アブナイ外交官が多いぞ! | 人差し指のブログ

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本を読んで面白かったところを紹介します

 

 

 

 

『 「民主主義」 を疑え!』

徳岡孝夫(とくおか たかお 1930~)

株式会社新潮社 2008年2月発行・より

 

 

 

1960年代の話。バンコクへ特派員として赴任した私は、

日本大使館へ挨拶に行った。

大した情報の出どころではないが、まあ表敬訪問である。

 

 

大使室で名刺を出して 「秋には佐藤総理が訪タイされますが」 と会話を試みた。 大使は言下に答えた。

 

 

「あんなヤツ。世が世ならが叩っ殺してやるところだ」

 

 

内心おやおやと呆れた。

だが、この人はこういう物の言い方をするひとなんだろうと善意に解釈し、着任の挨拶だけで帰った。

 

 

いまでもすこし後悔している。オフレコの約束もなかったし、あれは 

「現地の✖✖大使は今秋に公式訪問する佐藤栄作首相を、口を極めて罵った」 と、記事にすべきだった。

 

 

ヘンな大使は、日本だけではないらしい。「ジャカルタ駐在のパレスチナ大使が発狂した」 という小さい記事がアジアの新聞に出ていた。

 

 

リビヒ・アワド氏は六十五歳。

パレスチナ大使の印綬を帯びてジャカルタに来て十四年になる。

 

 

2006年1月に帰還命令が出たが、無視して居座っている。

大使としての職務は、何一つ遂行していない。

 

 

臨時代理大使は 「大使の精神状態には重大な疑問がある」 つまり発狂したとインドネシア外務省に連絡した。

 

 

外交特権を持つ人が大使館を兼ねた公邸に住んでいるから、インドネシア政府は彼を放り出せない。後任はまだ決まっていない。

 

 

インドネシア紙の記者が取材に行った。

大使が言うにはパレスチナの外交官として奉職して三十八年、いまクビになれば食っていけない。

 

 

年金はあるがスズメの涙で、家族をかかえて路頭に迷う身だ云々。

本国政府もハマスが選挙に勝って以来の混乱で、大使の人事まで手が回らないらしい。

 

 

この記事を見て思い出すのは、東京で某国外交官から聞いた打ち明け話である。

 

 

どの国の外交官も、本国からキチンと給料や手当をもらっていると思うな。

 

大間違いです。そんな国は数えるほどで、たいていは辞令一枚渡して 「お前は駐日大使だ。この紙と外交特権を使って適当に食っていけ」 ですよ。

 

 

事実、食っていけるどころか、東京には儲け話が転がっていますからね。

 

彼はそう言った。なーるほど、そういう仕組みになっていたのか。

 

 

 

1961年に採択された 「外交関係に関するウイーン条約」 に基づき、外交官はその家族を含めて、接受国から広汎な特権と免除を受けている。

 

 

税金を免じられているから車に消費税ぬきのガソリンを詰め、胃袋に免税アルコールを詰めて車をブッとばしガチャンとやっても、訴追されず罪に問われない。家に何年住もうが、固定資産税ゼロ。

 

 

そういう特権・免除は、立派な利権になる。

 

 

ヨーロッパに住む北朝鮮外交官は、はじめ免税のオメガの時計を外交行嚢(こうのう)で運び、やがて合成麻薬の運搬に切り換えた。

 

 

それもバレたので偽造の米国タバコとドル紙幣を運ぶようになった。

だが接受国も主権ある国である。

 

 

違法行為の容疑で外交官を逮捕することはできないが、捜査への自発的協力を求めることはある。求められれば応じるのが常識。

 

 

警視庁は東京・銀座でコンサルタント会社 「中国事業顧問」 を営む中国人(五十一)を入管難民法違反幇助(ほうじょ)の疑いで逮捕した。

 

 

中国人少なくとも七十人を、雇用しているように偽装して不法入国させ、謝礼を取った容疑である。

捜査の間に彼が中国大使館の参事官(五十一)と親しく、ネットで 「中国大使館や中国政府機関と太いパイプあり」 と宣伝していたのが判った。

警視庁は参事官からの事情聴取を望んだ。

 

 

留学生などに偽装した中国人の不正入国は、日本の治安を脅かす大きい問題である。

 

日本潜入に当たって、彼らは仲介業者に手数料を払うため、多額の借金を背負う。

それは高利で、取り立ては情容赦ない。

 

 

稼いだカネで足りなければ、日本人から奪うほかない。実例を挙げるまでもないだろう。

 

 

ボロい商売だから、仲介業者間の競争は激しい。外交特権を持つ者を仲間に引き込めば、優位に立てるし安全度もたかまる。

 

 

外交特権を持つ者にとっては、甘い誘惑である。

日本への不法入国は、かつての奴隷貿易と似ていて、儲けがゴツ

 

(略)

参事官は事情聴取に応じるだろうか?中国はこれまで再三、日本の外交特権を侵犯してきた。

 

 

脱北者逮捕のための瀋陽総領事館への侵入。

アジア杯サッカー時の日本公用車への襲撃。

反日デモ隊による上海総領事館などへの投石。

同領事館勤務の電信官を死に至らしめた暗号システム入手に向けた恫喝。

 

みな外国公館や外交官、通信の自由と不可侵などを定めたウイーン条約に反する行為である。

 

 

ここでもし中国政府に警視庁の要請を蹴り続けさせれば、日中関係はもはや対等ではなく、上下の関係になってしまう。

 

 

外交官とは 「国のため外国に嘘をつくために派遣される正直な人」 という有名な定義がある。

 

 

たとえ嘘をつくためでもいい、参事官よ出てこい、ふざけんなよと思いながら、私は成り行きを見ていた。

 

 

 

 

 

昨年 11月27日 平林寺(埼玉県・新座)にて撮影