赤川水神社の社殿がスタートで、避難小屋を兼ねるようになったいきさつがある。なので建替え後も(上の写真のように)神棚が備えつけられているそうな。

 

 

着替えをすませて、まずは昼食を兼ねて宴会をスタート。この日は焼肉だ。初日は豪勢に行きたい。そして残った良い牛の脂を利用してチャーハン。使ったカロリー以上に摂取するのは如何なものか。

 

 

翌日は随所に水場があるが、汲みにおりた(往復15分)。豊富に湧いていてとても冷たかった。思わず顔を洗ってしまった。

 

寝不足なのでシュラフに包まった。夕方四人のパーティが到着。結局僕らを含めて11人となった。平日でこれだから、紅葉シーズンを迎えるこれからの週末は恐ろしい。(※飯豊とは違って朝日連峰ではテント泊は禁止)

 

暫くして眼が覚めた。明るい陽射しに満たされている。外に出てみた。

 

 

ガスが抜けて絶景が現れる瞬間だった。

 

 

化穴山方面の残照が美しかった。明日は間違いなく晴れる。得心した僕は思いのほか冷たい空気から逃れるように、真新しい檜木の香りに満ちた小屋に戻った。

 

(つづく)

 

【一日目の行動時間】 7時間

 

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