『 えっ!糸川英夫が 「万葉集」 にいどむ 日本人の脳は万葉である 』
糸川英夫(いとかわ ひでお 1912~1999)
同文書院 1993年10月発行・より
かれらは、ことばで文字を記すとき、右から左へ書く。
英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、それのギリシャ語、ラテン語、ロシア語、すべて左から右に向う。
アラブ語とヘブライ語だけが逆向き。
どうしてだろう? と前々から不思議に思っていた。
アラブ語とヘブライ語だけは、モーゼの時代から右からはじまり、左向き。
きっと、わけがあるにちがいない。
前に私は、アラブの子に算数を教えたことがある。
1 2 3・・・・・ と書いたら、 子どもたちはみんな、3 2 1・・・ と読む。
それでも、足し算のときはまだいい。
掛け算になったら、もうダメ。 完全にお手上げになってしまった。
いくら ”逆転の発想” をしようと思っても、これではどうにもならない。
こと数学に関しては、ヘブライ語の場合は左から右。国際慣行に従っているためだ。
しかし、アラブ語ではその数字も右から左である。
「 なぜ?」 と長老ふうの方にたずねてみて、ようやくわかった。
「 記録というものは、少なくても一万年くらいもたなくてはだめだ。ところが、一万年もつためには、岩に刻みつけるのがいちばんだ。岩に文字を刻むにはどうするか。ノミとハンマーを使う。ノミは左手、ハンマーは右手で握る。右手にハンマーを持てば しぜんに右から左へ打ち込むようになる。
だから文字は、ぜんぶ右から左へ向うのだ 」
「えっ!」 と、私は声を上げ、「なるほど!」 と、同行した人も うなった。
一大ショックである。
(略)
とにかくセム族というものだけが、文字を右から左へ書くということが、実は一万年間記録というものは残すのだという考えにつながっているので、
私は驚嘆したのである。
4月5日 和光市内(埼玉)にて撮影