「人間はなぜ戦争をやめられないのか 平和を誤解している日本人」
日下公人(くさか きみんど 昭和5年~)
祥伝社平成16年5月発行・より
『ニューズウィーク』 に、面白い記事が掲載されていた(1989年6月15日号)。
プリンストン大学のメーヤー教授の学説を紹介しているのだが、
ヒトラーがユダヤ人を強制収容所に入れたのは、彼らを地上から抹殺するためではなかったという。
本来の目的は、ユダヤ人をソ連に移民として送り込むつもりだったという。
ドイツはソ連に占領地をどんどん拡げ、そこにユダヤ人を移民として送り込んで働かせるつもりだった。
ナルホドと思うのは、歴史上の事実として何百年間もドイツ人は
そうして ウクライナ地方へ移住を続けてきた。
アメリカ人は西へ行き、ドイツ人は東へ進んだ歴史を持っているから、
これは自然な発想で、別にナチスだからそうしたというものではない。
しかし、ソ連戦線が捗々(はかばか)しくいかず、
ユダヤ人が収容所に長期滞留しているうちに伝染病が出たり、
食料不足になったりして死んでいったというのである。
ヒトラーが、皆殺しではなく、移住させることを考えたという指摘は、
盲点をついている。
殺すのが目的ならすぐ殺せばいいのであって、なぜ収容所で何年間も食わせておいたのかという疑問が、これで氷解する。
もちろんそれが全部ではなくて、どんどん殺したこともあると思うから、
これは部分的な訂正にすぎないし、あるいはうまくつくったナチス弁護論なのかもしれない。
が、しかしともかく、歴史の解釈にはこういう盲点がいたるところにあるから、通説になっているからといって油断はできない。
もちろんユダヤ人が迫害されたのは歴史的事実である。
しかし、迫害したのはヒトラーだけでなく、フランスでもイギリスでもスペインでも、いたるところでユダヤ人は迫害されていた。
フランスやイギリスにしてみれば、ヒトラーだけが迫害したことになっていたほうが都合がいい。
こうした事情を踏まえたうえで、ホロコーストについて議論すべきであろう。
戦後、世界中に流布した”常識”の中には、アメリカがつくって故意に流したものが山ほどある。
日本人は、その時には嘘だということが分かっていたが、
「負けたら何を言われても仕方がない」 と、反論をしなかった。
しかし、これはアングロサクソンと付き合う方法ではない。
向こうは裁判社会なので、「そこだけは違う」 という部分的な訂正であっても、きちんと訂正すべきだ。
それをしなかったから、若い人には事実が分からぬままになってしまった。
昨年11月29日 青葉台公園(埼玉・朝霞)にて撮影