「膨張するドイツの衝撃」
西尾幹二(にしお かんじ)・川口マーン惠美(かわぐち まーん えみ)
株式会社ビジネス社 2015年8月発行・より
<川口> 先生もおっしゃっているように、ドイツ政府はこれまでホロコースト以外の戦時賠償はしていません。
イスラエルに対する賠償はいわゆる戦争犯罪への賠償ではなく、ユダヤ人虐殺、つまりニュルンベルグ軍事裁判で 「人道への罪」 とされたホロコーストに対する賠償です。
いま、ドイツがギリシャから 「戦時中の出来事に対して賠償金を払え」 といわれている状況は日本のケースと同じように見えますが、決定的な相違点があります。
つまり、ギリシャが問題にしているドイツの戦争犯罪は事実関係が証明されていて、ドイツも認めている。
ところが、慰安婦の問題や南京問題は、事実関係があまりにも曖昧(あいまい)です。
1944年の夏、SS(ナチスの親衛隊)の選抜戦車師団はギリシャ中部のディストモという町で、ゲリラ攻撃に対する報復として赤ちゃんや老人をふくめた218人の市民を殺しています。
ギリシャ国内でゲリラ戦を戦うのは、おそらくすごく困難で、ドイツ軍も必死だったに違いない。
殺さなければ殺されると思ってやったはずです。
そこでギリシャ国内で裁判が行われ、2000年にドイツに対して賠償金を命じる判決が出ました。
ところがドイツ政府は欧州人権裁判所に提訴して、その判決を覆してしまったのです。
イタリアも、やはり同じような裁判でドイツに負けました。
イタリアは、最初、ドイツとともに戦っていたので、置いておくとしても、ギリシャは悔しいでしょう。
でも、ちょっと頭を切り替えれば、ひょっとすると、こちらのほうが常識的な判決かもしれません。
いずれにしても、本当に賠償を受け取る権利があるように見えるギリシャでさえ、70年たてばこうなるのですから、中国や韓国の主張は異常です。
そして日本の対応も、まさに特殊なものだと言わざるをえません。
昨年11月26日 光が丘公園(東京・練馬)にて撮影