「野垂れ死にの覚悟」
曽野綾子(その あやこ)・近藤誠(こんどう まこと)
KKベストセラーズ 2014年6月発行・より
<曽野> 先生はさまざまな死に立ち合われてますよね。
<近藤> 最後の最後まで、病院で怒鳴り散らしている患者さんもいます。
<曽野> それ、いいんじゃないですか?元気あふれて、怒鳴るのもおもしろいかもしれない(笑) 男ですか?女ですか?
<近藤> 男が多いかな。
<曽野> 怒るんですね、運命に対してね。
<近藤> そう、運命を呪って、なにもかも周りのせいにして、
最期まで怒り狂いながら死んでいく。
女性にも時々います。僕の前では優等生なんだけど、ナースたちが手を焼いて、ほとほと困り果てたりね。
がんだ、再発だ、自分だけ死ぬんだってことが許せないんだろうなぁ。
ちょっと人に気を遣ったら、周りもナイスに扱ってくれるのに。
<曽野> きっと、自分がすべてなんですね。
自分は病院の患者の一人である、たくさんのがん患者の一人であるというスタートポイントに立ちにくいんでしょう。
<近藤> 半分ボケが入っていることも多いです。
人間の脳は本能の部分が最初にあってね。
脳が発達するにつれて知識や理性を司る新皮質ができて、原始的な古いところを抑えています。
ところが新皮質の細胞が脱落していくと、抑制がとれて感情が全開しやすくなる。
「感情失禁」 とも言います。
がんの再発とかわかると、一気にブレーキがとれて本能むきだしになってしまう。
亡くなる間際も、若い人のほうがしっかりしていることが多いです。
<曽野> 若い人のほうがかわいそうなのに。
<近藤> 本当に。そういえば若い患者さんで、わけのわからない態度をとる人は、今まで一人もいなかったなあ。
<曽野> でも私に言わせれば、最期までジタバタするのもいいんじゃないかと思いますけどね。
それも生き方ですよね。
<近藤> ジタバタはいいんだけど、あんまり周りを悲しませちゃいけないですね。あと体力を使わせたり、気力を消耗させたりもね。
<曽野> いやなおじいさんと おばあさんが死ぬと周囲はほっとします。 みんな 「万歳!」。
そういうものいいんじゃないでしょうか?
「良かった。死んでくれて!」 って、素晴らしい幸福を与えられるでしょう。
<近藤> そういうこともありますね(笑)。
<曽野> お通夜の席で、誰も泣くに泣けないでしょうね。
嬉しくて(笑)。
1月9日 光が丘公園(東京・練馬)にて撮影