米国で金鉱脈を見つけた人は・・・・ | 人差し指のブログ

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「山本七平全対話 4 日本教の社会学 山本七平他 」

山本七平(やまもと しちへい 1921~1991)

株式会社学習研究社 1985年1月発行・より

 

          日本教の社会学   小室直樹 1981.8 『日本教の社会学』(講談社刊)

 

 

 

 

小室   カリフォルニアのゴールド・ラッシュのときに、ヨハン・アウグスト・

      ズーターというならず者が、幸運にもすごい鉱区を発見したんで

      すね。

      

      ところが、ある女の口からそれがもれてしまった。

 

 

      そうなると大変。これを伝え聞いたすべての人が、

      仕事をおっぽり出して彼の鉱区に殺到した。

 

 

      もちろん、この鉱区は、政府の正式の許可に基づく彼の私有財

      産で、他人が勝手に金を採ることは非合法。

 

 

      しかし、明々白々な天下の公法も、金に憑(つ)かれた人々を押

      しとどめることができなかった。

 

 

      彼らは、ズーターの土地を荒らし、これを占拠して自分たちの家

      を建て、必死になって金を採りまくった。

 

 

      ゴールド・ラッシュはいよいよ激しくなるばかりで、ニューヨークか

      ら、またドイツ、フランス、英国、スペインなどからも、投機家の大

      群がおしよせて、ズーターの私有地は、たちまち一つの都市にな

      ってしまった。

 

 

 

 

        他方、鉱区を奪い取られたズーターは、乞食同様になったん

      ですね。そこで、彼は裁判を起こす。

 

 

 

      一八五〇年、カリフォルニアがアメリカ合衆国に編入され、

      合衆国の法が施行されることで、無法の時代は終わったと考え

      たからです。

 

 

      彼は、自分の鉱区から出たすべての黄金に対する権利を主張し

      て、一万七千二百二十人もの人々を告訴した。

 

 

      一八五五年、判決が下って、トンプソン判事は、ズーターの権利

      を全面的にみとめた。

 

 

      さあ、ところが、それからアメリカのデモクラシーを試練するような

      ことが起ったんですね。

 

 

      たちまち暴動がおきて、裁判官は私刑(リンチ)されそうになり、

      ズーターの息子はすべて殺され、彼の全財産は焼き打ちにあっ

      て、彼自身、やっと身一つでのがれたほどでした。

 

 

        この例のように、裁判所の命令が実効性を失い、正当な権利

      が暴民によって蹂躙(じゅうりん)される、

      これこそが、デモクラシーの最大の危機なんですね。

 

 

 

 

 

 

5月11日 光が丘公園(東京・練馬)にて撮影