白タビを白手袋と訳す | 人差し指のブログ

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本を読んで面白かったところを紹介します

 

 

『 「翻訳」 してみたいあなた』

徳岡孝夫 (とくおか たかお 昭和5年~)

清流出版株式会社 2002年1月発行・より

 

 

三島由紀夫の 『宴のあと』 を訳したドナルド・キーンさんに有名な翻訳があります。

 

 

三島さんの小説には吉田茂をモデルにした人物が登場し、

当然のことながら、その人は有名な白タビをはいています。

 

 

それを wearing a pair white socks と訳すのがふつうの翻訳です。

 

 

しかし、それを呼んだ英米人はどう思うでしょう。

 

 

日本の政界の大物がホワイト・ソックスをはいている?

 

 

まるで女子中学生です。バッカみたい。 

違和感を感じずにはおれないでしょう。

 

 

キーンさんは考えました。どうしたと思いますか?

ハイ、白い手袋をはめさせたのです。

 

 

ハカマに白タビをはいている少しガンコで旧式な日本の政治家は、

みごとに英米人に受けいれられるイメージの人間にすりかわりました。

 

 

儀式のときにしかはめない、ちょっと改まった感じのする白い手袋   英語で読んでいる英米の読者は 「なるほど、そういう男か」 と納得したのです。

 

 

これも辞書には載っていない芸当です。

 

 

どんな和英辞典が 「白タビ」 に white glove という訳を与えているでしょうか。

 

 

和文英訳としては明らかに誤りです。 

だが翻訳では、絶対に white socks であってはならないのです。

 

 

11月12日 光が丘(東京・練馬)にて撮影