※BGMでも聴きながらお読みください。
365日の紙飛行機 /AKB48
春になった。
歩けない私には、レンタルした電動カートがある。
これまでは、遠くへ行くときは車が当たり前だった。目的地へ向
かうことが優先で、その途中に何があるのか、正直あまり気にし
たことはなかった。
けれど今、私は時速6キロというゆっくりとした速さで、同じ道
を進んでいる。
すると、不思議なことに景色がまったく違って見える。
道路の脇に咲く小さな花。
農道に広がる土の匂い。
これまでただ通り過ぎていた場所に、こんなにも多くのものが
あったのかと気づかされる。
耳を澄ませば、鳥の鳴き声がいくつも重なって聞こえる。
風が木々を揺らす音、遠くで聞こえる人の声。
車の中では気づけなかった「音」が、ここには確かに存在している。
時速6キロ。
決して速くはない。
むしろ、遅いくらいだ。
けれど、この速さだからこそ見えるものがある。
この速さだからこそ、感じられるものがある。
私は時々、自分で決めた場所でカートを止める。
特別な場所ではない。
ただ少し景色が開けている場所や、陽の当たり方が心地よい
場所。
そこでしばらく、何もせずに過ごす。
ただ風を感じ、空を見上げる。
それだけの時間なのに、心がゆっくりとほどけていくのがわかる。
これまでの私は、「何かをすること」にばかり価値を置いていた
のかもしれない。
どこかへ行くこと、何かを成し遂げること。
けれど今は違う。
「何もせずにいる時間」にも、確かな意味があると感じている。
穏やかな時間。
静かな時間。
それは決して無駄ではなく、むしろ心を整えるために必要なも
のなのだと思う。
歩けないという現実は、変わらない。
できないことも多い。
それでも、電動カートに乗ることで、私は「外の世界」とつながる
ことができている。
そして何より、自分のペースで進める。
誰かに合わせる必要もない。
急ぐ必要もない。
ただ、自分の感じるままに、進み、止まり、また進む。
その繰り返しの中で、私は少しずつ「生きている」という実感を
取り戻している。
春の風の中で、今日もまたカートを走らせる。
速くなくていい。
遠くまで行けなくてもいい。
このゆっくりとした時間の中で、見えるもの、感じるものを大切
にしながら、
私はこれからも進んでいきたいと思う。
May be the best year of my life.



















