「 福田恆存対談・座談集 第四巻 」
福田恆存 (ふくだ つねあり 1912~1994)
玉川大学出版部2012年1月発行・より
~ 腑抜けにされた日本の文化 佐伯彰一「文藝春秋」昭和六十二年三月号 ~
佐伯 福田さんの処女作は、浦和高校(旧制)時代にお書きになった戯
曲(「或る町の人」。築地座の脚本募集、選外佳作に入選)だそう
ですが、全集の中では 「横光利一」 が最も旧い。
これは昭和十一年十二月に書かれたものが原型(プロトタイプ)で
すね。
横光といえば、当時最高の人気作家でしたが、相当に手厳しい批
判をなさっています。
福田 横光は、四十になるやならずで、もう志賀直哉のあとの”文学の神
様”といわれていた。
私はこっぴどくやっつけました。
面白いのは、「横光利一」 を書くとき、わたしは 「家族会議」 と
いう彼の作品に出てくる人物の俗物性を指摘した箇所を引用した
わけです。
ところが、そこで引用した文章が、その後の本では見当たらないん
ですよ。
佐伯 作者自身が削ったんですか。
福田 そうなんです。
「負けて勝つと云ふのは、昔は大阪人の云ふことだつたが、今は
東京人のモットーなんだ」
という作中人物の自己優越感を綴った部分を、横光さんは後日、
抹殺しちゃった。
あの小説は作ったものでしょう。その部分がなくなったら最初に彼
が意図したものとはまったく別のものになってしまう。
それに、私が何をいおうとしたか、読者にてんで通じやしない。
今度初めてそのことがわかったときは、ひょっとしたら私が引用を
間違えたのかと思いました。
しかし、自分でそんな文章を作って引用するはずがないしね。(笑)
8月4日 朝霞(埼玉)の花火大会 中央公園にて撮影