華々しき農民画家の系譜「ブリューゲル展 画家一族150年の系譜」 | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

「ブリューゲル展 画家一族150年の系譜」

 

往訪日:2018年2月25日

会場:東京都美術館(上野公園)

会期:2018年1月23日~4月1日(月曜休館)/9時30分~17時30分

 

 

こんばんは。ひつぞうです。先週末におサルの希望をいれて、都内街歩きに

あてました。今回はインフルエンザに罹って行きそびれた「ブリューゲル展」

鑑賞。

 

開場30分前を目処に出掛けた。そんなに混まないと目論んだんだ。

 

「え!でもブリューゲルって『バベルの塔』を描いた画家だよにゃ」サル

 

確かにブリューゲルといえば沢山の名作が頭に浮かぶ。でもね、僕らが知っ

てる「ブリューゲル」って、ピーター・ブリューゲル1世のことで、実はブリューゲ

ルって名前の画家は一人だけじゃないんだよ。そのブリューゲル1世を筆頭に

四世代にわたる画家一族のファミリーネームなのよ。

 

「なんかよく判らん」サル

 

今回の展示は「ブリューゲル」ってブランドを150年かけて確立した画家一族

の歴史と画業をひもとく企画展なわけ。

 

「ふむふむ。で?」サル

 

ということは大作、名作は期待できなくて、小品中心ってことになるね。だか

ら、そんなにミーハーなお客は多くないと考えたのだ!

 

「おサルはミーハーだす」サル

 

「イカロス墜落の情景を伴う三本マストの武装帆船」(1561-1562年頃)

ピーター・ブリューゲル1世

※以下画像を殆どお借りしました.

 

この絵はヒエロニムス・ボス風の版画。下絵のみで彫り師は別人。1世について

の詳しい出生は判っていない。フランドル地方出身と言われているね。若くして

アントウェルペン(英語読みでアントワープ)の画家組合に入り、工房で腕を磨

いた。イタリア旅行を経て「バベルの塔」などスケールの大きい緻密な職人的

な宗教的作品を多く手掛けるようになる。そして、僕らがよく知っている「農民

画家」としての1世の絵は晩年に開花するんだ。

 

「雪中の狩人」(1565年) 美術史美術館(ウィーン)

ピーター・ブリューゲル1世

 

これは今回の作品展には出品されていないけど、特に好きだし、1世の特徴を

よく表しているので上げさせて頂いた。手前に猟師が犬を連れて丘の上から町

を見下ろしているね。その先には氷上でスケートに興じる人々が点景のように

描かれている。こういう技法を「世界風景」って云うんだって。そして奥にはヨー

ロッパアルプスを髣髴させる鋭鋒が天を突いてるでしょ。オランダは田園地帯

の国だよ。んなものある訳ないよね。これは1世がイタリア旅行の道中に眼に

したアルプスが描かれてる。つまり、写実的な農村風景ではなく、1世によって

理想化された風景なんだよな。

 

「ふむふむ」サル

 

で、もひとつ加えておくと遠近法と、滑らかなグラデーションによる陰影法が採

用されてる。ピーター・ブリューゲル1世は農民ばかり描いた庶民的な職業画家

という、ちょっと卑下した評価もあったけれど、実は近代的な絵画技法を熟知し

た教養豊かな画家というのが定説になっているね。

 

「農村の婚宴」(1568年) 美術史美術館(ウィーン)

 

すみません。これも展示されていないもの…。

 

「意味ないじゃん!」サル

 

ピーター1世の農民に向けられた観察眼と卓越した技法がよく表れている絵な

んだよ。物欲しそうな眼差しのバグパイプを抱えた髭面の男。何が面白くないの

か不貞腐れた花嫁。しつこくスープ皿をねぶる子供。婚宴の喧噪が聞こえてくる

ようだ。構図もいいし、薄い重ね塗りによる陰影はイタリア・ルネサンス絵画の研

究が齎したものだろうか。

 

★ ★ ★

 

前ふりが長くなったけど、これらのことをよく覚えておこう。ここでブリューゲル家

の家系をおさらい。

 

                  ピーテル・ブリューゲル一世   

                             |------------¬

                  ピーテル・ブリューゲル二世   ヤン・ブリューゲル一世

                             |------------¬   

                  ヤン・ブリューゲル二世     ○○○○

                        |                |      

                アブラハム・ブリューゲル   ヤン・ファン・ケッセル

 

「判りにく~い!」サル

 

ホントだね…。とにかく1世には同じ名前のピーテルとヤンの二人の息子がい

て、ヤンの子供のヤン・ジュニアがまた画家になって、その更に子供のアブラ

ハム(1世のひ孫)とその従兄弟のヤンも画家になったという訳やね。

 

「や~ん!ヤンばっかり」サル

 

絶対云うと思った…。

 

★ ★ ★

 

以下の二枚の絵を見てください。

 

「鳥罠のある冬の風景」(1565年) ベルギー王立美術館(ブリュッセル) 

ピーテル・ブリューゲル一世

※未出展

 

「鳥罠のある冬の風景」(1601年) 個人蔵

ピーテル・ブリューゲル二世

 

