「日本の活路」
三浦朱門・渡辺利夫
株式会社 海竜社 2009年7月発行・より
<渡辺> 歴史教育にも大きな問題があります。
アメリカ、要するにGHQが修身道徳と並んで歴史を抹殺したのですけれども、
その後の左翼跳梁(ちょうりょう)の時代にあって、
戦前期の歴史は悪そのものに染め上げられています。
起点はGHQの政策です。先生が今おっしゃったことでふと思ったのですが、
日本を再び軍国主義化させないというアメリカの意図はよく分かる。
しかし、もう一つ、ひょっとしたら歴史のないアメリカが長い歴史を持つ日本に嫉妬したのではないか、
嫉妬感があったのではないか。
僕は昨年、『新脱亜論』(文芸春秋)を書き上げるまで、
一年くらいの間に、少なくとも八重洲ブックセンターで売っている範囲で、
日本人の学者が書いた近現代史の本をできる限り買って、
片っ端から読み上げていきました。
いずれもここ10年かそこいらの間に出版された本です。
ところが、その八割から九割といっていいと思いますが、
いわゆる自虐史観、東京裁判史観、左翼史観で書かれたものでした。
そういう文献が左翼跳梁の時代にいっぱい出たことは、
もちろん言わずもがなで、分かっていることです。
しかし、冷戦も終わって以降に出版された学術書の八割から九割までが左翼史観でくみ上げられている日本のこの歴史学界というのは、いったい何ものかと思いますね。
GHQから解放されてはるかな時間が経ち、
冷戦が崩壊したことも明らかな事実なのに、
そんなことはまるでなかったかのような記述が今日まで続いているのを見ると、
つくづく変な世界だなと思います。
例えば東京大学の、マルクス経済学の労働経済学や厚生経済学の先生のゼミのOBたちが厚労省へ大挙して入っていったわけです。
東大の法学部あたりできわめて理想主義的なフィロソフィーを勉強した学生たちが中央官庁に入っていったのです。
現在のお役所では上に行けば行くほど左翼的です。
(略)
それから半世紀も経って、マルクス主義は完全に潰(つい)えて、システムとしてもう機能しないことが旧ソ連邦や中国の実験により完璧に証明されたこの時期に、こういうものの考え方が日本の体制の主導者の中核の中に埋め込まれ、そこで花開いている。これほど奇妙な光景はありません。
要するに、学生時代のある特定のイデオロギーに染まった秀才たちが、
官僚や大学教授になってもずっとそれを胸中に抱え持っている。
世の中の厳しい変化にもかかわらずですね。
しかも彼ら教員や学生OBは多分に利害関係でつながっていますから。
利益共同体ともいえます。今の厚労省のやり方などを見ていると、マルクス主義的な政策ではないかと思うことがよくあります。
光が丘(東京・練馬)にて11月12日撮影