[新装普及版] 「財運はこうしてつかめ」
渡部昇一(わたなべ しょういち 昭和5年~平成29年)
致知出版社 平成16年9月発行・より
イギリスのアルフレッド・ウォーレスは進化論を発見した人だが(ダーウィンよりも早かったというのは、今では証明されている)、そのウォーレスが 「忘れられた学問」 として残念がっていたものが、二つあった。
一つは骨相学であり、もう一つが催眠術である。
いずれも十九世紀には一世を風靡(ふうび)したが、二十世紀には誰もが振り返らなくなったというのである。
その後、催眠術はジグムンド・フロイトム以後の精神分析によって復活したが、骨相学はいまだに忘れ去られたままになっている。
そもそも、十九世紀ヨーロッパで発展した骨相学というのは、頭蓋骨の形を見ることによって、その人の性格が分かるという学説であった。
といっても、これはオカルトや占いのたぐいではない。ちゃんとした学問である。
骨相学の創始者、ドイツも医師 F・J・ガル はいろんな人の脳を解剖・研究した結果、脳はさまざまな部位に分かれていて、その部位ごとで働きが違うことを発見した。
ガルのやったことは、のちの大脳生理学を先取りしていたと言えるだろう。
それまでは脳の各部分がそれぞれの機能と対応しているという考えはなかったのだから。
さてガルはこうした研究からさらに一歩踏み込んで、
頭蓋骨の形を見れば、脳の形状が分かり、その人の性格までもが分かるという骨相学を創始した。
彼の研究はきわめて論理的なものであったようで、彼はまず脳の精密な地図を作り上げた。
そして、頭蓋骨のどの部分の凹凸が性格や知的活動にどのような影響を与えるかも研究した。
もちろん、人によって頭蓋骨の大きさは違うわけだから、頭の寸法を計れば性格が分かるというものではない。
そこで、相対的なサイズの関係を調べつくして、驚くべき精度で性格や知的傾向が分かる方法を編み出した。
この骨相学はヨーロッパ中に広まった。ウォーレス自身も、骨相学を専門とする医者に二度診てもらったというが、「あとになって振り返ってみると、骨相医が指摘したことはみな当たっていた」 と記している。
しかも、ウォーレスの頭蓋骨を診察した医者は二人いたのだが、その二人とも言うことは同じであったという。
また、ある精神病院で骨相学の医師が患者一人ひとりを診察したところ、その診断は精神科の専門医よりも精密で、しかも正しかったと言う。
骨相学がのちに廃れてしまった原因の一つは、この学問を修得するのがむずかしかったことも大きい。
単に頭蓋の大きさを計るのではなく、あちこちの部位の相対的関係を考慮しなければ判断が付かないわけだから、相当の訓練が必要であったという。
現代の私たちは骨相学とか観相術と聞くといかがわしく感じてしまう。
だが、ガルの骨相学にしても、「天源淘宮術」(その時代の性格矯正術・人差し指) にしても、実際によく当たったのは間違いないわけだから、そこには何らかの真実があったと考えるべきではないだろうか。
昨年11月29日 青葉台公園(埼玉・朝霞)にて撮影