そうなんです。二枚目は親父の作品の模写なんです。制作年代とかを詳しく

書けないんだ。ほんとは。というのはジュニアは親父の作品を何百枚も模写

したんだよ。この「鳥罠」は特に好きだったのか、100枚以上のバージョンが

あるらしい。だから、今回展示されたものと、ネットでお借りした作品が同じ保

証は全くない。多分別ものだろう。微妙に枝の形とか違うもん。

 

ZZZZZZZサルライダー

 

ジュニアの特徴はとにかくオヤジリスペクトで、もうコピーしまくったという点。

職業画家が当たり前の時代であれば、工房でヒットした構図を量産するのは

商売として間違っていない。でも明らかにタッチが親子で違う。模写した時点

で絵からは生き生きしたタッチは消えるものだけど、それ以上に陰影や遠近

感がなくなり、ノペーっとした画風なんだよね。でも工房はかなり繁栄したらし

いから実業家としては成功した口じゃないかな。

 

「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」(1615-1620年頃) 個人蔵

ヤン・ブリューゲル一世、ヤン・ブリューゲル二世

 

他方、弟のヤンは風景画や静物画を好み、特に花をたくさん描いたので「花

ブリューゲル」とも呼ばれるそうだ。合作が多いのもこの時代の特徴。親し

かった巨匠ルーベンスとの合作も多い。得意なパート(オレは人物、お前背

景たいな)を担当したそうな。

 

「ひつぞう、長いよ」サル

 

じゃ、あとはちゃっちゃっとね。

 

「ノアの箱舟への乗船」(1615年頃)個人蔵

ヤン・ブリューゲル1世

 

「花のブリューゲル」も歴史画・宗教画を描いた。今回の企画展の特徴は出品作

が殆ど個人蔵の日本初公開作品。この「ノアの箱舟」も複数バージョンがあるみ

たいよ。1世のコピーだけでも数百点以上あるっていうから、個人にも行き渡るっ

てことかな。

 

 

ちなみにここに描かれた豹がなんか変なんだよね。左側はいいとして、右側

はこれじゃワンコだよな(笑)。猫科の動物はベロ出さないって。恐らく博物学

の画集でデザインを起こし、生態は想像で描いたんだな。若冲のゾウと一緒。

 

親父とまったくタッチが違うのが判る。

 

「聴覚の寓意」(1645-1650年頃) 個人蔵

ヤン・ブリューゲル2世

 

これは孫のヤンの寓意画。線的遠近法と空気遠近法を駆使し、古典的な構図

で描いている。個人的にはあんまり愉しくない。詰め込み過ぎで構成がうるさ

い気がする。もう「ボス風」とも「農民画家」からも完全に独立した画風だな。

 

「果物の静物がある風景」(1670年)個人蔵

アブラハム・ブリューゲル

 

1世が活躍した時代から100年が経過している。17世紀はオランダ貿易が隆盛

を極め、商人=個人が絵画の注文主になった時代だね。だから、画題も静物

や風俗画が増えてくるんだよね。だから方向性も時代に合わせてどんどん変

わっていったんじゃないかな。

 

「む~。なんかどこかで読んだような、観たような…」サル

 

「蝶・カブトムシ・コウモリの習作」(1659年) 個人蔵

ヤン・ファン・ケッセル

 

同じひ孫のヤンの作品。これ大理石に描かれているだよ。緻密な描写には

確かなデッサン力を感じるけれど作家性は既に失われている。だいたいこれ

で四世代の作品を概観した。もうちょっと詳しく観たい方は是非上野に足を運

んでちょ!

 

「運んでちょ!」メタザル

 

★ ★ ★

 

で最後に会場に展示されたこの作品でレポもおしまいにしよう。

 

「野外での婚礼の踊り」(1610年頃) 個人蔵

ピーテル・ブリューゲル2世

 

どうでもいいけど、おっさん達の股間につい眼が行ってしまうよな…(笑)。

この主題の画は1世も描いている。

 

「婚宴の踊り」(1566年頃) デトロイト美術館

ピーテル・ブリューゲル1世

※未出展

 

人物の配置は異なるけど、腰を突き出したおっさんの踊りが一緒だ。1世の作

品の方が人物の表情が生き生きしているし、奥行きも躍動感もあるんだよね。

しかも、不貞腐れていたはずの花嫁踊っているよ。

 

そして同じモティーフでは最高傑作と個人的に決めつける作品がこれ!

 

「農民の踊り」(1568年) 美術史美術館(ウィーン)

ピーテル・ブリューゲル1世

※未出展

 

複数枚のスケッチを組み合わせて描いていると思う。特に左手前の女と幼

女が異様なサイズで、ここだけ遠近感の狂いを感じる。でもその効果でボス

風絵画にも似た不思議な「物語」が読める。

 

ま、どの世界もそうだけど、天才的な家系も時代を経るに従って、少しずつ

「普通」になゃっちゃうってのが一番感じたことだったね。フランドル絵画を

展望するにもいい企画展だった。

 

ちなみにピーテル・ブリューゲル1世の主要作品はウィーン美術史美術館に

常設展示されている。ウィーン旅行を予定されている方は絶対行った方が良

いですよ。

 

 

おサル、そこ触るところじゃないから!
 

(続く)

 

長大な自己満の備忘録におつきあい頂きありがとうございます。