豚肉を食べない理由 | 人差し指のブログ

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「 古事記と日本人       神話から読み解く日本人のメンタリティ 」

渡部昇一(わたなべ しょういち 1930~2017)

祥伝社 平成16年11月発行・より 

 

 

 

  ユダヤ人は豚を食べない。回教徒もそうらしい。

つまり豚を食べることは彼らには禁忌である。

 

 

私は久しくその理由がわからなかった。

 

 

ドイツ人は一般に豚は牛よりはるかに美味(うま)いと思っているし、シナ料理のメニューを見ても、シナ人は牛よりは豚のほうが美味いと考えられていることが明瞭である。

 

 

それなのにユダヤ人は、なぜこんな美味(おい)しいものを禁忌としているのだろうか。

 

 

生き物は一切食べないというのなら、またそれはそれでわかるが、豚だけを別格に扱うのはなぜだろうか。

 

 

ユダヤ人や回教徒はそれを掟(おきて)として受け取っているので、その理由を問題としないだろうが、われわれには おかしなことのように思われる。

 

 

ユダヤ人は古来多くの賢人を出しているのだから、それに疑問を起こす者はなかったのだろうか。

 

 

 こうした私の疑問は、アメリカで同僚だった史学の教授が、いとも簡単に説明してくれた。

 

 

 「それは豚の肉は羊の肉よりははるかに美味(おい)しい上に、豚の食べるものと人間の食べるものが一致するからよくないのです」

 

 

 「どうしてそれがよくないのですか」

 

 

 「権力者が出れば必ず美味(うま)いものを食べるでしょう。

そして豚が美味いということになれば豚を飼いだすにきまっています。

その豚を太らすためには人間の食べるものが与えられます。

しかし草原は元来食べるものが不足しているのですから、人間の食べるものが豚にとられれば、その分だけの人間が餓死します。

だから豚を食べるのを禁じたのです」

 

 

 「羊肉はかまわないわけですか」

 

 

 「羊は草しか食べませんし、人間は草を食べません。だから羊が人間の食べ物を奪うことになることはないのです」

 

 

 この答えでわたしは十分なっとくした。この説明を私に与えてくれた人はユダヤ人でもなく、いわんやラビでもなかったから、これが正しい説明だとユダヤ人の間に認められているかどうか知らない。

 

 

おそらくユダヤ教徒や回教徒にとっては、それは神の掟(おきて)なのであるから、理性に訴えて理解することなどは必要ないのかもしれない。

 

 

 しかしこの放牧民の豚肉禁忌は、われわれの常識から言っても非常に深い知恵を含んでいるように思われる。

 

 

 

 

 

4月5日 和光市内(埼玉)にて撮影