「日本人への遺言状」
渡部昇一・日下公人
株式会社李白社 2016年2月発行・より
<渡部> 前にお話ししたスイスにいる私の孫娘など、安部さんがオリンピックを招致するときの演説をテレビで聞いていて 「感心した」 といっていました。
彼女はジュネーブの大学に入ったところで、古代ローマの歴史を習っていたようです。
そのせいもあって、私への手紙のなかで 「演説の構成が大雄弁家のキケロとそっくりだ」 と書いてきました。
私は、安部さんを褒める人はいるだろうけれど、その英語の演説をローマの演説家と比べる人はいないようだろうと思いましたので、その手紙のコピーをお送りしました。
すると、さすがに安部さんも喜ばれまして、返事をいただきました。
その返事を娘
(略)
<日下> 私は以前、麻生さんを自宅にお招きしたことがあります。
有名漫画家を夫婦で二十人ほど集めて、「一晩、漫画とアニメの話をしませんか」 と誘ったところ、二つ返事で来てくださいました。
大に盛り上がって、麻生さんはたいそうご機嫌でした。
その後、お礼状が届きましたが、それにはビックリ仰天してしまいました。
巻紙に筆で書かれているのはともかく、「昨晩はほんとうに楽しかった。私は政治家になって十何年たちますが、その間、いかに世間が狭くなっていたかがわかりました」 と書いてあったんです。
それにビックリしたわけです。
政治家になり、大臣になり、首相にもなれば、世の中が広くなったと思うのが普通ですが、麻生さんの手紙には 「世間が狭くなっていたことに気づきました 」 と書いてありましたから、ああ、いい感性をしているんだなと思った次第です。
育ちがいいから感性が歪んでいない。パッとひらめく直感力もある。
麻生さんはべらんめえ口調だから誤解されることもあるようですが、本質的にはかなり率直で素直な方だと思います。
<渡部> 安部さんも相当の読書家です。いわゆる受験の参考書はあまり読んでいなかったかもしれませんが、本はじつによく読んでいらっしゃいます。
いまの政治家たちを見回してみても頭一つ上に抜け出しています。
光が丘 四季の香公園の薔薇(東京・練馬)5月9日撮影
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