「聖書の土地と人びと」
三浦朱門・曽野綾子・河谷龍彦
平成13年12月発行・より
本書の単行本は平成八年六月新潮社より刊行された。
<曽野> 石油ショックのとき、ほとんどの日本人は、
アラブというものを知らなかったと思うの。
私も、そうですけれども。それで、アラブのことを少し勉強したんですが、そのとき感じたのは、ああいうことが起こると日本人というのは、アラブの方に一遍に振り子が振れてしまうということです。
あれをきっかけにアラブ嫌いになった人がいたかもしれませんが、圧倒的に親アラブが増えた。
それに対応する形で、ユダヤ反対というのもうんと増えた。
反対なら、まだいいんですよ。はっきり根拠があって。
「イスラエルなんて、興味がない」 という言い方。
某有名新聞のカイロ特派員に 「イスラエルなんて見る気も起きません。
見たいとも思いませんね」 と言われて、私、返事に困ったことがあります。
これで新聞の記事を書かれたら大変なことだと思って、震え上がりました。
ご本人は、悪い方じゃなかったですけれど。
<河谷> 私も体験がありますね。
カイロに長くいる日本の特派員は、やはりアラブの風が血管に入ってくるんです。
このところイスラエルにも特派員が常駐するようになりましたが、その前はカイロの特派員がカバーしていましたから。
<曽野> なるほど。
<河谷> 私自身の反省を込めて言えば、
イスラエルにずっと生活していますと、
頭では否定しながらも、シオニズムの風が血の中に入ってくるんです。
一つの国に長くいるということは、その国にある程度のアイデンティティを感じないと・・・・・という面もあると思うんですが、もう一度、それをひっくり返しして、両方を見る勇気が必要だと思いますね。
5月18日 光が丘公園(東京・練馬)にて撮影