★★★★★ 5.0 (個人的な好みとして)
伊坂幸太郎氏は、私の好きな作家のひとりです。
自分に合う、というわけではないのです。
むしろ、私の中にない、理不尽さや残酷さや道徳、正義感のズレ…
救いのないエピソード…
そういうものが描かれていて、
それは苦手だったりするのですが、
「作り話」と割り切って物語の中に入っていくと、本当に楽しめるのです。
デビュー間もない頃からずっと、読み続けています。
「アヒルと鴨のコインロッカー」は
伊坂氏の作品の中で、私が一番好きな作品です。
さもないとさんがリクエストくださったので、お答えです。
(他にもありますので、それは後日)
物語は、大学生の椎名が語る物語と、琴美が語る二年前の物語の、
2つのパートで進んでいきます。
二人の語る物語の中には、共通する登場人物が何人かいます。
「二年前」に、何が起きたのか。
やがて、物語はひとつに繋がっていく……
本の宣伝に使われていたのは、
冒頭の「一緒に本屋を襲わないか?」という部分なのですが、
突拍子もないこの行動も、理由があるのです。
途中から、ある程度の事が読めてしまって、
切ない気持ちでいっぱいになります。
今、こうして書いていても、涙が出てくるほど、
理不尽な、切ない物語です。
…けれど、なぜか涙の奥に、すがすがしさを感じたりもします。
不思議な読後感です。
おなじみの、作品間のリンクもいくつかあります。
「陽気なギャングが地球を回す」「重力ピエロ」。
短編「透明ポーラーベア」「動物園のエンジン」。
他にも、まだあるかもしれません。
読んだ事のある方は、探してみてください。
これも、映画化されています。
映画化の話を聞いたときには、「どうやって?」と驚きました。
映像にするには無理があるだろうと思えるエピソードがあったのです。
うまく作られていましたが、
私としては、この物語は、小説で味わっていただきたいです。
「アヒルと鴨のコインロッカー」が好きな方、いてくださったらうれしいな…
’03.11 発行
東京創元社