『 「翻訳」 してみたいあなたに』
徳岡孝夫(とくおか たかお 昭和5年~)
清流出版株式会社 2002年1月発行・より
日本の学者には、昔からこういう悪い習慣がありました。
助手が一生懸命に書いた論文を、教授の名前で発表するのです。
下訳もそれと同じ。出版社のほうは、有名な先生の名前が付いているとよく売れるから、こういう悪習を黙認します。
悲しいかな、誰も知らない名前では、たとえ何野何子さんの訳が名訳でも、売れないのです(もっとヒドイのになると、使うだけ使って一銭も払わない先生もいますが、これは例外です)。
(略)
ある有名な経済学者が翻訳し、ベスト・セラーになった本に「ツーリン」や「ミラン」という地名が何度も出てきます。
もちろん Turin と Milan をそのまま訳したのです。
これは両方ともイタリアの大都会。トリノとミラノと訳さなければなりません。
ついでに脱線しますが、前に書いたように日本の翻訳者には偉い先生の 「名義貸し」 が非常に多い。
弟子が翻訳した本に黙って自分の名前をつける悪い教授(出版社がそう要求するときもある)もいれば、
あとがきに 「何野何子嬢にはお世話になった」 とだけ書いてあるが、
実際はその何野何子さんが全部訳したという場合が珍しくないのです。
ツーリン、ミランも、偉い先生は忙しくて原稿を見るヒマもなかったのでしょう。
それでいて、本が売れれば翻訳料は大部分はその先生のポケットに入るのですから、なんのことはない、翻訳料のピンハネですね。
<人差し指のあてずっぽう>
「ある有名な経済学者が翻訳し、ベストセラーになった本」 というのは都留重人が翻訳したガルブレイスの 「不確実性の時代」 ではないでしょうか、この翻訳については別宮貞徳がコテンパンにやっつけたので文庫本では別の学者が翻訳したそうです。
11月7日 青葉台公園(埼玉・朝霞市)にて撮影