「ハイエクの大予言」
渡部昇一(わたなべ しょういち 1930~2017)
株式会社李白社 2012年5月発行・より
今は配給制度がどういうものであるか、知っている方々は少なくなりましたが、恐ろしいほどに中央官僚の一部にすべての権力が集まります。
私が知っている例では、通産省にいた佐橋滋氏の話があります。
佐橋氏は終戦直後、通産省の担当課長の判がないと日本中の紙とパルプは動かない時代に、紙・パルプを所轄する課長でした。
その在任中に、某大新聞が通産行政を批判した。
これに対して、「われわれがやろうとしたことを全然理解していない」 と、
この新聞に対して用紙の割り当て増をやめると決めた。
したがって、新聞がどんないい記事を書いても部数を増やすことができない。
その新聞社の社長以下、駆けつ転(まろ)びつやってきて、
三十歳になったかならないぐらいの一課長に平身低頭した。
(略)
日本で本田宗一郎氏が四輪車をつくろうとしたときに、通産次官だった佐橋滋氏がはねつけた一件などは、政策が影響を与えようとした一例でしょう。
新規参入を認めない理由は自動車会社が多すぎるというものでした。
ところが、本田氏は 「あなたの任期は長くて二年。延びても三年だろう。
私は社長だ。何年だってやる」 といって、ホンダは四輪車をつくったといわれます。
そして、1997年の統計を見ると、アメリカで一番売れた自動車はトヨタのカムリ、二位はホンダのアコード、三位がフォードのトーラスですから、事実上、アメリカでは日本の三社が加わって六社の自動車会社があることになる。
つまり、自動車会社は増えているのです。
4月9日 多摩森林科学園(東京・八王子)にて撮影